第13話 初めての友達

「レースが終わったら、そのまま学園に移動して入学式だと書いてあっただろう? 入学式なら君が眠っている間に、予定通りに進んで無事に終了した」


「じゃ、じゃあ他の子たちは……?」


「クラスの顔合わせも済んで、もうみんな寮に行ったよ」


「そ、そんな……」


 出遅れたぁあああああああああああああああああああああああああああああああ。


 学校生活で一番肝心な初顔合わせのタイミングを逃しちゃうなんてっ!


 希望が一気に絶望に塗り替わる。どうしよう、このまま友達ができなかったら! 卒業までボッチなんてわたしには耐えられない! 


「終わった……。わたしの、学園生活…………」


「いやそう悲観しなくても……。それに、一人だけ君のことを待っている子がいるよ」


「え?」


 シフア先生は椅子から立ち上がると、カーテンを横にスライドさせた。


 すると、カーテンの向こうに立っていた一人の少女の姿が露わになる。


 金色の髪を後頭部で一房に結ったその綺麗な女の子は、申し訳なさそうに俯いて立ち尽くしていた。


 アリシアだった。


 服装は制服に着替えたんだろうか。白地に青色のラインが入ったブレザーで、とてもよく似合っている。でも、どこかで見覚えがあるような?


 とにかく、何か話しかけないと。


「アリシ――」


「その節は大変申し訳ありませんでした」


 アリシアは両膝をついて腰を折って額を床に押し付けた。


「ちょっ⁉」


「煮るなり焼くなり好きにしてください」


「かしこまりすぎだよっ‼」


 慌てて飛び起きて、アリシアの傍に駆け寄って体を抱き上げる。頭が物凄く痛いけどそんなことは気にならなかった。


「ごめんなさい、ミナリー。あたしのせいで、あなたに大変な思いをさせたわ」


 顔をあげたアリシアは泣きそうになっていた。


 わたしの箒のコアが壊れちゃったことを知って、責任を感じているみたいだ。


「大丈夫だよ、アリシア。わたし、試験に合格したよ? アリシアがそんなに責任を感じることはないってば」


「でも、ぎりぎりだったじゃない。あたし、見ていて間に合わないと思った。でも、あんたは最後まで諦めてなくて、魔力切れになるまで全力を振り絞ってゴールした。本来なら、もっと簡単にゴールできてたはずなのよ!」


「それはそうかもだけど……」


 実際のところは、わからない。あのままアリシアについて行ったら、もしかしたらゴールまで辿り着けずに魔力切れを起こしていたかもしれない。他の人の魔術に妨害されていたかもしれない。


 無事ゴールまで辿り着けたのには、出遅れた分だけ他の人と競う場面がなかったことも要因だったと思う。魔術も日常生活レベルしか使えない。魔力シールドなんて張り方すらわからない。そんなわたしがゴールできたのは、最下位だったから。


 そういう見方もできると思う。


 それに何より、


「アリシアと出会えたから、わたしはきっと合格できたんだよ」


「何言ってるのよ。そんなわけ」


「だってわたし、試験会場間違ってたし。アリシアとぶつからなかったら、気づかなくて試験に遅れちゃってたよ」


「…………それは、そうね」


 アリシアとの偶然の出会いが、わたしを導いてくれた。箒のコアが壊れてしまったことも、優しい先輩に助けてもらえたことも、無事に合格できたことも。


 お姉さんに箒をもらった瞬間から幾つもの偶然が積み重なって、わたしはいまここに居ることができている。


 それをより実感したくて、アリシアをぎゅっと抱きしめる。


「入学式では会えなかったけど、これから一緒の学校に通えるね、アリシア」


「……うん。合格おめでとう、ミナリー」


「これからよろしくね」


「もちろんよ」


 わたしとアリシアはお互いに顔を見合わせて、照れ臭くってくすくすと笑いあった。

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