第90話 海の悪霊たちと船幽霊

「夏だ!」


「海よ!」


「海水浴だ!」


「にしては……」


「私たちの他に、海水浴客がいないわね」




 夏休みに入ってすぐ。

 俺たちは、除霊の仕事と海水浴を兼ねて、戸高市の南隣り『海原市(うみはらし)』にある海水浴場に来ていた。

 夏休みに入ったこともあり、いつもなら多くの海水浴客で賑わうはずの砂浜には、俺たち以外人っ子一人いなかった。


「船幽霊と、水害で亡くなった悪霊たちの上陸が早まるんでしたね」


「そうらしいですよ」


「まあ、それは大変ですね」


 いや、俺たち以外にも同行者がいた。

 それは、先日除霊をした戸高夢温泉にある老舗温泉宿『夢湯』の女将さんと、その娘である若女将さんであった。

 なんでも今は、夢湯が改装中でお休みらしい。

 戸高高志の父親が支払った営業妨害の補償金が多かったので、将来のために宿を改装することにしたそうだ。

 他の宿のオーナーたちとも相談して、順番に改装を始めるそうだ。

 騒動のあとのお客さんについてだが、徐々に増えているらしい。

 どうやら、竜神様の加護が徐々に広がっているようだ。

 実際に彼らは、何日も泊まって温泉に入っていたからな。


「それで、同行ですか?」


「実は夢湯は、この海水浴場で海の家の権利も持っているのです。どうしても夏場になると温泉のお客さんが減ってしまうので。うちとしても、除霊を一日でも早く終えてほしいわけでして。お世話させていただきますね」


 事情を説明してくれた女将さんだが、俺たちと同じく水着姿であった。

 上にパーカーを羽織っているが、とてもアラフォーには見えない。

 若女将と合わせて、やはり姉妹にしか見えなかった。


「船幽霊や水死者の悪霊たちが海水浴客に悪さをしないよう、広瀬君のお祖父さんが設置してくれた『結界』。詳細を知っているのは、数少ない海水浴場の関係者だけなのよ。案内役は私とお母さんというわけ」


「そういうことですか」


「行こうか? 広瀬君」


 というと、若女将は俺と腕を組んできた。

 母娘してスタイル抜群で胸も大きいので、俺の腕に当たるな……。


「あっ、私も」


「私もじゃないです! 裕ちゃんもデレデレしない。除霊師は、常に腕を自由にしておかないと駄目!」


 その幸せな時間も、久美子によって終了となった。

 確かに今は昼間だが、この海水浴場にお客さんがいないのは、祖父さんの施した封印が限界を迎えており、それを俺が張り直すため。

 様子見とはいえ、解けかけた封印なので悪霊が入り込んでいる可能性もゼロではなく、腕なんて組んでいる場合ではなかったのだ。


 当然俺は、視察を始める前に若女将と腕を組むことをやめるつもりだったさ。

 久美子に振りほどかれなくてもね。

 俺はプロの除霊師なんだから当たり前じゃないか。


「封印を張り直せば、夜に除霊する必要なんてないんじゃないの?」


「それが、長年悪霊たちを封印で近づけさせないだけでしたので……」


 人の営みが長ければ長いほど、死んだ人が悪霊になる可能性も上がる。

 今までは悪霊がこの海水浴場に近づかないよう封印で処置していたのだが、この周辺の港、海、他の海水浴場で増え続ける悪霊たちを放置し続けた結果、他も立ち行かなくなってきたのだ。

 最近、隣県からもこの海域に悪霊たちが流入し続けているという事情もあって、一度これらを除霊する必要があった。


「海の悪霊は面倒なのでな。つい、除霊が後回しになる」


 ここでさらに、仕事を終えた菅木の爺さんも合流した。

 なぜかアロハシャツ姿だったけど……。

 ここはハワイじゃないんだが……。


「よう、爺さん」


「菅木議員の依頼なのね」


「そういう顔をするな、清水の嬢ちゃん。実はこの依頼、安倍一族の不始末も絡んでおる」


「新当主になってからグダグダね……なにをしたのです?」


「依頼を受けた隣県の海水浴場で倒せる悪霊だけ除霊し、そのあとに強固な封印を施したのだ」


「どうして安倍一族がそんなミスを……」


「清水さん、それのなにが駄目なの?」


「葛城先輩、その話を会長が聞いたら激高しますよ。海はちょっと地面とは事情が違うので……」


 海の悪霊は、陸の悪霊よりも移動が簡単にできてしまう。

 除霊できる悪霊だけ除霊して、そのあとに上陸できないように封印を施すと、激高した性質の悪い悪霊たちが潮の流れによって近隣の海や海岸、港、砂浜に移動してしまうケースが多いのだ。


