第54話 望月さん
「なに? あの男」
「一年生のくせに生意気よね」
「葛城さん、よくあんなのと一緒に除霊できるわね」
貧しいなか、工面して弓を購入した望月さんから、その弓を除霊の報酬として取り上げる。
そう宣言した広瀬裕に対し、多くの部員たちは彼を批判した。
私だってそうだ。
同じ除霊師だけど、あいつは生臭ジジイと同類の守銭奴でしかない。
生臭ジジイは寺の住職なのに、やれ除霊師としての活動やら、除霊協会の会長としての仕事だので、ろくに寺におらず、その弟である私の大叔父が、副住職として実務を担っているのだから。
ほとんど信徒さんたちの相手をせず、除霊で大金を毟り取る生臭ジジイのようにはなりたくないし、同類である広瀬裕とも早く距離を置きたいものだ。
それにしても、母子家庭で家が貧しいなか、ようやく手に入れた望月さんの弓を奪うなんて、広瀬裕は守銭奴で鬼畜なのね。
「ねえ、葛城さん」
「はい?」
「あなたは除霊師で、しかも除霊師協会のお偉いさんの孫だって本当?」
「ええ、認めたくないけどね」
悪霊に殺されるかもしれないから、除霊師として修行して霊力を鍛えているけど、あの生臭ジジイの生業なんて胡散臭いに決まっているわ。
私は一刻も早く、相川さんたちと怨体を浄化する日々から卒業したいのよ。
「なら、あの弓を葛城さんが除霊できないかしら?」
「さすがに、あのレベルの悪霊は……」
私もまだ素人なので、あの弓を確実に除霊できるとは断言できなかった。
除霊で失敗すれば死あるのみだからだ。
「でもさ、そんな偉い人の孫ならいけるんじゃない? 才能があるから」
「そういう家系ってことよね」
「葛城さんが除霊できれば、あの守銭奴除霊師たちに一泡吹かせられるじゃない」
「そんな! 葛城先輩はまだ除霊師になったばかりで修行中だと聞きますし、危険ですよ」
広瀬裕たちに反感がある部員たちが、私が除霊したらどうかと勧めてきた。
確かに、私が除霊できれば望月さんも購入した弓を失わないで済むはず。
ちゃんと除霊できるかどうかだけど、この二週間ほど毎日のように怨体の浄化をやって一度も失敗していないから、やれるような気がしてきた。
望月さんは止めるけど、この子も別にプロの除霊師ってわけではない。
私もこの高校に転校したばかりで、弓道部のみんなと揉めて弓道ができなくなるのも嫌だ。
私は生きている人間なのだから、信じていない人も多い死者の霊よりも、部内のみんなと仲良くやっていく方が重要ね。
広瀬裕は生臭ジジイいわく優れた除霊師らしいけど、私は一緒に仕事をしたことがないから、実は口だけのフカシ野郎かもしれない。
大体、あの生臭ジジイが評価する時点で、彼と同類の怪しい奴かもしれないのだ。
「話によると大昔の悪霊が憑いているそうだけど、あの話も怪しいわよね」
「弓のケースが新しすぎるもの。中身の弓も実は新しいんじゃない?」
「そういう貴重で古い弓なら、対で弓を仕舞う古い袋とかがあるはずよ」
「そうね、私が見てみるわ。除霊の用意をして、明日調べてみる。問題なければ除霊してしまいましょう」
「危険ではないですか? 私は、葛城先輩にもしものことがあったら……」
「大丈夫よ」
ちゃんと注意して、まずはどんな悪霊か様子を見るだけだ。
望月さんも優しいのはいいけど、それがかえって生臭ジジイや広瀬裕のような胡散臭い連中を増長させる要因にもなりかねない。
弓道部での人間関係にも支障が出るだろうから、これ以上は反対しない方がいいわね。
「明日、やりましょう」
「そうね。それがいいわ」
「部長も、生徒会の言いなりで困るわ」
「そうよ。確かに部員は減ったけど、生徒会からの予算削減提案にすんなり賛成してしまって」
「もっと貸与できる道具があれば、望月さんも入部が遅れることもなく、入学直後に弓道を始められたのに」
生臭ジジイのせいで二年生なのに転校させられ、私はとんだ迷惑よ。
せめて平穏無事に弓道ができるよう、私はこれまでの訓練の成果を用い、必ず呪われた弓を除霊してみせるわ。
それに成功すれば、もう広瀬裕たちと関わらなくてもいいのだから。
あの生臭ジジイの同類となんて、本当は一秒たりともつき合いたくないのだから。
