第97話 生田祥子
「目方警部、例の多田竜也ですけど……」
「なにかわかったのか?」
「困りました……はっきり言って最低な連中ですね。ですが、さすがに殺人までは……あっ、資料です」
数日後、相変わらずゼロ課のお嬢さん方に成果は出ていなかった。
現場であるラブホテル街に、日本除霊師協会戸高支部から派遣された男性除霊師を用いて囮作戦を続けていたが、色情霊の気配も感じられないそうだ。
今では、『いつまでこんな無駄なことを続けるのか?』と不満が溜まってきた男性除霊師との関係が悪化しているそうだ。
彼は何日も他の除霊依頼を引き受けられず、ラブホテルの部屋で待機しているだけだからな。
稼ぎも減って不満が溜まっているのであろう。
ところが、彼女たちは男性除霊師に対し、『除霊師としての社会貢献が必要なのです!』などと言って、余計に関係が悪化しているそうだ。
広瀬君に言わせると、『あの二人は大金持ちで生粋のお嬢様だから、公務員でも全然かまわないのだけど、男性除霊師はねぇ……』と言っていた。
彼女たちにとって仕事とは、大金持ちの道楽の延長線上なのかもしれない。
彼が目星をつけた多田竜也たちの資料を木村が持ってきたが、まあ悪事のオンパレードだな。
過去には、恐喝、強盗、暴行に、強姦事件も起こしている。
よく捕まらないなと思ったが、三人の父親は親が教師だったり、県議会議員だったり、地元企業の経営者だったりと。
すべての事件を権力と金で解決してきたようだ。
「でも、さすがに殺人はないですね」
「こいつらの場合、絶対にないとは言いきれないな。となると……木村、戸高市周辺で行方不明になった若い女性のリストを集めてくれ」
「了解しました」
色情霊は若い女性で、その人が死んでいることは確実だ。
さすがに多田たちでも殺人はしていない……と考えるのは早計だな。
こいつらの場合、隠蔽が可能な立場なのだから。
「あと、例のラブホテルの防犯カメラの映像も用意しておけ。広瀬君に見せる」
「彼なら、見えますか」
「そういうことだ」
なにかわかればいいがな。
「この女性が似ていますね」
放課後。
俺は警察に呼び出され、とある映像を見せてもらっていた。
それは、一人目の犠牲者が死んでいたラブホテルの部屋のドアが開く映像。
霊感がないと、ひとりでにドアが動いているようにしか見えないが、俺には色情霊の姿がバッチリと見えていた。
そして木村刑事から、何枚かの若い女性の写真を見せられる。
彼女たちは全員、ここ数年戸高市内で行方不明になった若い女性たちだそうだ。
俺はその中から、色情霊の容姿とよく似た人を発見する。
「生田祥子(いくた しょうこ)二十四歳、職業は風俗嬢、ソープ嬢だそうです」
「当たりだな。となると、彼女はもう死んでいるのか……」
「多田たちが彼女を殺して、どこかに隠しているのでしょう。で、それを隠して何食わぬ顔で生活していたが、色情霊化した彼女に復讐されていると」
「目方警部、生田祥子さんなのですが、母子家庭で育ち、家庭環境も決してよくはなかったそうで。しかも行方不明になったのは三年前ですが、『風俗嬢だから、条件のいい他の店に移ったのでは?』と、警察もろくに探していません。それと、彼女は三人と中学時代の同級生でした」
「大凡想像がつくな」
「ええ」
殺された二人も含めて、三人はとにかく女性とヤれればいいという、野獣のような連中なのであろう。
これまでも被害者は多かったが、すべて親の力で罪になるのを遁れてきた。
三年前、中学の同級生が風俗嬢をやっていると聞き、それなら簡単にヤれると思って三人で襲撃したが、思わぬ抵抗を受けたために誤って殺害。
遺体をどこかに隠し、その後は何食わぬ顔で生活していたわけだ。
「広瀬君、この後どうなると思う?」
「わかりません」
「わからない? 復讐を果たせば、彼女の霊は成仏するとか、そんな感じなのでは?」
「そんなに都合よく行かないですよ」
自分を殺した三人に復讐を果たして終わりなら、ぶっちゃけこのまま放置しても構わない。
だが、一度悪い方に進んで弾みがつくと、悪霊は悪事をセーブできないのだ。
「三人と波長が似ている男性を定期的に引き寄せて殺していくでしょう。悪霊とは、永遠に喉が潤わない砂漠の旅人みたいなものなので」
未練や恨みを晴らすために悪霊となったのはいいが、それを晴らし終えたら成仏しますなんてことはほとんどなく、以後も同じ行動を取り続ける。
だからこそ除霊師が、強引に除霊しなければいけないのだ。
「となると、やはり多田竜也に付きっきりなるしかないか……」
「彼に生田祥子さんを殺してどこかに隠した事実を暴露させるのも手です。遺体があれば、彼女を除霊できるので」
元々色情霊は、普段反応が薄くてなかなか探し出せない厄介な存在だが、普段生田祥子さんの色情霊は遺体の傍にいるはずだ。
なぜなら、たとえ悪霊と化しても自分の遺体を誰かに見つけてもらいたいと願っているから。
そのために悪事を働く悪霊も多く、ようは自分に気がついてもらいたいからそういうことをする側面もあるのだ。
「多田竜也が吐くかな?」
「問題なのは、なんら証拠がない点だ。任意でも事情が聞ける証拠が欲しい」
今のところ、多田竜也たちと、生田祥子さんの行方不明事件に接点はないとされている。
除霊師の推察だけでは、彼に取り調べをする権限はないと、目方警部は言った。
「なら、彼を囮にするしかないですね」
「だろうな。だが、彼が死なないようにしてくれ」
「変な妨害が入らなければ大丈夫ですけど……」
「若い君からすれば、多田竜也なんて死ねばいいと思うかもしれないが、警察とは一人でも人死にを減らすのが仕事なのでね。それに、多田竜也たちは生田祥子さん失踪に絡んでいる可能性が高まった。せめて奴くらいは罪は償わせないと」
「わかりました」
というやり取りのあと、俺たちは多田竜也への監視を強化しようとしたのだが……。
やはりというか、そこに思わぬ妨害が入ってしまうのであった。
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