「厄介な悪霊たちを他に押しつけているので、特に漁協、港湾関連の人たちは激高しているはずよ。そこだけ安全にするため、他のところに怒らせた厄介な悪霊たちを押しつけたような結果になってしまったのだから」


「じゃあ普段は、どうやって封印を張り直してるのかしら?」


「この手の封印は、定期的に、何日もかけて、昼間におこなって悪霊たちを極力刺激しないようにするのが常識よ。ましてや、除霊なんてしては駄目。海の悪霊たちは霊団化しているのがほとんどなんだから」


 海や河川で死んだ人たちが悪霊になると、その周辺にいる性質の悪い霊団によって、すぐ霊団に吸収されてしまうケースがとても多かった。


「霊団化とはいっても、水上の霊団は一体一体が距離を置いているケースがとても多い。単独の悪霊だと思って除霊したら、霊団が怒って襲って来たなんてこともよくあるわ」


「弱い悪霊が斥候みたいな役割をしているのですね」


「そんな感じね」


 千代子の見解に対し、涼子は首を縦に振った。


「じゃあ、水辺の悪霊って除霊できないの?」


「どこで死んだかによるわ。川辺、砂浜に単独で居ついているのは、そのまま除霊しても大丈夫。怨体だったら浄化しても、霊団は気にしないわね」


「海の悪霊って厄介なのね」


「だから、いまだに地方の漁港だと、お盆には漁に出ない。外出すら禁止しているところもあるでしょう? 海の悪霊は、長年除霊されていないものが多いから……」


 漁師、船乗り、津波や水害などの犠牲者。

 水死した者たちの除霊は、ほぼされないケースが多かった。

 海は誰のものでもないので……漁業権とかは別にしてだが……そこにいる悪霊を誰が金を出して除霊するのか?

 陸地よりもさらに難しい問題があり、特に除霊の費用を誰が出すという問題が陸よりも難しい。

 海の上に銀座や日本橋はないからだ。

 悪霊たちに船が襲われるケースも稀にあるが、まともな船乗りだと悪霊避けのお札を船に貼っているので、そう襲われるケースもなかった。

 ゼロではないが、例えば漁船が悪霊たちによって沈められてしまった場合、公式な発表では『遭難』で済ませてしまうのが普通だったのだ。

 海は広いし、霊団は潮の流れのせいでウロウロしている。

 少し注意すればそう漁船と遭遇することもなかったし、霊団に所属する悪霊すべてを見つけて除霊するのはとても難しい。

 中途半端に除霊をするとかえって状況が悪化するので、デリケートな対処が必要であった。


「今、この海は危ないので、裕たちに出張ってもらったのだ。まったく、岩谷彦摩呂のアホが!」


「彼なのですか? やっぱり……」


 これまでの決まりを破る方法で除霊をおこなう安倍一族……。

 普通に考えたら、彼しかいないよな。


「海にいる悪霊や霊団に気を使いながら、弱っていた封印を修復していく。彼はおかしいと思ったのであろうな。古臭い手法で、なんの解決にもなっていないと」


 そこで、夜間に彼を慕う若手除霊師たちと、除霊と封印の強化を一斉におこなったわけだ。


「とはいえ、あの連中も卑怯なところはある。本当に厄介な悪霊には手を出さない」


 まるで挑発でもするかのように、奇襲で霊団の弱い悪霊たちを狙い撃ち。

 除霊数を稼ぎつつ、もう除霊できる悪霊がいないと判断したら、すぐさま結界を強化してしまった。


「性質の悪い悪霊たちが仕返ししようにも、結界が完全に修復されたので、岩谷彦摩呂たちには手が出せない。怒りが収まらない悪霊たちは、他の場所に移動して恨みを晴らそうとする」


