第127話 夏休み
「あそうそう、実は明日から夏休みだから」
「中村先生、みんな知ってるけど……」
「いいか! この夏休みで私は運命の出会いをするつもりだから、夏休み中に騒ぎを起こさないように! 呼び出される担任教師の身にもなってみろ!」
「はあ……」
「まったく、補習は行わないといけないってのに……佐藤! 竹川! せめて赤点くらいは回避してくれ! ここは進学校ってわけでもないんだから!」
今日は、一学期の終業式だった。
教室で中村先生から成績表を渡され、夏休みを迎えるにあたっての注意すべきことを聞いていたのだが、その内容の大半が『自分は婚活で忙しいので、なにかやらかして担任が呼び出されるような事態は避けるように』と、『赤点になったクラスメイト死ね!』であった。
間違ったことは言っていないけど、なんかモヤモヤするな。
「しかし、広瀬は赤点ではないんだな。というか、お前……どうして学年トップなんだ?」
「不思議ですねぇ」
「本人が不思議って言うなよ……」
レベルアップで、知力が上がった影響だけど。
よく菅木の爺さんからバカ扱いされるが、あれだけ知力が高ければ、一回教科書を眺めただけですべて覚えてしまうのだから当然だ。
実際、試験勉強なんて一秒もしていなかったんだよなぁ。
除霊師としての仕事が忙しいから。
「清水が二位、相川が三位、葛山が四位、望月が五位で、葛城は二年生で一位って……除霊師って、特別な勉強方法でもあるのか?」
「どうなんですかね?」
除霊師だからというよりも、レベルアップの影響だからなぁ。
実際、バカな除霊師も存在するのは、岩谷彦摩呂を見ればあきらかだ。
ただ、彼は東大出でルックスもいいから、世間では大きく評価されているけど。
逆に言えば、高学歴の除霊師が少ない証拠でもあるのか。
頭のいい除霊師というのは多く存在するが、必要がないので大学に進学しない人が多いからなぁ。
その分、除霊に関する資料を読み漁ったり、修行した方がいいという現実があったからだ。
安倍一族などの歴史が長い除霊師一族では、除霊師に向かない一族が進学して 、サポート要員に回るケースも多いけど。
今の安倍一族は当主の力が弱いせいもあり、除霊師部門と非除霊師部門の対立が激しいと聞くし、土御門一族が没落した要因は非除霊部門の膨張が進みすぎて、除霊という本質を忘れてしまったから、というのもあったのだから。
要は除霊師は、ちゃんと必要なことを学びなさいってことだ。
悪霊に、『僕は大卒なんだ!』って言っても通用しないから。
「広瀬は、夏休みも除霊か?」
「ええ、あとは神社の手伝いかな?」
神社のというか、竜神会のというか。
五芒星の最後の一つである戸高蹄鉄山に手を出せない以上、両神社と、これまでに解放した五芒星の一角などを整備するしかなかった。
表向きは、除霊師としての仕事と、神社でのアルバイトがメインということになる。
「いいなぁ…… 巫女さんたちと一緒にアルバイトかぁ……私も一緒にアルバイトしたいなぁ……」
「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」
クラスメイトたちは、同時にこう思ったはずだ。
担任にしょうもない本音を暴露されても……と。
「中村先生、公務員は副業禁止なのではないでしょうか?」
すぐに涼子からツッコミが入ったが、中村先生もそのくらいは理解してるはずだ。
なにより、今竜神会では、巫女さんのアルバイト募集をしていなかった。
夏休み前、地元の女子高生と女子大学生たちが殺到して、早々に募集を打ち切ってしまったのだ。
竜神会の職員(正社員)はまだ募集しているけど、中村先生が教師を辞めて神職になるとはとうてい思えない。
そもそも、神職の資格を持っていないのだから。
「まあいい。定期的に神社にお参りに行くことにするから」
「(裕ちゃん、もしかしてアルバイトの巫女さん目当てなんじゃあ……)」
久美子。
その言い方だと、まるで他の目的があるように聞こえるじゃないか。
「(裕、中村先生って女子高生に興味ないから、きっと女子大生狙いよ)」
中村先生が女子高生に興味あると、今の時代色々と大変だろうからなぁ。
「(地元の女子大生たちの間で、両神社のアルバイトが人気だって聞きました。待遇がとてもいいですから)」
千代子の言っているとおりで、竜神会はとても儲かっているから、巫女さんのアルバイトに地元の女子高生、女子大生が殺到したそうだ。
その結果、とても競争率が激しくなり、両神社の巫女さんのレベルは高いと評判で、それを目当てにやってくる男性も多いとか。
別に、中村先生だけじゃない……よね?
