第106話 競争
「霊風なら、戸高市や隣接する市町村を避けるぞ」
「さらにその周辺までは責任持てないがな」
帰宅後。
念のため竜神様たちに霊風のことを聞いてみたら、戸高市はまったく心配ないと太鼓判を押してくれた。
「我らも力を増しているのでな」
「あんなもの、ここを通させない」
「うわぁ、今日は頼り甲斐があるなぁ……」
「なんか引っかかる言い方だな。裕よ」
「気のせいですよ」
ただ俺は、久しぶりに竜神様たちの力の一端を見たような気がしただけだ。
決して他意はない。
「して裕よ。お主ら以外に霊風に対応しようとしているのは、岩谷彦摩呂とかいう奴とその仲間であったか?」
「他にも、もう二組いると聞いたな」
「はて? 誰だ?」
「日本の有名な除霊師一族の双璧と、バカが一人」
なんとか戸高不動産を黒字で営業している戸高高志のバカが、どこからか霊風の情報を聞きつけ、自分たちで除霊すると言い始めたらしい。
あいつに霊力なんて欠片もないので、スポンサーとして協力するということなのであろう。
ついでに言うと、あいつにはマネージメント能力の欠片もないので、間違いなく父親頼りだと思われる。
政治家を目指しているから、霊を知る上流階層へのアピールなのであろう。
「岩谷彦摩呂と、安倍一族やその他若手除霊師たちのグループ。土御門蘭子、赤松礼香、その他土御門一門の除霊師たちと、公官庁に近い除霊師たちのグループ。最後に、戸高高志親子が金で集めた有志除霊師グループ」
この三組が霊風を除霊すべく、戸高市及びその周辺でしのぎを削るわけだ。
「全然ワクワクしない対決ね」
「どれも面子が雑魚だからな」
なにが怖いって?
この中で、岩谷彦摩呂のグループが一番マシに見えてしまうところだ。
「土御門蘭子のグループには、あの二人以外ほとんどB級除霊師がいない。基本的に実力が足りない」
その分、プライドは三つのグループの中で一番かもしれないけど。
土御門家の人脈を用いた公務員除霊師の応援がとにかく多いのだ。
「戸高親子のグループは……金があるから、もしかして大物除霊師を招聘できるかも。問題は、グループのチームワークが皆無で、リーダーが除霊師でもないバカな戸高高志という点だな」
戸高高志の父親が現実を見て、あいつに指揮を執らせなければいけるかもしれないか?
まあ、それができたら戸高高志があそこまでしでかさないわけだが。
「戸高高志は意外だったわね」
「清水さん、そうでもないのよ。戸高家は、戸高市に名士としての凱旋を意図している。上層階級の人たちは、庶民たちが気がつかない霊の悪さに対処できて、初めて上流階級の仲間に入れるの」
ただ商売で成功して金を稼いでも、それは成り上がりでしかないからな。
そういうところに気を配り、自分や一族に霊感はなくてもいいが、すぐに仕事を頼める懇意の凄腕除霊師がいる。
というのが、この国の上流階級の仲間入りへの条件だからだ。
霊風の除霊を期に、戸高家も懇意の除霊師グループを作ろうというわけだな。
「霊風を戸高親子が除霊できれば、それはこの国を動かしている人たちへのアピールになるわけね」
「そんなところね。生臭ジジイの受け売りだけど」
里奈の考えを、桜は肯定した。
「裕ちゃん、そこに割って入るのってどうなのかな?」
「だよなぁ……」
強引にやればできなくもない。
というか、これ。
霊風を除霊できるのって、多分俺たちだけだ。
「霊風って、前に完全に除霊されたのは江戸時代初期のはずよ」
「滅多に来ないってこと?」
「それもあるけど、除霊失敗で被害が拡大するケースが多いのよ。至近だと、伊勢湾台風とか? 通常の台風被害と被さるからわかりにくいけど、もしそのまま威力を発揮していたら、犠牲者の桁がもう一桁上だと言われているわ」
「防ぐのは難しいんだ」
「完全にはね。特に今は除霊師の質が落ちているから……」
あの三グループが霊風の除霊に成功したら、それはもう奇跡というわけだ。
「台風の渦の中に、海上や世界中から集まった悪霊たちが多数回っているから、除霊にも危険が伴うわ」
とにかく犠牲者が出ないことを祈るのみかな。
「裕なら大丈夫なの?」
「なんとか? やはり霊風は大きいから、一人で除霊すると効率悪い」
完璧に除霊するというのは難しいのだ。
「事前に、完全に用意しておけば大丈夫かな。久美子たちが手伝ってくれれば、もっと確率が上がる」
とはいえ、あの三グループに割って入るとろくなことがない。
戸高市には上陸しないのだから、準備だけして待機しておこう。
準備が無駄に終わっても、他の除霊で使うこともできるしな。
「それもそうだね。無理にあの人たちに割って入らなくてもいいよね」
「自己責任の最たる例だものね」
「あいつらの根拠のない自信って、どこから来るのかしら? ねえ、涼子」
「私に聞かないでよ。土御門家は、名門意識からだと思うわ」
「師匠、準備をお手伝いします」
「そうね。三グループとも失敗して、生臭ジジイが涙目で飛び込んでくるかも」
もしそうなったら、稼ぎ時ではあるな。
などと思っていたら……。
「裕ぅーーー!」
「なんだよ? 爺さんなのに泣いてみっともない」
桜の予想は半分当たり、涙目で飛び込んで来たのは菅木の爺さんであった。
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