第69話 第四の封印、金富山
「金富山は、先日除霊をおこなった安蘇人大古墳の南西にある山で、ここ四百年以上火山活動を休止している活火山だ」
「四百年間噴火していないのに、活火山扱いなんだ」
「永遠に近い自然の営みと比べたら、人間の人生など、一瞬の瞬きにも等しい短さしかないというわけだ。この山が、長年人の立ち入りが禁止されている理由。それは、実は火山活動のせいではない。車田犬龍斎(くるまだ けんりゅうさい)の悪霊のせいなのだ」
久美子たち全員が、一定以上の実力を持つ除霊師として成長したことを確認したからか。
菅木の爺さんが、続けざまに除霊依頼を出してきた。
老い先短いからか、人使いの荒い爺さんである。
「誰が老い先短いだ!」
「口に出してないのに! さては、お迎えが近いから勘が鋭くなったな!」
「お前が考えそうなことくらい簡単にわかるさ。これでも政治家なのでな。政治家として生き残りたければ、人を見る力も必要なのだから」
さすがは、ベテラン国会議員というわけか。
無駄に当選と議員生活を重ねていない。
「で、その車田とかいう、聞いたこともない大名の悪霊を除霊するのが今回の依頼であると。それにしても、車田なんて大名は聞いたことがないな」
「であろうな。戦国時代に多数いた小大名の一人でしかない。だが、戸高備後守も、高城家も、車田犬龍斎の領地……金富山周辺には手を出さなかった。車田家の領地は小さかったが、車田家の軍勢は精強だったのでな」
「それを支えたのが、金富山から産出される豊富な金銀だったわけ」
「ふむ、清水の嬢ちゃんは知っていたか」
「安倍一族によく除霊依頼が入っていましたので。無理ですから断っていましたけど」
「であろうな。引き受ける除霊師は、少なくとも現在ではおるまい」
つまり、除霊の難易度がかなり高いわけか。
「爺さん、どうして無理なんだ?」
「裕なら除霊できるだろうが、これまでの安倍一族では手に負えないという意味だよ。車田一族は不幸な災害で全滅した」
金富山から豊富に産出する金銀を目当てに多くの大名たちに狙われた車田家であったが、その金銀を原資とした軍勢によってそれを退けてきたのだそうだ。
そのため、車田家は小大名ながら戦では負け知らずであった。
さすがの戸高備後守も、車田家にはなかなか手を出せないと、家臣に語ったと記録にも残っているそうだ。
「大地震があってな。発生した地滑りで、車田家の一族、家臣、領民の大半がそれに呑み込まれて全滅した」
「戦では最強でも、自然災害には勝てなかったんだね」
いくら精強な軍勢を抱えていても、自然の脅威には勝てないのだなと、久美子は語った。
俺もそのとおりだと思う。
「というわけで、戦国大名である車田家は滅んだのだ」
半ば棚ぼた的な自然災害で厄介な敵が消え、金富山という本物の宝の山が手に入るチャンスが訪れたため、周辺の大名たちは金富山を押さえるべく兵を出した。
「最初に兵を出したのは、戸高備後守だった。この辺で一番力があった大名だったからな。準備も早かったのだ」
ところが、それが戸高家の不幸の始まりだった。
「車田家の連中は、自分たちが死んだということにまったく気がついていなかった」
「ああ、それは悪霊になりやすいな」
自分が死んだことを自覚し、あの世に行くしかないと悟れる死者は悪霊にならないのだから当然だ。
意地でも現世に留まる。
そもそも自分は死んでなどいないのだから、この世に留まることを妨害する人間には害を成す。
これが、悪霊の基本行動であった。
「一番に兵を整え、金富山を簡単に奪えると思った戸高備後守の軍勢は、車田犬龍斎率いる死の軍団に破れた。まあ、当然じゃな」
悪霊は、刀で斬られても、槍で突かれても、矢や鉄砲の銃弾で蜂の巣にされても死なないからな。
そもそも、悪霊に物理的な攻撃など効果がないのだから。
「戸高備後守は多数の精鋭を失い、本人も命からがら逃げ出した。その後、高城家に徐々に押されていき、ついには討ち死にするわけだが……」
戸高備後守は、悪霊の軍団に敗れてから勢いが落ちてしまったのか。
この山が、彼のつまずきの第一歩というわけだ。
「その後、この金富山は江戸幕府の直轄地に入ったのだが、やはり接収に失敗してな。当然だが」
金富山の金銀産出量を知って欲をかいた江戸幕府が派遣した軍勢も、死の軍団によって散々に討ち破られたわけだ。
二度の敗北により、この山は危険だと判断されて封印され、現在に至ると。
「で?」
「裕たちなら勝てるであろうというわけだ」
「無理じゃないかな?」
一体一体なら相手にできるだろうが、相手は悪霊の軍団なのだから。
俺は生き残れるだろうけど、久美子たちがなぁ……。
「死の軍団がどのくらいの数か、率いている悪霊の強さだとか、そういう詳細なデータはあるのか? 爺さん」
「元々の車田家の軍団が五百人ほど。これに、戦に敗れて討ち死にした戸高家や江戸幕府が派遣した軍勢から数百~数千」
「おいっ! その差はなんだよ?」
数百と数千だと、桁が一つ違うんだが……。
それと、こいつらが生み出した怨体の数をちゃんと計算したのか?
