第20話 憑代

 文王の丘で、倒れていた俺たちは、春日様のめいを受けて後から来た里の者達に背負われ、狛七達とともに一番近くにあった神社に運ばれて、社務所で手当を受けることになった。


「全く! 呪受者様のくせに、封印の仕方を知らないなんて! 信じられないですよ!!」


 文王の丘を守っていた獅子は、小学生くらいの女の子に擬態して、布団から動けない俺の周りをぐるぐると回り、文句を言い続けた。


「しかも逃げられた! どれだけ頑張って守ってたと思うんですか!? やっと来たと守ったら、全然ダメじゃないですか! 守ってたボクまで吹っ飛ばすし!!」

「面目無い…………それに関しては本当に、ごめんなさい」


 まだまだ勉強不足なんだ。

 情けないことに。


 春日様にもらった翡翠のピアスのおかげで、なんとか力のコントロールはできてたはずなんだけど…………まだ体が自分の力に慣れていないんだ。

 全力を出してしまうと、その反動で動けなくなる。



「もっと修行してください!」

「はい……」

「あのまま、狛七が消されていたらボクも呪受者様を呪っていましたよ」

「これ以上やめてくれ。玉藻の呪いだけで十分だ。……それより、狛七は大丈夫なのか?」


 狛七は憑代さえ直せ戻れるそうだが、バラバラにされた部分の欠損が激しく、しばらく別の憑代を用意しなければならないらしい。

 俺たちを運んだ里の者たちがそう話しているのを聞いた。


「大丈夫ですよ。今そこで寝てるでしょ?」

「そこ?」


 獅子が指をさしたのは、俺の腹の上だった。


 小さな……手のひらサイズくらいの白い子犬……の、ぬいぐるみが寝ている。



「え? これが?」

「狛七です」


 狛七は大型犬よりも大きいくらいのサイズだったのに、だいぶ小さくなっていた。


「そう……か。ごめんな、狛七」


 俺はそっと、狛七の小さな頭を指で撫でた。




 * * *





「もう体は大丈夫か? 颯真」


 翌朝、里に戻った俺とユウヤを見て、春日様は玉藻に逃げられたことを攻めることはしなかった。


「はい、ご心配をおかけしました……」

「封印の任務には行けそうかい? 一応、今日中に封印の仕方を教えて、明日には出立してもらうことになるさね」

「はい……」


 春日様は優しい人だ。

 ばあちゃんと一緒で、俺を叱りつけたりはしない。


「ちゃんと士郎叔父さまの話を聞いてないから、いざって時使えないのよ。しっかりして。持ってる力は本物なんだから……」


 刹那は怒りながらも、俺たちのことを心配して言っている。

 口と足癖はわるいけど、里のことを一番に思ってるのは刹那だ。


「まぁまぁ、刹那、俺の教え方が悪いのかもしれない。そんなに怒るな。怖い思いをしたのだから」


 士郎さんも、ちょっと突拍子もないことをしたりする人だけど、ちゃんと俺のレベルに合わせてくれている。

 大切な師匠だ。


 里の人たちも、最初は好奇の目で俺を見ていたが、今ではなんてことない。

 まるで生まれた時から俺はここで育ったような、みんな家族のように接してくれる。



 ここへ来て二年。

 右目の呪いが覚醒して二年経った。


 俺にとって、大切な人たちがこんなにたくさんいる。

 俺がいるせいで、妖怪たちに殺されるかもしれないのに、みんな俺を信じて守ってくれている。


 だからこそ、玉藻を復活させるわけにはいかない。

 絶対に止めてみせる。

 今度こそ、絶対に。











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