「酷い話だな」


「岩谷彦摩呂たちが仕事をした海水浴場及び、地元の人たちは安全になったと喜んでいるがな。漁業関係者たちは他所から恨まれるから、岩谷彦摩呂たちを恨むわけだが、人数でいえば地元の海水浴場が安全になって嬉しい者の方が多い」


 なるほど。

 こうやって、岩谷彦摩呂の支持者が増えていくのか。

 長い目で見たら安倍一族の終わりかもしれないけど、それに気がついていない人は多いわけだ。


「で、周辺海域の荒ぶる悪霊たちを、この海原市にある海水浴場に引き寄せるわけだ」


「夜間に封印が解けるようにして、上陸を試みる悪霊たちを除霊して数を一気に減らす。中途半端に霊団に所属する雑魚だけを倒すのではなく、霊団を率いるボスレベルの悪霊たちも一網打尽にな」


「それはいいけど、報酬は出るのか?」


「出る。岩谷彦摩呂たちのせいで、近隣の港や海岸、漁港、海水浴場に関わる者たちは戦々恐々としているでな」


 彼らのせいで激高した霊団は、他から上陸しようと近隣に張られた結界に攻撃を開始した。

 そういう時のための結界なわけだが、当然攻撃されれば結界は短期間で弱体化してしまう。

 張り直すにしても金がかかり、さらに悪いことに近年良質の結界を張れる除霊師が減ってしまった。

 結界の修復を待っている間に、再び悪霊たちが上陸を試みたら……。


 霊に詳しい人間ほど、岩谷彦摩呂に対し『余計なことをしやがって!』と激高しているはずだ。


「あいつに仕事を頼んだ自治体の長は、若さを売りに当選した男なのでな。ウマが合ったんだろうな」


 それで、他の自治体から総スカンを食らっていれば世話ないけど。


「結界を弱らされた各自治体、国、海上保安庁、海上自衛隊、漁協、港湾組合などが裏金……というと語弊があるので、機密費を出して対応する。二十億円が限界だが、安倍一族に頼めばその五倍は取られるし、今の安倍一族では頼むだけ無駄だな」


 岩谷彦摩呂が、次の当主に一番近いくらいだからな。

 除霊師としての実力以前に、あいつなら『新しいことを試す!』、『これまでにないことをする!』と言ってやらかしそうではあった。


「それで、夜、この海水浴場の結界を解いた時に上陸を試みる戦力予想はどうなのです?」


「それが……沿岸付近で悪霊たちが荒ぶった結果、さらに遠くの海から船幽霊も引き寄せられているらしい」


「割に合わないわね。船幽霊なんて……」


「船って、幽霊になるんですか?」


「沈没船と極少数の例外のみですね。長年使われていた船が解体時に悪霊化して逃げ出してしまうのです。最近は戦争もなくてそう沈む船もないので、せいぜい小さな輸送船や漁船が船幽霊になるくらいですけど」


 桜の問いに涼子が答えた。

 船幽霊とは、文字通り船が幽霊になってしまう現象だ。

 ただし、不法投棄されたレジャーボートが悪霊化したなんてことはない。

 複数の船員たちとともに沈没してしまい、悪霊化した船員たちが再び船を求めるからこそ、沈没した船が霊となってしまう……正確には沈んだ船自体が船幽霊の素材になるので、霊ともちょっと違うものらしいけど。


「いまだに、大航海時代の帆船や、戦争で沈んだ軍艦などが船幽霊として彷徨っているわ。古い船が多いのよ。海で沈んだ船員たちを、陸で家族が供養してもなかなか想いは届かず、一緒に死んだ仲間たちと悪霊化して、乗っていた船も船幽霊にしてしまう」