「他に、金富山は大地震の前には多くの野生動物がいる場所もあったんだが……」
大地震で死んだにも関わらず、それに気がついていない動物霊の集団もいるわけか……。
「トドメに……」
「まだあるの?」
思わず桜が声をあげたが、それは俺たち全員の気持ちでもあった。
「戦中にな。金属資源が不足したので、陸軍に目をつけられたのだ。徴兵されていた除霊師たちを中心とした一個大隊が、金富山の除霊と完全制圧を目指して失敗した」
「それはするだろうよ」
除霊師だけで一個大隊を揃えるなんて物理的に不可能なので、大半が一般の兵隊たちなのだから。
悪霊に銃弾や砲撃なんて効果はなく、それなら除霊師のみの少数精鋭の方が犠牲も少ないであろう。
「陸軍ってバカなのか?」
向こうの世界の軍は、霊力が少ない一般兵でも死霊やアンデッドにダメージを与えられる武器や道具を苦労して用意し、戦いに臨ませていたというのに……。
「戦争中で、しかも敗戦直前だったので切羽詰まっていたのであろう。精神力でなんとかなると」
「そんなわけあるか」
除霊に必要なのは、精神力でなく霊力なのだから。
昔にも霊を信じていない人はかなりいたので、甘く見た結果なのであろう。
「大隊長であった大月大佐以下、全員が玉砕してな。もっとも、国内の鉱山制圧に失敗しての玉砕では風聞が悪いので、別の南の島で玉砕したことにしたそうだが……」
そんなどうでもいいことに拘るなんて、やはり軍人もお役人だよな。
「というわけで、大月大佐以下も悪霊化している可能性が高い」
「「「「「「じゃあ、お疲れ様で」」」」」」
そんな、悪霊の正確な数すら把握できないような、質が悪く厄介な封印エリア。
どこの無謀なバカが除霊に行くと思うんだ?
「爺さん、ついにボケたか?」
「自分が行かないからって、それはないよね」
「安倍一族なら、即却下の案件よ」
「あきらかに危険じゃないの」
「忍は現実主義なので、できもしないことは引き受けないのです」
「さすがの生臭ジジイでも、行けとは言わないわよ」
誰一人、こんな危険な依頼は受けたくないと言い張った。
そんなに行きたいのなら、『死出の旅としてお前が行け!』と言った態度だ。
「ワシだって、こんなクソみたいな依頼は受けたくないんだが……おいっ!」
「はいっ!」
菅木の爺さんが、金富山の麓に来た時からずっと隣に無言で立っていた中年男性を大声で呼びつける。
彼は心の底から申し訳ないと言った表情をしながら、俺たちのそばにやって来た。
「説明せい!」
「はいっ! 実は三日後に、安倍一族若手有志による、金富山解放作戦が計画されておりまして……」
「ならいいじゃん」
俺たちがやらなくても問題ないじゃないか。
もし安倍一族が失敗しても、それは安倍一族の責任なのだから。
現在ではよく言われている、『自己責任論』というやつだ。
「まあ、確実に失敗して悪霊が増えるだけよね」
「そこなんですよ! 清水さん!」
「ねえ、あなたは誰なの?」
「ううっ……実は私は除霊師ではないのです。今回の件で当主以下、全員が対策に追われていまして……」
涼子も顔を知らなかった中年男性は、安倍家の当主から急遽秘密特使扱いで送られてきた、投資部門の社員だそうだ。
確かにそう言われると、銀行員的な真面目さが見受けられるな。
霊力も、一般人レベルのものしか感じられない。
「こういう時、普通は除霊師が説明に来るのが常識でしょうに……」
「それをすると、若手除霊師たちにこの動きが漏れてしまうので……」
「漏れるとまずいのか?」
「ええまあ……今の安倍一族は、岩谷彦摩呂の影響力増大に歯止めがかからない状態なのです」
先代当主の討ち死に、当代当主の力量不足による影響力の急速な低下。
さらに、岩谷彦摩呂が手に入れた霊器魔銃を用いた、彼と彼を支持する若手除霊師たちによる除霊成果の大幅なアップ。
