第20話 モテ男のアドバイスは有用でした。
先生とのLIMEは、送ってみれば案外続いた。
神崎のアドバイスがかなり大きくて、こっちから相手の好きなものについて訊けば、割とぽんぽんと返事が返ってくる事がわかった。さすがモテ男、これから女の子の事はあいつに訊く事にしよう。
とりあえず、先生は漫画では最近大流行りの『鬼殺の刃』にハマっているらしい。アニメから爆発的に火がついて、コミックの発行部数が歴代漫画でナンバーワンとなっているあれだ。俺はどちらかと言うと天邪鬼気質なので、皆が好きと言っているものは読まない主義なのだけれど、先生が面白いというなら読んでみようかな、等と思わされるのだった。自分の単純さには呆れるばかりだ。
(あ……秋に劇場版が公開されるんだ、鬼殺)
ふとスマホで情報を探していると、劇場版の情報を見つけた。
(……ご褒美に一緒に映画見に行ってもらうとか、ありかな)
結局またご褒美に頼ってしまうところが情けないのだけれど、これはOKされなかった時の精神的ショックを緩和させるためのものである。先生は……なんだか、ご褒美を通せば何でもOKしてくれそうな気がするのだ。
でも、そんな彼女を見ていると、少し不安にもなってくるのだ。
あの押しの弱さ……もし、例えば誰か別の男に押しに押されてしまえば、交際もOKしてしまうのではないだろうか。
(女子校育ちで男性慣れしてないって言ってたけど……大学ではどうなんだろ)
明大と言えば、割と飲み会などが盛んな大学と聞いた事がある。もしそんな飲みの席で強引に迫られて、あの人がそれを拒絶できるとは思えないのだ。
(今まで……どれくらいの人と付き合ってきたのかな)
どれだけの男が先生を知っていて、どれだけの男が俺の知らない先生を見ているのだろう。
いや、俺の知っている先生なんて、本当に一部だ。学校ではどんな風なのか知らないし、先生じゃない時の先生がどんなものなのかもわからない。
俺は彼女について、何も知らないのだ。
わかっている事は、男性慣れしていなくて女子校育ちで、怖そうな人が苦手で、鬼殺の刃が好き……な事くらい。
(って、これ何も知らないに等しいじゃねえか)
箇条書きするまでもなく、知っている事があまりに少なすぎた。
俺は、先生についてどれだけ知っていいのだろか。彼女はどこまで俺を入れてくれるのだろうか。
そして……
(俺以外とも、簡単にキスしたり、すんのかな……)
考えただけで嫌になる。嫉妬に狂いそうになって、死にたくなる。
先生がそんな女ではないと信じたくない反面、じゃあどうして俺には何でもご褒美で許してくれるんだという疑問が残る。俺が先生にとって、それだけ特別な存在にはなり得ないのだから。そこの矛盾について考えると、いつも不安になってしまうのだ。本当は俺なんて、何も特別な存在じゃないんじゃないか、と思えてならない。
そんな事を考えていると、ピコンとLIMEの通知が鳴った。先生からだ。
『次の授業の時、鬼殺のコミック持って行ってあげるね! でも、ハマり過ぎて勉強の邪魔になってもダメだから、貸すのは二冊ずつだよ』
両手で×マークを作っているあざらしのスタンプが添えられていた。
その文字を見て、思わずニヤけてしまっている自分に気付いて、両手で顔を覆う。
(こんなんでニヤけんな、バカ野郎~!)
ほんの少しだけ先生に近付けた気がして、それだけで嬉しかった。
もっと……もっとたくさん知れたらいいのに。
でも、知り過ぎたら、きっと知りたくない事も知ってしまうわけで……人間って矛盾の塊だよな、と思ってしまうのだった。
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