第67話 動物霊
「裕ちゃん、ここは空気が重たいね……」
「この前、ここを解放したばかりなのにな」
「裕君、だから周辺の山野にいた動物霊たちに狙われたのよ。空いている席を奪い合うようにね」
長年封印されていた土地が解放された直後なので、この地は他に比べると霊的な存在がかなり少ない。
なぜなら、俺たちがほとんど祓ってしまったからだ。
ところが、そういう土地ほど彷徨う動物霊たちにとっては格好のポイントとなるわけだ。
乾いた布がよく水を吸うが如く、動物霊たちが集まってくるのだと涼子が説明してくれた。
「百数十年、手つかずの自然があるというのも大きいわね。動物は霊になっても自然が一番だもの」
「ここを占拠すれば、居心地がいいと感じたわけね。迷惑な話だけど」
「悪霊は常に居心地がいい場所を探しますからね。見つけると、途端にそこで地縛霊化しますけど」
「とにかく沢山いるのね。那須与一の弓のデビュー戦ね」
早朝。
俺たちは、戸高盆地内にある戸高真北山の麓に立っていた。
早朝なので爽やかな空気……とはいかず、どこか重たく、生臭い空気が漂っていた。
ここは百数十年ぶりに解放されたため、周辺の動物霊たちが集まってきてしまったそうだ。
菅木の爺さんはそれに危機感を覚え、俺たちに除霊を依頼したわけだ。
そういえば、日本除霊師協会は動かないのであろうか?
「動くか。ここは竜神会の土地なのだから」
「そういえばそうだったな」
とにかく、沢山集まったであろう動物霊たちを除霊しないとな。
動物霊自体はさほど強くもないし、久美子たちも大分レベルアップしている。
桜もこれまで貯めた経験値と、ステータスが現れるようになった直後の浄化でレベルアップしており、油断しなければ大丈夫はなずだ。
「それで、裕。どうやって呼び寄せるの?」
「そんな必要はないかな。相手は動物の悪霊だから」
動物霊は、自分たちのテリトリーに入ってきた侵入者を排除しようとするので、ここにいれば次々と押し寄せてくるはずだ。
よく、地元の人間に入っては行けない場所に入ったら、異形の化け物に襲われたなどという怪談話があるが、大半は除霊されていない動物霊の仕業である。
この手の動物霊は、比較的放置されやすい。
なぜなら、誰も除霊費用を出さないからだ。
動物の生き死にのサイクルは早いので、次々と発生してしまうというのもあり、国や地方自治体、猟友会なども十分な予算を確保できないのだ。
最近相続人不明で持ち主不明の山林が増えており、そういうところに潜む動物霊を除霊できないという事情もあった。
所有者の許可を得ず勝手に除霊師が入れないのと、誰のものかもわからない山林の除霊に金を出す人もいないというわけだ。
国や地方自治体は、当然個人所有の山林の除霊などしない。
法的に手が出せないからだ。
そうやって増えた動物霊たちだが、すでに飽和状態の山林から、最近解放されてキャパがあり、大好きな自然が多い戸高真北山、戸高盆地に集まってきた。
あまりに動物霊が多いと、今度は生きている動物にも悪い影響が出てしまう。
人間が悪霊に呪い殺されるように、野生動物も動物霊に呪い殺されるからだ。
動物霊は、定期的に除霊しなければ自然を保てないのだ。
このところ、その費用が出ないで苦労している国や地方自治体、山林の持ち主は増加傾向にあり、実はかなり危機的な状況にあったのだが。
「少しでも人の手が入った山林の霊的なメンテナンスは、人間がやらなければならないのだが、それでなにか目に見える利益があるわけでもない。税金を投じるにしても、霊を信じていない人からすれば税金の無駄遣いに見えてしまう。他の予算に繰り入れて誤魔化すのにも限界があるのでな。世界中がそうだが、日本の山林は物・霊双方の理由で荒廃が激しいのだよ」
「開発しすぎなのか?」
「そうだな。まさに自然の天罰であろう。もっとも、荒れた山林はまた数千年かけて自然の山林に戻る。そうなると、また人間が入れるようになるのに数千年かかるけどな」
人間が手を加えていない自然では、生・霊のバランスが自然と保たれるそうだ。
ただし、そういう自然に人が入り込めば、当然思わぬ不幸、弱肉強食の理により殺されてしまうことも多い。
今の日本の大半の自然は、先祖代々、除霊師も協力して長い年月と多くの手間をかけて人が入れるように改良された自然なのだそうだ。
「人間は、自分が思っているほど強くはないのだ。大いなる自然の前では、人間は無力な存在でしかない。ゆえに、人間が手を入れて安全にその中に入れるようにした自然は、人間が定期的にメンテナンスをしなければならない」
そこで手を抜くと、不自然に動物霊で溢れるわけか。
まったく人間の手が入っていない自然なら動物霊で溢れることはないが、そちらは人間が入ると危険なことも多い。
世の中、なかなか儘ならないものである。
「今、立ち入り禁止の山林の中には、霊的な手入れができず、立ち入れば動物霊たちによって殺されてしまう場所も多い。たまに人間が入って動物霊に殺された時には、『遭難だった』と適当な理由で死因が公表されるがな」
霊を信じない人たちへの配慮というわけか。
批判されないよう、隠しているというのもあるのであろうが。
「戸高真北山及び戸高盆地は、人間の手が入っている自然であり、定期的な霊的メンテナンスが必要となる」
「竜神様たちがいても? お稲荷様と山狗様もいるよね?」
確かに、久美子の言うとおりだ。
竜神様の加護のおかげで、そういうものは入ってこないのでは?