このダブルパンチで、自分は除霊現場に立たないくせに偉そうに命令する当代当主への不満が増大し、若手ながら現場で成果を出している岩谷彦摩呂への支持が集まっているそうだ。
「岩谷彦摩呂は、これをチャンスと見ているのです。ここで一気に大きな成果を出し、当代当主を引きずり下ろし、自分が史上最年少の当主になろうと。そんなわけで、若手除霊師たちの大半が、今岩谷彦摩呂の支持に回っておりまして……。ここに除霊師を派遣すれば、確実に動きを掴まれてしまいます」
怖い物知らずというのは、本当に凄いな。
なにがどうすると、岩谷彦摩呂と安倍一族のショッパイ若手除霊師たちが、最低数千はいる悪霊の軍団と戦って勝てると思ったのか。
岩谷彦摩呂はああいう人なので、勘違いしてもおかしくないのか。
「あいつ、実はもの凄くバカなのかな?」
「バカなんでしょうね」
この中年男性は安倍一族の投資部門にいる人と聞いたから、岩谷彦摩呂みたいにいい大学を出ているのかもしれないな。
そんな彼からすれば、彼は自殺願望でもあるのではないかと思ってしまうわけだ。
「除霊師でもないあんたにもわかるのにな」
「意外とこういう時って、素人の方が冷静な判断ができるケースもあるわよ」
里奈の言うとおり、確かにそれはあるな。
「本人がやりたいって言うんだから、やっぱり自己責任じゃないかな? 止めると恨まれるだけだろうし」
岩谷彦摩呂はバカなので、他人が止めると『成功確実な除霊を妨害する、新しい安倍一族を作ろうとしている自分たちを妨害する抵抗勢力だ!』くらいにしか思わないはずだ。
それに、奇跡的に成功するかもしれない。
案外、この世の中で新しいことを成すのは、聞き分けの悪いバカなのだから。
新しい大きな成果を出すには、彼のようなバカの無謀な挑戦が必要というわけだ。
まあ、ほぼ失敗するだろうけどな。
冷静に分析すると。
「裕、そういうわけにもいかないのだよ」
「そうですとも。現時点での百名を超える若手除霊師の殉職は、今後数十年は祟りますから」
将来、実力のある除霊師に育ちそうな若手まで全員道連れは、安倍一族からすれば辛いか。
岩谷彦摩呂が勘違いして一人で除霊に赴けば余裕で見捨てるのだろうけど、彼はそこまでバカじゃない。
中途半端なバカなので、自分を支持する若手除霊師たちでチームを組んでしまうわけだ。
若手除霊師からすれば、彼に便乗すれば『金富山解放』というとてつもない功績を手に入れられる。
その功績が、将来どれだけ役に立つか。
自分がリーダーとして事を起こすのは嫌だけど、安倍一族若手ナンバー1除霊師の呼び声も高い岩谷彦摩呂の呼びかけに応えるのであれば、これは参加しやすい。
その辺の計算ができる岩谷彦摩呂は、除霊師ではなく経営者なら成功を収めたかもしれないな。
「商売なら失敗しても金を失うだけだけど、除霊での失敗は命も失うんだけどな」
「お金のことも大切だが、何度商売に失敗しても死にはしない。命は一度失えば終わるからな」
そんな理由もあって、案外若手除霊師たちの大半は自分たちがどれだけ無謀なことをしているのか理解していないわけだ。
リーダーである岩谷彦摩呂という偉大な除霊師に任せれば大丈夫だと。
勿論、すべての安倍一族の若手除霊師が同じ意見ではないと思うが……。
俺はそういう若手除霊師は、涼子以外見たことないな。
「それで俺たちが除霊するわけか」
「若者の暴走、若気の至りを、なぜか若いお主たちが止めに行くという皮肉なんだが……」
「仕方がないかな」
岩谷彦摩呂たちは失敗して死ねば終わりだが、俺たちは若手除霊師大量消失の後始末を一生行わなければならない。
先に金富山を除霊して、彼らの暴走を阻止する必要があるわけだ。
「裕、作戦を聞こう」
「せっかく久美子たちがいるから、戸高ハイムの二重五方陣をもっと派手にやる」
相手は軍団レベルなのに、たった六人で金富山に突っ込むなど。
無謀とは言わないが、疲れるし、効率も悪い。