「先生は、夏休み中のみんなの生活を見張る義務があるんだ」
なんて言っているけど、断言しよう。
この教室にいるクラスメイトの誰一人として、中村先生の発言なんて微塵も信じていないことを。
「そういえば、木原も巫女さんのアルバイトしてるんだよな。よく採用されたな。俺の従妹が落ちたって言ってたからなぁ」
「うちは、両親が神職なので……」
「そうなのか。 木原は普通に応募しても合格しそうだけどな」
確かに、木原さんは輝く金髪が眩しい美少女だから、普通に巫女さんのアルバイトに応募しても合格しそうだ。
竜神会としては、ご両親が神職である木原さんを採用した方が、教育が省けて楽だという判断をしたのだと思うけど。
「(ただ、木原さんはなぁ……)」
俺が何人もの女の子に手を出すプレイボーイだと誤解していて、かなり避けられている節があった。
沙羅姫のこともあって余計になぁ……。
確かに別の世界の木原さんとは一緒に戦った仲だけど、この世界の木原さんと俺は縁がないのだろう。
「とにかく、俺が呼び出されるような騒ぎを起こさないでくれよ。じゃあ、一学期はこれで終わり!」
こうして俺たちは夏休みに入ったのだけど、一向に状況が進展しない戸高蹄鉄山のこともあるし、沙羅姫の件もある。
きっと、平穏な夏休みにはならないんだろうなぁ……。
「ゆう、新しい巫女服に着替えたぞ。似合うだろう?」
「似合うね。あっ、でも。前に着ていた巫女服。かなり霊的防御力が高かったけど、あれは着なくていいの?」
「あの巫女服は、休眠中に呪いの鏃で病状が悪化しないように着ていたものだからな。今は必要ない。除霊でゆうを助ける時に着るであろう」
「うちの神社の巫女服を着ているってことは、神社でアルバイトするってこと?」
「妾は、この時代の常識に疎いのでな。菅木のおかげで、夏休みとやらが終わったら学校に通えるそうだから、今のうちにこの世界の生活に慣れておこうと思う」
「裕ちゃん、沙羅姫さんって、結構適応力あるよね?」
「そうだな」
夏休みになり、両神社と門前町にはさらに多くの参拝客が詰めかけるようになった。
正職員もアルバイトも増やしているけど、まだ人手不足といった感じだな。
「当然、我ら竜神の力が増したからという理由もあるぞ」
「我らがさらに力を得るため、ここを訪れる人間の数が増えれば増えるほどいいが、この対応をする『せいしょくいん』と『あるばいと』の数を増やさねばなるまいと、裕のご母堂が言っておったぞ」
赤竜神様と青竜神様も夏用の白衣を着て、両神社やその周辺をウロウロするようになった。
ただしまったく仕事はせず、門前町の飲食店で飲み食いしているだけだけど。
「さすがは妾の夫君。竜神様と話をすることができるなんて」
「裕の新しい嫁か。その子は、ちと久美子たちとは違うな」
「古き除霊師の雰囲気を感じる」
さすがというか、龍神様たちは沙羅姫の特殊性に気がついていた。
「で……あの子も少し変っておるが、どうやら裕は避けられておるようだな」
「久美子たちと同じ匂いがするな」
やはり、両神社でアルバイトをしている木原さんと目が合ったのだけど、プレイボーイ扱いされている俺はあからさまに避けられていた。
アメリカでは、プレイボーイって決して悪い意味で使われていないんだけどなぁ……って、俺はプレイボーイじゃないし!
「まあ、こういうことは時間が解決するものだ」
「そうそう、我らが裕に求めることは子孫の繁栄と」
「多くの参拝客が来ることにより、ちと神社や周辺の設備が傷んできた」
「急ぎ直せよ」
「はあ……」
夏休みとはいえ、除霊師としての仕事と、竜神会関連の仕事で忙しそうだな。
今夜は、神社の修繕をするかな。
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