「まず、戸高真北山と戸高盆地は解放されたばかりで、この近辺に多数いる動物霊たちに目をつけられてしまった。次に、竜神様のご加護は、五芒星封印の解放が完全に終わっていないので完璧ではない。最後に、世の中に『万全』というものは存在しない。竜神様たちは戸高真北山と戸高盆地に動物霊たちが入り込んで来ないようにする仕事ばかりに集中していられないのだ。五芒星封印がすべて解かれても、数年に一度は動物霊たちの除霊は必要だ。結局、聖域を守護することができるのは人間だけなのだから」
「なるほどね」
そんな事情を菅木の爺さんから聞いてから、俺たちは戸高真北山と戸高盆地に集まった動物霊たちの除霊を開始した。
人数は六名……本当は七名だけど、菅木の爺さんは戦力にならないから……だが、今回俺は基本的に除霊作業に参加しないことにした。
久美子たちだけでどれだけやれるか、様子を見ることにしたのだ。
能力的にいえば、久美子たちはこの世界でもトップクラスの除霊師になった。
将来、単独での除霊もやらなければいけないので、俺がいなくてもちゃんとやれるのか確かめたいというわけだ。
実は、菅木の爺さんから言われてそうしているのだけど。
「裕、頼むぞ」
「わかった」
俺がやるのは、もしもの時の救援と、あとは動物霊たちをこの辺に呼び寄せることだ。
直径100メートル四方を、念入りに『治癒魔法』で浄化する。
動物霊たちが清浄な土地に居つこうとするのは、百数十年ぶりにこの土地が解放された途端、周辺の動物霊たちが集まってきたことで証明されている。
乾いた布が、よく水を吸うがごとしというわけだ。
ただ、その清浄具合の調整が難しかったりする。
動物霊自体が負の存在なので、微量マイナスくらいの汚れた状態にしなければならない。
『治癒魔法』が強すぎて微量でもプラスな状態にしてしまうと、神社や寺、聖域に悪霊が寄ってこないのと同じ状態になってしまうからだ。
動物霊たちに、『いい空き物件を見つけたな』と思わせることが重要なのだ。
「沢山来るぞ」
「爺さん、気がつくのが早いな」
「それがワシの数少ない特技なのでな」
菅木の爺さんは、除霊師としてはC級にも及ばない。
到底除霊師とは言えない存在なのだが、まるで高性能なレーダーみたいに悪霊の気配に敏感であった。
同時に、除霊師の実力を見抜くことにもだ。
「来たわね!」
それから数十秒後、久美子たちもこのエリアに多数押し寄せてくる動物霊たちの気配を感じ取ったようだ。
その数は数千かそれ以上かも……。
「爺さん、多くね?」
「だからだよ。近隣県もそうだが、霊的な手入れをしていない山林が多すぎるのだ。そこで満杯状態の動物霊たちが、ここを目指して押し寄せてくる」
「侵略みたいなものだな」
「動物霊たちに言わせると、新しい縄張りの確保なのだがな」
戦後、国産木材や山で採れる産出品で商売になった頃には、業者が定期的に除霊師に依頼をしていそうだ。
今は極少ない民間業者のみが動物霊たちの除霊に金を出し、残りは税金も投入しているそうだが、とてもではないがすべての山林を霊的にメンテナンスするのは不可能である。
放置された山林の動物霊たちが、空いている戸高真北山及び戸高盆地に押し寄せるのは不思議ではないということだ。
「裕、みんな。喜べ。今回の除霊は、国からも報酬が出るぞ」
「珍しいですね。あの国が」
この中で一番除霊師歴が長い涼子からすれば、『ケチな国が、除霊費用を税金から出す』ということ自体が珍しいことのようだ。
「国立公園に指定されたエリアがあるからだ。せっかくのニホンオオカミが動物霊たちのせいで死にでもしたら責任問題なのでな」
百数十年封印されていたせいで、戸高真北山及び戸高盆地に生息していたニホンオオカミは絶滅から逃れることができた。
今は国が、その生息地を国立公園指定して保護しているが、動物霊たちのせいでニホンオオカミに死なれると困ってしまうので、今回の除霊費用の一部を出してくれたそうだ。
