第130話 奉納舞

「私が、今度の奉納舞を踊るのですか?」


「聞いたよ、木原さんは日本舞踊をやっているそうだね。奉納舞は葛山さんもやっているんだけど、参拝客が増えたおかげで規模が大きくなってね。踊りの経験者は大歓迎なんだ」


「いいですよ。人前で踊る経験を積めますから」


「ありがとう、特別手当を出すから」


「やったぁーーー! 新しい着物の代金を貯金できる」


「ああ、日本舞踊ってお金かかるんだっけ?」


「そうなんですよ。で、今回は何人で踊るんですか?」


「実は、両神社の古い資料に、男女で踊る新しい奉納舞の解説が書かれていてね。葛山さんと木原さんと、男子二名で合計四名だね。規模を倍にすると考えてくれればいい」


「男女でですか」


「男女のペア二組ってことで。この奉納舞は、資料どおり踊る予定だから。それで、早速今日から練習に入ってくれないかな。練習してる間はちゃんと時給が発生するから」


「わかりました」




 夏休みに入り、神社でアルバイトをしていたら、上司である神職のおじさんから、奉納舞に参加してくれという依頼を受けた。

 私が日本舞踊をやっていると両親から聞き、白羽の矢が立ったみたい。

 練習している間は時給が発生して、奉納舞当日は特別手当が出ると聞き、これで新しい着物を買う貯金ができると、私は大いに喜んだ。

 大会に備えて、人前で踊る経験も積めるから。

 早速、神社の裏手にある広場に向かうと、そこではすでに三人の男女が奉納舞の練習をしていた。


「遅れました……あっ!」


「えっ? 四人目は木原さんなのか。そういえば、木原さんは日本舞踊を……」


「広瀬君は、どうして私が日本舞踊やっていることを? もしかして私を狙っている?」


 まさか、奉納舞に参加する男性の一人が、プレイボーイの広瀬君だなんて。

 でも葛山さんもいるから、きっと二人がペアを組むはずよね。

 私は、若い男性神職さんと組めば問題ないわ。

 と思っていたら……。


「お兄ちゃん、ちゃんと練習している?」


「それは勿論」


「今回の奉納舞は、両神社と結界を強化する大切なものだものね。でも、お兄ちゃんが舞を踊れるなんて知らなかったよ」


「さすがに里奈には勝てないけど、これでもそこそこ踊れるんだよ」


「へえ」


 広瀬君って、妹さんがいたのね。

 綺麗な銀色の髪が特徴の、とても可愛らしい子だ。

 もしかして、私のように両親か祖父母が外国人なのかしら?

 ああ、広瀬君のご両親は典型的な日本人だったわね。


「私が踊ってもよかったのに」


「銀狐はまだ小さいから駄目だって、竜神様たちから言われたじゃないか」


「残念。もっと大きくなって、お兄ちゃんのお嫁さんになれるくらいになったら一緒に踊ろうね」


「ええっーーー!」


「このお姉ちゃん、突然どうしたの?」


 まさか広瀬君が、こんな小さな女の子とまでつき合っていただなんて!

 プレイボーイだとしても、女性の好みの幅が広すぎるでしょう。


「もしかして、このお姉ちゃんもお兄ちゃんのお嫁さんになるの?」


「なりません!」


 私が、広瀬君のお嫁さん?

 こんなプレイボーイな人と結婚したら苦労するだけなので、それは絶対にあり得ないわ。


「そうなんだ。でも、今回の奉納舞。ペアは、お兄ちゃんと、この金髪のお姉ちゃんだよ」


「ちょっと銀狐! 私じゃないの?」


「その方が相性がいいって、竜神様たちが伝えてくれって」


「あの二人……」


 竜神様?

 きっと私の聞き間違いで、なにかしら両神社に伝わっている基準でペアが決められてしまったようね。

 ただ広瀬君と一緒に踊ればいいだけだから、私の貞操は安全なはずよ!

 もしもの時は……竜神会に、セクハラ相談窓口は存在するのかしら?

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