第79話 裕、大いに悩む
「(中身は別人同士でも、肉体は私と裕ちゃん。町中で二人で仲良くデートしていれば、きっとクラスメイトたちとも出会って噂になるはず。私と裕ちゃんがつき合っているって)」
別の世界から裕ちゃんが帰還して以来、私と裕ちゃんはすぐ結ばれるはずだったのに、清水さん、里奈ちゃん、千代子ちゃん、葛城先輩と。
裕ちゃんには、除霊師及びその資質がある女の子ばかり寄って来るようになってしまった。
これ以上女の子が増えないであろうと考えるのは早計であり、ここは手堅く、今回の依頼を利用して世間への噂の流布を狙うことにしようと思う。
私と裕ちゃんはとてもラブラブで、正式につき合っていると。
既成事実化というやつね。
だから、ここは私が依り代になってデートに出かけられるようにしないと。
他のみんなに負けるものですか!
「(たとえ意識は別人でも、世間の人たちはそんなことはわからない。私と裕君がデートしているようにしか見えないのだから。中村先生は嫌……女子高生とデートしているなんて通報されたら可哀想だから、あれでよかったのよ。裕君が男性側の依り代になるのであったら、ここは私の出番でしょう。だって、私がこの中で一番除霊師としての経験があるのだから。私がやった方が安全よ)」
決して下心が……たとえば二人が肉体があるからと、そういう場所を探してそういう行為に至ったとして……それは、裕君に責任を取ってもらわないと。
今の世情に合わない?
私は古臭い除霊師一族の女だから、それでいいのよ。
私は極めて古臭い女なの。
お邪魔虫が多くて裕君との関係がなかなか進まないから、こういうものを利用して大きな変化を目指すのは悪くない。
なにより、裕君とのデート楽しみ。
「(たとえ意識が他人でも、裕と私の初デート。私は元国民的アイドルだったから、事務所の社長から口を酸っぱくするほど言われていたからデートなんてしたことないし、ちょっと特殊な条件下とはいえ、それでも傍から見れば私と裕のデートには違いがない。校内で噂になれば、そのままなし崩し的に……いける! いけるわ!)」
他の四人のせいで、どうも裕との関係がなかなか進まないから、ここは思いきって二人きりの時間を作らないと。
一度デートしてしまえば、あとは私の魅力でイチコロなんだから。
意識は別人だって?
大丈夫、私の魅力はそんなものを超えて裕に届くから。
「(師匠は、除霊師の家に生まれたにも関わらず、霊力不足で忍の親戚家に養女に出された私を鍛えて除霊師にしてくれた。以前受けた仕事で師匠には大きな迷惑をかけたというのに。そんな懐が大きな師匠がもし将来私の夫になってくれたら……。くのいちとして男性を誘惑する技術はまだ習っていないから使えないけど、きっと師匠と既成事実を作って……他のみんなを出し抜いてみせる!)」
師匠!
私は頑張って、師匠とのデートを成功させますから!
「(冷静に今、私の置かれている立場を分析すると、私は一番不利な状況よ。色々とあったし、あの生臭ジジイの孫娘だから。だからこそ、私は除霊師としては一番未熟で、それを克服するために依り代となることを立候補しようと思う。そして、その時に既成事実を積み重ねられれば……)」
なんだかんだ言っても、私も広瀬裕に助けられたことがある。
つまり、彼もまんざらではないということなのよ。
頑張って依り代役をゲットしなければ。
「というわけで、私が立候補します!」
「私が適任だと思います! だって、除霊師歴が一番長いから」
「いやねぇ……ただ長ければいいってものでもないわよ。ここは私が」
「師匠と弟子は、常に一緒に行動するものです」
「そんなわけないでしょうに。みんなで監視するんだから、ここは経験を積む必要がある私が!」
「裕ちゃん! 私だよね?」
「ええと……」
誰がその身に桑木さんの霊を憑依させるか?
俺が選ぶと、これはのちのち禍根になるかもしれないな。
異世界で戦った経験がなければ、案外なにも考えずに指名したかもしれないが、俺も少しは大人になった。
ここは実務者というか、自分の霊体を憑依させる桑木さんに選んでもらうとしよう。
桑木さんの霊体と、憑依する体の相性の問題が……レベルアップできる久美子たちなら、別に誰でも問題はないのだけど。
避けられる責任と面倒事は、他人に押しつけるに限る!
「桑木さんがこれぞと思う人でお願いします」
「えっ、私が決めるのですか?」
俺からの提案を聞き、一瞬で体が硬直する桑木さん。
どうやらこの人、見た目に反してかなり現実的な性格をしているようだ。
俺が彼女に、厄介の種を押しつけたことに気がついたのだから。
「桑木さん! 裕ちゃん……じゃなかった! 冴島さんとのデートに私の体を使ってください!」
「桑木さん、私は除霊師歴が長いので、体がよく動きますよ」
「奈々! 私なら、大人のデートでも対応できますから!」
「私なら、むしろ十八禁対応も可能です! だって私は忍なので」
「望月さん、あなたが彼氏いない歴年齢のくのいち(笑)なのは公然の事実よ。桑木さん、私は日本除霊師会長の孫なので、万が一のことがあっても対策は万全です。さあ、私を指名してください」
「葛城先輩、こういう時に会長を出汁に使うのは卑怯だよ! 私は裕ちゃんの幼馴染だから、相性もバッチリですよ」
「相川さんこそ! こういう時に幼馴染を前面に押し出すのは卑怯よ」
「だからここは、アイドルな私にすれば」
「葛山さんこそ、そこで私がと言い張れる根拠が意味不明です。私は忍なので、こういう任務は最適なのです」
「忍とデートになんの関係があるのよ? 私は元アイドルよ」
「それこそなんの関係があるのよ! 極めて珍しい依頼だから、ここは日本除霊師協会のバックアップが……」
「桜は、その会長と仲が悪いじゃないの!」
「それと仕事とは別よ! で、誰にするの?」
「「「「「じぃーーー」」」」」
「ええと……」
桜たちにじぃーーーと見つめられ、困惑する桑木さん。
彼女に罪はないと思うが、これで中村先生もちょっとは溜飲が下がったのではないだろうか?
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