悪霊のせいで死にましたと説明しても、霊の存在を信じていない人たちからすれば、他のミスで死なせたと思うし、『不祥事の隠ぺいだ!』と騒ぐだけであろう。
「納得しました」
「清水の嬢ちゃんの想像どおり、出した金額はセコイがな」
「ああ、やっぱり……」
「やっぱり?」
「大したお金も出さず、しかも自分のお金でもないのに、除霊師に対して上から目線の役人が多くて、古い除霊師ほどお上との仕事を嫌がるのよ。お役所仕事というか、霊を信じていない人を監視に寄越したりするのよね」
「どうやってチェックするんだ? それ?」
「さあ? たまに除霊師の注意も聞かず、悪霊に殺されるキャリア官僚とかいるみたい。自分に自信がある人が多くて、除霊師の注意を聞かない人がいるから」
その存在を信じていない悪霊の除霊に顔を出したのは、あくまでもキャリアを積むための仕事だから。
でも、悪霊なんて見えないじゃないかと、除霊師の注意を無視して勝手に行動する。
もしくは、除霊師をバカにして勝手な指示を出す。
その結果、悪霊に呪い殺される公務員というのは、毎年数名出るそうだ。
「急病死か、事故死ということにするのだけど。本当に優秀な人は、たとえ信じていなくても無理はしないし、除霊師に偉そうな態度を取らないけどね。滅多にいないけど」
「なるほどね」
「裕、始めるわよ」
そんな話をしている間に、大分動物霊たちが接近してきたようだ。
ちょうどいいタイミングだと思ったのであろう。
里奈が、悪霊の力を落とすための歌を歌い始めた。
彼女は悪霊たちの力を落とす歌と、歌を聞く除霊師たちの能力を一時的に上げる歌が歌えたが、今回は前者を選択したようだ。
みんなの実力を見るのも目的なので、後者だとわかりにくいと思ったからであろう。
それと、今回初めて大規模除霊に参加する桜に配慮してなのだと思う。
突然身体能力が上がってしまうと、違和感が出て思わぬ不覚を取ることもあるからだ。
「動きが鈍ったな」
「効果範囲が広まったかな?」
レベルアップの影響であろう。
こちらに向かってくる多数の動物霊たちの動きはかなり遅かった。
歌のせいで、全体的に力が落ちているのだ。
そしてもう一つ、その落ちた力を取り戻すためにも、空いている場所をどうにか占拠しようとするので、ますますこのエリアに押し寄せる動物霊たちの数は増えるはずだ。
とにかく数が多いので、効率よく除霊しなければ。
「始まったな」
「ああ」
まず最初は、久美子が『治癒魔法』の小さな塊を次々と飛ばして、動物霊たちにぶつけ始めた。
『治癒魔法』を飛ばす技は、向こうの世界ではかなりポピュラーな技だ。
相手がアンデッドなら、実質攻撃魔法をぶつけているのと同じだからなのだが、使える人は意外と少ない。
他の攻撃魔法と違って、『治癒魔法』は簡単に拡散、消滅してしまうからだ。
レベルアップの影響も大きいと思うが、久美子はその問題を上手くクリアーしていた。
ネズミ、イタチ、アナグマ、リス、モモンガ、ウサギなど。
まるで津波のように押し寄せる動物霊たちを次々と除霊していく。
「爺さん、多くないか?」
「数十年分なのでな」
「でも、手入れしていない山林に残っているのも多いんだろう? 大丈夫か?」
「大丈夫ではないが、ひとまず、飽和する危機は避けられた」
その場凌ぎという気もするが、俺たちも、無料みたいな金で全国の山林で動物霊の除霊ばかりしているわけにもいかない。
今は、この依頼に集中しよう。
「師匠! いきます!」
「髪穴に突かれて、あの世に逝きなさい!」
猪、熊などの大型の動物霊は、涼子が豪快に髪穴を振るって倒していき、千代子も、短刀型の霊器で死角から急所を斬り割いて除霊していく。
「久美子さん! 下!」
「えっ、土の下から?」
「はっ!」
日本に住む動物霊たちなので、当然地面の下にいるモグラたちもいた。
