第25話 手の正体

 新月の夜が明けて、朝を迎えた。


 狛六が用意してくれた朝食を食べて、朝風呂に入ってからまた、青龍の高原を目指して歩き始める。

 よく晴れている朝だ。

 昨日と同じルートを通ってはいるが、見えている景色が全然違う。


「こんなによく見えるなら、明るくなるのを待ってからの方がよかったな……」


 これだけ明るければ、あの式神たちの姿もすぐに見えるだろう。

 もう女湯に戻されるのはごめんだ。

 あの手が出て来る前に、なんとかしなければ。


「この辺りだね。僕たちがあの手に足首を掴まれた場所は…………」

「そうだな…………昨日はよく見えなかったけど、この辺りから地面の色が少し違う」


 夜だと絶対に気がつかない。

 あの式神たちがいるエリアの方が、若干色が濃い。

 雨は降っていなったが、そのエリアだけ表面が乾ききっていない感じだ。


「僕が先に行ってみるよ。不本意だけど、おとりになろう……」


 ユウヤは一歩前へ足を踏み出して、色の違う地面の上を歩いた。

 俺と刹那は、手が出て来る瞬間を狙う。



 二歩、三歩と、ユウヤは比較的ゆっくりと歩いていく。

 手が出て来るタイミングはバラバラだが、出て来るときに必ず、音がする。

 川の流れる水の音で、近くまで来ないと気づくことはできないが、観察していればわかるはずだ。



「颯真、あそこ……!! 土が少し盛り上がって、動いてる!!」

「ああ、あそこだな…………」


 式神に気づかれないように、小声で話した俺たちは、地面の中を這う何かを目で追った。


「もう3匹いるな…………いや、4匹か?」


 土の中を移動するそれは、徐々に増えていき、ユウヤの背後に忍び寄る。


 ズズズっと音を立てて、地面から手が伸びる。

 人間の手と同じ、5本指の手が一本、ユウヤの足首を掴んだ。



「今だ!!」



 ユウヤは引っ張られる前に、逆にその手を足首から剥がして、思いっきり上に引っ張った。



「出てこい!! 話をしようじゃないか!!!」


 ユウヤに地面から引き抜かれたその式神は、かぶの体に、人間の腕が2本生えた妖怪だった。


「気持ち悪っ!!!!」


 離れて見ていた俺は、思わずそう口に出してしまった。


 その引き抜かれた蕪を地面に引き戻そうと、別の蕪が手でその体を掴み、さらにその蕪を別の蕪が掴み……と、芋づる式でズルズルと地面から出て来る。

 そうして地面から出て来た5匹の蕪は、暴れながらユウヤに抵抗を続ける。


「大きなカブの逆バージョンみたいね…………」


 刹那はその様子を見てそう呟いた。


「ちょっと、二人とも!!! 見てないで助けてよ!! 結構なチカラの強さだよ!!?」



 助けを求めるユウヤの元へ駆け寄り、一番下の蕪を掴んだ。




「おい、蕪。話をしよう。ばあちゃんの…………呪受者・飛鳥様の話だ」


 ばあちゃんの名前を出したら、ピタリと動きが止まった。

 そして、その蕪から腕が生えているという気色悪さで気がつかなかったが、こいつら……全員目と口がある。


「我があるじの話だと——————……?」


 5つの緋色の瞳が、一斉に俺を見た。








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