 幽霊なので夜間に多く目撃され、船員たちの間で怪談として広がるわけだ。

 船員でない人は、作り話だと思ってあまり信じない霊であった。


「この近辺の海で悪霊たちが騒がしいから、それに釣られてってことなの?」


「そういうことです」


「船幽霊って、除霊できるの?」


「かなり難しいです」


「広瀬裕以外はねって……ことか……」


 船幽霊は、向こうの世界で何度も除霊した経験があった。

 悪霊化した船員たちと、彼らが操る霊側に偏った船なので、一定量以上の霊力があればそう難しくはないはずだ。


「裕。この世界で船幽霊の除霊は難しいのだ。だから世界各地で目撃されている」


 除霊の難易度が高いくせに、公海上で船幽霊を除霊しても報酬なんて出るかどうか怪しいところなので、昔からあまり除霊を引き受ける者はいなかったそうだ。


「重要な航路上で妨害していたり、他の船を船幽霊にしようと目論むようなケースでもなければ、除霊費用を惜しむケースは多いな」


 自分の家に悪霊が憑けば対策するが、普段行かない水の上だとなぁ……。

 船乗りたちも、自分に危機が訪れる可能性がなければ、できる限り出費は避けたいのが人情か……。


「よく今回は出しましたね、お金。それも、海上保安庁と海上自衛隊が……」


「涼子ちゃん、その二つは出さないものなの?」


「規模は小さいけど、一応独自に除霊部隊を抱えているから。まあ、公務員だから待遇もゴニョゴニョで除霊師の質は低いけど……」


 警察、公安(警察とは別で)、自衛隊、海上保安庁などは除霊師を抱えている。

 霊の存在を信じない納税者から批判を怖れ、その存在は秘密で、規模も小隊レベルだそうだが。

 規模が小さいのは、公務員なので給料が安いため、除霊師が集まらないという理由が一番であった。

 組織内部に霊を信じていない同僚たちも多く、嫌がらせを受けるケースもあるそうだ。

 胡散臭い理由で予算を奪う敵……組織は金がないと動かないからな。


 真面目に職務に邁進している霊を信じない職員たちからすれば、彼らは遊んでいるように見えるからであろう。

 よく実際に霊を見せてくればいいと言う人もいるが、この前の第十三号会議室で気絶した政治家たちは今も霊を信じていない。

 実際に見せれば必ず信じてもらえるという考え方は、かなり希望的観測に則った考えだと俺は思う。

 実際彼らも、目が覚めたら、『性質の悪いイタズラ!』、『映像だ!』と騒いでたからな。

 政治家としてプライドが高いので、今さら自分の考えを曲げられないという風に思ったのかもしれないけど。


「日本近海で最強の船幽霊『戦艦出雲』が、こちらを目指しているそうだ。しかも、他の霊団や船幽霊を吸収しながら」


「船幽霊って、そんなことできるんだ?」


「実はこれまでにないケースで、安倍一族が混乱しているらしい」


 元々の原因は、岩谷彦摩呂が下手な除霊をしたからだしな。

 砂浜一箇所の安全のみを考えた封印を施したがために、怒らせるだけ怒らせてから弾き出された悪霊たちが暴れて、周辺海域の悪霊たちにも波及。

 その騒々しさに引き寄せられ、船幽霊たちもさらに外海から引き寄せられてしまった。

 挙句に、悪霊船員たちを増やして強化しながらこちらに向かっている『戦艦出雲』の船幽霊か……。


「菅木議員、戦艦出雲なんて軍艦ありましたっけ? 大和とか、武蔵は有名ですけど」


 千代子は、意外にも古い軍艦に詳しいようだ。

 俺はなんとなく、昔にそんな名前の戦艦もあったのだろうくらいにしか思っていなかった。


「戦艦出雲は軍機だったからなぁ……幻の大和型戦艦の四番艦で、実は終戦間際にほぼ完成していたのだ」


 菅木の爺さんによると、出雲は終戦間際に完成した。

 だが、すでに戦艦一隻あったところでどうこうなる戦況でもなく、隣県にある秘密ドックに停泊したままであった。

 ところが、戦後アメリカに接収されるくらいならと、日本の敗戦を認めない若手海軍将校たちが出雲を占拠。

 アメリカ艦隊への殴り込みを計画した。


「これはまずいと、なけなしの水雷戦隊で魚雷攻撃を仕掛けて沈めたそうだ。就役してからろくに訓練もしていなかった船だ。いかに世界一の戦艦でも呆気なく沈んださ」


 ところがそれが未練となり…、出雲は船幽霊になってしまった。