この世界では、年寄りの除霊師ほどそういうやり方を好む傾向にあるが、俺たちは漫画やアニメのキャラクターではないのだ。
事前に高火力で雑魚を掃討し、残った悪霊のみと直接戦闘した方が話が早いはずだ。
「六人いるから、五方陣を六重まで張ることにする」
金富山を囲う五方陣を六重に張り、等間隔に人員を配置する。
次に、一斉に特殊なお札を介して五方陣内に魔力を流して金富山の中にいる悪霊たちの数を減らすという作戦だ。
戸高ハイムの時に使った『二連聖五方陣』の六連バージョンと言えばわかりやすいか。
人数はちょうど六名いるので、金富山を含む広大な範囲に一斉に攻撃を仕掛けられるはずだ。
「数だけはいる、邪魔な怨体や低級の悪霊を減らしてから、進撃開始ってわけね」
「そういうことになるけど、涼子たちは『六連五方陣』を発動させた場所で待機してくれ。俺だけで突っ込むから」
「でも、裕君。いくら『六連五方陣』で悪霊の数を減らすとはいえ、この攻撃で生き残れる中位から高位の悪霊たちが最低でも数百体は残るはず。危険では?」
「涼子、別に危険なのは俺だけじゃないけどな」
「残る私たちも? 斬首作戦を実行して、そのあと曲がりなりにも強い悪霊がここから逃げ出すかしら?」
「稀にあるとは聞くな。万が一の漏れを塞ぐはずだ」
涼子たちを『六連五方陣』を発動させた位置に分散配置するのには理由がある。
俺は、数が一気に減った悪霊たちの親玉……車田犬龍斎だと思うが、もしかしたら戸高家家臣か、大月大佐という線もなくはないか。 涼子の父親である安倍清明が、戸高備後守の悪霊を支配したケースも実際にあったのだから……の首を獲りに一人で金富山へと向かう予定だ。
だが、こういう多数の軍団を形成している霊団の場合、霊団のボスが討たれるかもしれないと予想し、離脱を謀り独立を目論む悪霊が出てくる可能性があった。
そういうところは、生きた人間でも悪霊でもそう考えに違いはないというわけだ。
強い悪霊が俺と戦うために集中した結果、霊団の支配力に隙ができるという理由もあるのだけど。
涼子たちを分散配置するのは、金富山から外に逃げ出そうとする悪霊への対処を任せるためであった。
もう一つ、封印エリアの外側で、涼子たちほどの霊力がある除霊師たちの反応があれば、軍団規模の霊団なら必ず偵察部隊を出す。
「裕ちゃんが霊団のボスを討つまでの間、私たちがそれを邪魔をする悪霊たちの気を引いて分散。さらに各個撃破するわけね」
「そういうこと」
各々一人になってしまうので心配な面もあるが、それを解消するため、これまで実戦経験とレベルアップを重ねてきたのだから。
今の久美子たちなら、高位の悪霊が相手でも滅多なことでは不覚を取らないはず。
「私たち三人はいいけど、里奈さんと桜さんも?」
「久美子、私だって大丈夫よ。だいたい、久美子の棒の扱いだって、私のナギナタといい勝負じゃない。始めたばかりの素人なんだから」
「私は、『治癒魔法』とお札の乱れ打ちもあるから」
「私にだってお札の乱れ打ちはあるわよ。新しい歌も用意してあるし」
「新しい歌?」
「神の歌い手である私は、レベルアップのおかげで悪霊に攻撃もできる歌を覚えたのよ。裕、凄いでしょう?」
「確かに……」
除霊師で歌や踊りを除霊の手段にする者は里奈以外にもいるが、その数は非常に少なく、せいぜい悪霊を弱らせるくらいが限界であった。
基本的にトドメは、お札で刺すしかないのだ。
その代わり、複数の悪霊たちに効果があり、弱った悪霊は安いお札でも除霊できるなどの利点もある。
向こうの世界だと、歌い手と踊り手が単独で活動することは少なかった。
軍隊やパーティについて行き、歌と踊りで味方の能力を一時的に上げるか、逆に死霊やアンデッドの力を弱めるかで、久美子の言い分は間違ってはいないのだ。
その久美子にしても、向こうの世界で『治癒魔法』の使い手が単独行動するケースは同様に少なかったけど。
