3-3.
ハイアは目をつぶり瞑想した。
二人の若者の背中を見送った後、部屋にこもった彼は、改めて彼が記した書の内容について考えていた。内容は無論、次期の村長についてであり、遣いに送り込まれた二人の若者のどちらを推挙するか、意見を求めるものだった。ケイグランの伽藍把の力は良く理解しているし、フェイブルのことも幼い頃から伝え聞いていたので、信頼できる人柄であることは承知していた。
それにしても年寄りに大役を任せるものだ。ハイアは一人ごちた。全権委任ではなく、あくまで意見を聞きたいとの依頼だったが、重要な参考にさせてもらうと付記されていれば、ハイアの肩にかかる責任も重くなる。すくなくとも本人はそう感じた。若者の世代に変わろうとしているのに、老人の意見がどれほどの意味があるものかと思いはしたが、村長という大役には若さだけではなく老齢の目からみた評価というのも重要なのであろう。
ハイアは二人の若者の顔を再度思い浮かべた。ケイグランはハイアの教えたことを良く理解している。自然とともに生きることの重要さを。伽藍把の力も強い。人柄も申し分ない。この一年で、優しくて素直な青年になった。しかし、当たりの良い人柄だけでは村長は努まるまい。長ともなれば、場合によっては対抗する勢力を排する冷酷さも必要であろう。今回の件で、村の中には対立する二つの勢力という構図が出来上がってしまった。あいつには、片方を抑えつける真似はできまい。
フェイブル=ビストノートなら出来るだろう。あの冷静さと判断力をもってすれば、村のために必要なら対する勢力を更迭することも厭わないだろう。それが彼自身の心の本意であるかは図り知れぬが、事実関係から客観的な判断を下す能力にはフェイブルは長けている。しかし切れ者は時として疎まれる。特にアルゴのような田舎の村にあっては。フェイブルの物の考え方はむしろ前衛的だ。そのような考えをもった若者が、村人にどのように受け入れられるのか、ハイアには気がかりだった。
ハイアはこれらのことを鑑みて、「村の政に意見するのは本意ではないが」と始まる文をしたためて彼なりの意見を書き送った。自分の仕事はここまでだ。最終判断を下せるのは、結局村の民自身でしかない。物事は結局なるようにしかならない。決して「なるようになれ」といった自棄的発想ではなく、自然の摂理に従って物事が進むのが、つまるところは理想的なのだ。それに…………
「どちらが村長になったとしても、反対勢力を押え込む要素は必要なのだ。果たしてそれがあるだろうか」
ハイアは声にだして自問してみたが、答えは今のところ見つからない。どちらにしても、二人の若者にとっては試練の時がしばらくは続くことになるかもしれない。
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