「戦後、アメリカ軍とイギリス軍の軍艦を何隻か沈めている。アメリカとイギリスは、船幽霊と化したドイツ軍艦にも、終戦後に軍艦を沈められるという不幸を経験しているが」


「よくそんなのを放置しましたね」


「昭和二十一年の八月。アメリカの戦艦『カリフォルニア』を撃沈してからは、たまに海上で目撃される程度で被害は一切なかったのでな」


 それが、突然こちらを目指して進撃を続けている。

 海上保安庁と海自では手に負えないわけか。


「船幽霊に砲撃しても無意味なのでな。時間はかかるが復活してしまうのだ。やはり除霊しなければな。アメリカ軍も除霊は試みたのだぞ。神父である除霊師を使って、ものの見事に失敗したそうだが……船員が日本人だからかの?」


 それは宗派の違いというよりも、ただ単にその神父に実力がなかっただけだと思う。 

 俺は神職の子供だけど、向こうの世界で散々他宗派の悪霊たちを除霊してきたのだから。


「それにしても、ただ一ヵ所で岩谷彦摩呂が適当な除霊と封印をしただけでこの様なんだ……」


「それが『バランスを崩す』ということなのさ」


 そしてそれが、即物的で、目先の成果しか気にしない人たちには理解できないのだ。

 あとで大きな問題が起きても、以前の短絡的な行動が原因とは思わない。

 指摘されても、それを意地でも認めないわけだ。


「海の場合、これまでに発生して、除霊されていない悪霊が多いというのもあるな。だが、もうそろそろ限界なのだと思う」


 菅木の爺さん曰く。

 人類が海洋に進出してから、海上の悪霊と船幽霊は増え続けた。

 しかしながらその除霊はさほどおこなわれておらず、些細なことが原因でこうなってしまう。

 もうそろそろ本格的な除霊が必要になったが、今は実力がある除霊師が少ない。

 難易度ばかり高く、金にならない、この種の除霊を引き受ける除霊師はまずいないそうだ。


「シブチンの海自と保安庁にしては頑張った方であろうな」


「それはいいけど、いきなり砲撃とかされないよな?」


「その心配はない」


「言い切るな」


「敗戦間近の戦艦に、そんなに弾薬は積めないからな。戦後のアメリカ軍艦襲撃で、とっくに使い果たしておる。まあ、あちこちの海にいる悪霊たちを乗船させているから、日本各地の港や砂浜に上陸でもされると困ってしまうがな」


 漁港や港が滅茶滅茶になってしまうのか。

 だから、この砂浜の結界を一時完全に解除し、悪霊たちと船幽霊を呼び寄せてから除霊すると。


「夜に結界を解除すればいいのかな。除霊が終わったら、新しい結界を張ればいい」


「そんな感じだな」


 女将と若女将の案内で結界を見てみるが、確かにこの結界の癖を見ると祖父さんの作だとわかった。

 以前、旧山中村に張られていた結界によく似ていたからだ。


「特に不都合もないけど、そういう作戦だから仕方がない」


 まだ十分に機能している結界を解除するのは惜しいが、戦艦の船幽霊が迫っているから仕方がない。

 結界の場所をすべて確認すると、ちょうどお昼なので女将と若女将に海の家に招待された。

 現在、この海水浴場のみならず、他の海岸、港、漁港もすべて人の出入りが禁止されているため、海の家の客は俺たちだけであった。


「このラーメン、美味っ」


 海の家のラーメンって、安い業務用の材料を使った、麺も伸び伸びで大して美味しくないイメージだったのだが、女将が出してくれたラーメンは本格的でとても美味しかった。


「今は海の家も競争が激しいので、あまりおかしなものを出せません。うちの板さんが開発してくれたのです」


「そうなんですか」


「ですので、一日も早く営業を開始したいですね」


「今夜中にケリがつけば、明日か明後日には営業を開始できるはずです」


「まあ、さすがは広瀬さんのお孫さんですね」


「いやあ、それほどでも……痛ぇーーー!」


 またも、久美子と涼子から尻を抓られるとは……。

 女将さんは、俺の母親よりも年上なんだが……。


「さて、あとは夜まで寝るかな」


 今夜は長丁場になりそうなので、俺たちは海の家で昼寝をして夜に備えるのであった。

 船幽霊……向こうの世界で軍艦の船幽霊と戦ったこともあるが、砲撃がないだけマシなのであろうか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る