彼らは上手く久美子と里奈の懐に潜り込めたように見えたが、地面から顔を出した時点で、千代子が投げたクナイや手裏剣で除霊されてしまった。
クナイと手裏剣も、俺が霊器化したものである。
「ありがとう、千代子さん」
「モグラの動物霊かぁ……」
「人里に出られると、一番厄介な動物霊だがな」
「あいつら、悪霊になっても穴を掘るからな」
向こうの世界でも、モグラの悪霊のせいで崩れてしまった建物は多かった。
低級で簡単に操られてしまうのも厄介で、モグラの悪霊たちの穴堀り攻撃で城壁が崩れ、そのせいで落城して滅んだ国もあったくらいだ。
「たまに、突然道に穴が開いたり、建造物が崩壊したり。全部ではないが、一定の割合でモグラの動物霊の仕業なのだ。公的には、地面の液状化とか、建設会社の手抜きだということにするがな」
「酷いな、それ」
「そういう建築会社は、他に悪事を働いているようなところなのでな。すでにいくつかの手抜き工事をしているところに押しつけて辻褄を合わせているだけだ」
本当、霊を信じない人は頑なに信じないからな。
除霊師が苦労して目の前で見せても、『映像、トリック、プラズマ』などと否定されて終わってしまう。
そんな人たちに、モグラの動物霊の話をしても時間の無駄というわけだ。
各種手続きが進まなくなってしまうのだから。
「あとは、葛城会長の孫娘か。大丈夫か?」
「大丈夫です」
すでにステータスが見える状態で、ここ一週間ほど俺があちこちの除霊に連れまわして鍛えたのだから。
那須与一の弓に慣れなければいけなかったのもあるし、これまで貯まってったのにレベルアップに寄与できなかった経験値のこともあり、今の彼女はレベル50を超えていた。
油断しなければ、十分にやれるはずだ。
「確かに、よく当たるな」
桜は弓を使うので、担当は上空からこちらに迫る大小様々な鳥たちの動物霊たちであった。
日本に住む鳥類は非常に多く、動物霊化するものも多い。
渡り鳥などは旅の途中で命を落としやすく、これも悪霊化しやすいのだ。
桜は、目にも留まらぬ速さで速射を続けていた。
その矢も俺が細工を施したもので、やワシやハクチョウなど大型の鳥類を次々と仕留めていった。
「順調だな」
「広瀬裕が作った矢の性能がいいのよね。私が那須与一の弓を使うと言ったら、お祖母さんが特別な矢を送ってくれたのだけど、広瀬裕が改良したら、命中率も威力も桁違い」
向こうの世界でも俺が桜の使う矢を用意していたので、性能がよくて当然であった。
矢は消耗品なので、お札ほどではないが、常に新しい矢を用意しなければいけない。
全損とまではいかなくても、放てば壊れる確率が上がるので補修も必要というわけだ。
「鳥の動物霊って多いわね」
「飛べるからなぁ……」
他の動物霊は地面を移動しなければいけないが、鳥の動物霊は目的地に飛んで行けばいい。
移動の頻度は、他の動物霊よりも多かったのだ。
「遠いところからも集まりやすいのさ。例のお札を使ってくれ」
「わかったわ」
一体一体矢で倒していたら間に合わなくなるので、桜は俺から渡されていたお札を矢に突き刺し、上空で動物霊が集まっている中心部へと放った。
ちょうどそこにいたオオワシの動物霊に突き刺さったあと、お札が青白い炎を激しくあげてから派手に大爆発を起こす。
青白い爆発に巻き込まれた数十体の鳥の動物霊たちは、除霊され、消え去ってしまった。
「凄い威力ね」
「炸裂型のお札だからな。使える除霊師は少ないけど……」
威力の割には、使った除霊師が消費する霊力量は少なくなるよう、向こうの世界で作り方を聞いて覚えたんだが、この世界の霊力が10もない除霊師には使えなかったのだ。
桜の場合、このところのレベルアップで大幅に霊力量が上がったからこそ使えたのだとも言えた。
「最低でも、霊力が30ないと無理だな」
つまり、B級除霊師以上しか使えないのだ。
しかも大半のB級除霊師たちでは、霊力を回復させる霊薬がなければ一日に一回しか使えないであろう。