「心配しなさんなって。裕は過保護なのよ。油断はよくないけど、今時の女は守られてばかりってのは性に合わないし、除霊師の実力に男女の差はないじゃない」
「それはそうだ」
除霊師は、むしろ女性の方が人数が多いからな。
女性は子供を産むので生を司る存在であり、死の象徴である霊とは真逆の存在であり、だからこそ除霊師への適性が男性よりも高い人が多いらしい。
『霊が見える』人は、だいたい3:2で女性の方が多かった。
ただ不思議なことに、その時代に名を残す優秀な除霊師は、なぜか男性の方が多かったけど。
安倍一族でも、不思議なことに女性の当主はこれまで三人しかいなかったと、菅木の爺さんから聞いたことがあった。
ところが、B級以上になれる除霊師は女性の方が多いという。
自分ことながら、確かに俺はパラディンに選ばれたけど、他のメンバー三名は女性だったな。
向こうの世界でも、女性の霊力持ちの方が多かったのを思い出した。
「勿論、危険だと思うのならやめてもいいけどね」
「葛山さん、随分と安い挑発ね。私がやめると思う?」
「さあ、どうかしら? 今の涼子の実力なら、安倍一族でも重宝されるんじゃない? ほら、寄らば大樹の蔭って言うじゃない」
里奈の言い分にも一理ある。
確かにこのところ安倍一族は混乱しているが、歴史ある古い除霊師一族なので過去に今と同じように混乱した時代もあったはず。
組織自体は非常に強固なので、将来立て直しに成功すれば、所属すると得られる利益は大きいはずだ。
「過去には、力及ばず滅んだ国、大組織、大企業の例に事欠かないわ。大体、岩谷彦摩呂の暴走を止められない時点で今の安倍一族の混乱ぶりは明白。寄るべき大樹はもう枯れようとしている。あと数十年で終わるのだと思うわ。安倍一族は」
「それでも、数十年保つんだ」
「規模が大きいから」
世界でも、安倍一族ほど長く続いた除霊師一族は他にいないからな。
組織なら少数あるのだけど、それ以上に歴史の流れに消えていった除霊師組織や一族は多かった。
国や会社と同じで、栄枯盛衰があるというわけだ。
「どんなに規模が大きい除霊師一族でも、滅びの結末という運命には逆らえないというわけですか。望月一族もそういった流れに逆らえないのですが、私は一生師匠を守ると決めた身。望月家が滅んでも問題ないですね」
さすがは、忍というべきか。
俺を守るという使命が最優先というわけか。
「まあ、除霊師と忍の望月家、どちらが滅んでも、私が戸高市に望月家を残しますとも。ねえ、師匠」
「……」
それは、俺と子供を作ってという意味なのか?
「冷静に考えて、岩谷彦摩呂と安倍一族及び彼を支持する若手除霊師たち数十名で金富山に突っ込むのと、広瀬裕を筆頭にこの六名で突っ込むのとどちらが勝算があると思う?」
「当然、裕ちゃん!」
「言うまでもないわね」
「そうね、マロとの心中はごめん被るわ」
「忍は、仕える主を変えないので」
桜の質問に、全員がこの六名で戦った方が勝算が圧倒的に高いと答えてくれた。
それがわかるということは、みんな除霊師として成長したという証拠であった。
桜も、さすがは別の世界の彼女がパラディンに選ばれただけのことはあり、猛スピードで除霊師としての経験と力量を増していた。
「私は生まれた時から裕ちゃんしか信じていないもの。裕ちゃん、早く終わらせて夕食にしよう。裕ちゃんはなにを食べたいのかな?」
「牛丼?」
「特盛で私が作ってあげるから。サラダもつけるけどね」
「はいはい。健康に気をつけますとも」
「「「「(幼馴染は強いな(わね))」
「あんなのでも、死なれるとしわ寄せがくるからな。じゃあ、作戦を始めようか」
危ないので、この作戦には参加しないという者は一人も存在せず、俺たちは急ぎ金富山の除霊作戦を開始するのであった。
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