再びダンジョンへ4

だらりと剣を垂らしていた騎士がこちらへ一歩踏み込んでくる。


(切り上げ!)


かなりの刃渡りを誇る剣だが、後ろに飛ぶ事でギリギリ回避する。片腕での斬撃でなければ当たっていただろう。

しかし、切り上げた剣を両手で握りなおすのを見て次の攻撃は躱せないと悟る。が、


「へいへーいそっちばっか見てないでよ!」


エルが膝を蹴ることで騎士の体勢を崩し、そこに矢が飛来し剣が手から離れる。

いやいや、どうして不規則な動きの中で正確に当てられるんだよ。


「けど助かったぁ!」


その数秒でこちらの体勢を立て直すことができ、対し騎士は武器まで手放しておりチャンスと言えた。


「【加速】ッ!」


先程首を薙いだ時は際にすり抜けたと言うことは中身が無いんだろう。なら狙うのは鎧の方だ。

剣を両手で握りしめ、加速した速度で思い切り兜に叩きつける。


「ぐっ!」


壁でも叩いたようで剣を持つ手の方がおかしくなりそうだ。視界の端でHPが減少したのが分かった。


(手が動かない・・・。)


距離を取るために鎧の胴を蹴りつけ、その反動で後方へと跳ぶ。剣を落としこそしなかったが暫く振ることどころか、しっかりと握ることも難しいだろう。


(空気か硬すぎるかって極端すぎるだろ!)


しかも、叩いた時の音を聞く限り中身は空洞だったため弱点の見当がつかない。内も外も駄目・・・いや、物理攻撃が通らないだけか?


「物理以外!」


「僕ですね。」


またフェルズか。


「無、風、氷!」


「攻撃術使えたの?」


「聞かれなかったから・・・。」


「なんでもいい、俺とエルが隙を作るから攻」


次の瞬間、騎士の頭に光る矢が直撃し、兜が俺の方に飛んできた。


「撃・・・えぇ・・・。」


兜の後頭部が半分ほどへこんでいる。


「隙だったのでやりました。」


隙・・・いや隙か。しかし、頭を失っても消える様子が無い。


「まだ生きてるぞ!」


よろめいた騎士の鎧、その内側に光るものが見える。明確に弱点だとわかるものだ。


「メイト!凍らせろ!」


「えぇーい!」


騎士の足元が凍り付き動きが止まる。剣を突き出そうとしたところで手が動かないことを思い出した。


(しまった・・・!)


痛みが無かっただけに完全に頭から消えてしまっていた。折角のチャンスを・・・。


「自分の状態くらい自覚しておきなさいよ。」


天井から声と共に短剣が降ってきた。


「ストレちゃーん!」


その短剣が綺麗に鎧の内側へと吸い込まれていき、中で爆発した。


「・・・ストレも大概おかしい・・・。」


「ねー。まともなの実は僕とアルだけなんじゃない?」


「そんな気がする・・・。」


「失礼なこと言わないでよ!あたしは店に売ってる武器使っただけよ!」


「その武器を選択するのがなぁ?」


「僕だって使える技能を素直に使っているだけですよ。」


そういう問題じゃないんだが・・・とりあえず置いておこう。

騎士の鎧が砕け消えていくのを確認し、軽口を叩きながらも警戒していた意識をゆっくりとほぐしていく。


「強敵感出しながら出てきたからどんなのかと思ったけど、物理効かないだけだったね。」


「それでも構成によってはかなり厳しいですが。」


「偏らせる方が悪いんじゃない?これで心術士の重要性がわかったでしょ!」


「どっちかっつーとフェルズの万能性とストレの的確な攻撃かな。」


「むー!またフェルズ!あほ眼鏡!」


「眼鏡ですがアホではありません。」


「もうフェルズと比べたらダメなんじゃない?とりあえずフェルズに任せておこうか。」


「お任せください。しかし、殴られたら即死にます。紙ですし、そこまで素早くもありません。」


そりゃそうだろう。そこまで攻撃に偏重しておいて防御まで万能なら本格的に俺たちの立つ瀬がない。

完全なアタッカーは防御に優れる前衛がいてこそ輝ける。


「まだ色々と隠していそうだが・・・今はそういうことにしておこうか。」


「そうしておいてください。それでは前衛は今後もお願いしますよ!」


「お前性格変わってねぇ?」


「気のせいです気のせい。さ、先に進みましょう。」

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