「弱い悪霊や動物霊相手なら、爆発の範囲に入っていれば複数除霊できるわけか。それでもB級除霊師以上には役に立つのか? いや、今日のような動物霊の集団相手には難しいのか……山林の霊的管理には課題が多い」
菅木の爺さんは政治家だから悩んでいるのであろうが、俺たちがその仕事ばかりにかまけているわけにいかない。
一回やれば数年は大丈夫……あくまでも、戸高真北山と戸高盆地のみだけど……と聞いたので、俺は早く終わらないかなと、久美子たちの様子を眺めていたのであった。
「終わったぁ……数が多いから疲れたね」
「そうね。というか、この辺どころか近隣県の熊で悪霊化したのは全部相手にしたみたい」
「今日はとことん、悪霊弱体化の歌を歌ったわね」
「ここまで数が集まると、かなりの悪意を感じますね。他の山林の所有者がここに追い出したのでは?」
「うちの生臭ジジイなら、そのくらいやって恩を売りそうね」
「さすがにそれはない。解放されたばかりの封印山林だったからだ。綺麗な空き家を奪おうとする悪霊は多いのでな」
「爺さんの例えはわかりやすいな。その前は旧山中村の住民たちの悪霊に占拠されてたけどな」
戸高真北山と戸高盆地に集まってきた多数の動物霊たちだが、特に俺が手を貸すまでもなく、久美子たちによって無事除霊された。
これだけできればA級除霊師に任じられても不思議ではないのだが、A級除霊師は全国どころか、下手をすれば海外
にも指名除霊に行かなければならない。
高校在学中か、五芒星封印の解除がなされるまでは、俺たちはB級除霊師のままだと思われる。
別に、それでも一向に構わないのだけど。
たまに旅行気分で各地に除霊に行くのはいいけど、常にだと疲れてしまう。
「あとは、五年に一度くらい動物霊たちを除霊するくらいでここは大丈夫だ。まあ、日本全国どころか、世界中で人が手を入れたあと放置され、動物霊たちに占拠された山林は多いがな。世界中の為政者たちが密かに悩んでいるよ」
「密かに?」
「霊を信じない人たちに話せば正気を疑われ、最悪政権を追われるのだ。密かに処置するしかあるまい。人口減の日本はまだいいが、他国は大変なのだ」
「その人口減の日本にある霊的処置を必要とする山林の除霊は、確か安倍一族がかなりの量請け負っていましたよね?」
「清水の嬢ちゃんの言うとおりだが、今の安倍一族では以前ほどの量を引き受けられまい。お札不足を原因とする、除霊費用の高騰もあるのでな」
まったく。
お札の買い占めなんて、岩谷彦摩呂はろくなことをしないな。
「それは安倍一族がなんとかするでしょう。裕君、お昼は一緒になにか食べに行きましょう」
と言いながら、涼子は俺と腕を組んできた。
彼女はよく久美子から控えめな胸と言われているけど、平均的なサイズはあるので、腕に胸の柔らかい感触を感じられていいと思う、いち高校生男子であった。
「裕ちゃん、ラーメン食べに行こうね」
「ラーメンいいな」
そうだな。
やっぱり労働のあとはラーメンだな。
麺大盛、煮卵、チャーシュー追加で、ご飯もあればなおいい。
さすがは久美子。
俺の好みをよくわかっている。
そして、涼子と反対側の腕を組んできたが……また大きくなったような気がするな。
「久美子も涼子も抜け目ないわね。今度こそ」
「師匠、私は師匠の行くところならどこでもいいですよ」
「ううっ、わかっていたけど、競争率激しいわね……」
「仲良きことは美しきかな。ここはワシがラーメンをおごってやろう」
「料亭とかじゃないのか?」
「最近、政治家が過度の贅沢をするとマスコミもうるさいのでな。しかも、今日のおごりはワシのポケットマネーだからな」
無事、戸高真北山と戸高盆地に集まった、集まろうとしていた動物霊たちの除霊は終了し、俺たちは少し遅めの昼飯を食べるため、戸高市内へと戻るのであった。
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