「裕ちゃん、除霊の準備に三日かかるって変な話じゃない?」
「裕君なら、その場で除霊して終わりよね?」
「今日、除霊できたんじゃないの?」
自宅へと戻る途中、久美子たちから俺の言動に矛盾があることを指摘されてしまった。
それは事実なんだが、当然除霊を遅らせたのには意図がある。
実は今日このまま除霊していたら、日本除霊師協会会長である生臭坊主の介入が続いていたであろうからだ。
「会長が? どういうこと? 裕ちゃん」
「おかしいと思わないか? 今回の事件」
「そうね。あの弓は確かに曰くつきで、所有者が転々としていた噂があったわ」
「持っていると、一家全滅の危険があるから?」
「ええ。江戸時代末期までは、あの弓に憑いている左膳寺左衛門の悪霊のせいで一族が途絶えてしまったという話は度々あったの。特に武士は、那須与一の弓だから欲しがる人も多かった。でも、明治時代以降はそういう話はない。あの弓はかなり危険なもので、なんら処置をしないで所有していれば、たとえ短期間でも所有者に影響が出ないわけがないわ。でも、そういう噂は一切ない」
「弓のケースの裏側にはお札がびっしり貼られていたから、誰かが封印で弓の呪いを抑えていたってことかしら?」
「そういうことね」
あの那須与一の弓は、新しいケースに入っていた。
貼り付けられたお札のことも合わせると、どこか然るべき除霊師なり除霊師一族が厳重に管理していたはず。
多分、盗まれた際のリスクも恐れて、秘蔵していたのは秘密だったはずだ。
「そんなものが、いきなりネットオークションで出るわけないわよね」
「そういうこと」
里奈の言うとおりで、そんなに厳重に管理されていた呪われた弓がどうしてネットオークションに出るんだって話なのだ。
「資金難で管理できなくなったとか?」
「それなら、除霊師協会に相談くらいするさ」
これまで、多額のコストをかけて呪われた弓を保管していたんだ。
いきなりネットオークションで売り飛ばすような、無責任な真似はしないはず。
それに……。
「ああいう品は危険とわかっていても、裏市場に出回れば高額で取引される。あの子は、家にお金がなくて弓の入手ができず、入学後すぐに弓道部に入れなかったんだろう? そんな経済状態の子が購入できる代物じゃないさ」
「そうね、いくら所蔵すると死ぬと言われていても、那須与一が使った弓の魅力に抗えず、コレクションしようとする好事家は多いわ。ネットオークションで安売りする理由がわからないし、どうしてあの子が購入できたのかも不思議ね。もしあの弓が、大会の会場にでも持ち込まれてみなさい。いったい何人呪い殺されるか」
もしそうなった場合、刑事罰などはないが、それよりも怖い日本除霊師協会及び日本を裏から取り仕切る権力者たちから密かに罰せられるはずだ。
ケースにあれだけの封印を施していたということは、あの弓が危険なのがわかっていた。
お札の品質を見ると、金もかなりかけている。
あの弓を保管していたのは、それなりの除霊師か、除霊師一族のはずなので、いきなり無責任なことをしたら、日本除霊師協会として放置はできないはずだ。
「つまり、あの呪われた弓には不自然な点が多すぎる。でも、こう考えれば不自然じゃない。あの弓は、初めから望月千代子に入手させるつもりだった」
「裕、それはなんの目的で? 誰がそんなことを?」
「手間暇かけて、あの弓を封印し続けられた除霊師及び除霊師一族、もしくは組織なんてそんなにないだろう?」
明治維新以降、左膳寺左衛門の悪霊に殺された人の記録は、少なくとも日本除霊師協会には残っていない。
つまり、封印が完璧になされていたと見ていいだろう。
かなり資金力か組織力があるところのはずだ。
「裕君は、安倍一族だって言いたいの?」
「安倍一族なら可能だけど、わざわざこんな胡乱なことをする意味がない。安倍一族ではないな」
もしあの弓の封印が重荷になっているというのであれば、俺に金でも払って依頼すれば済む話だ。
安倍一族はまずあり得ないな。
「葛城桜がいるからな」
「裕ちゃんは、もしかして会長の仕業だと思っているの?」
「一番確率が高いだろうな」
「でも、なんの目的で?」
「俺に除霊させるためだ」
どうもこの世界の葛城桜は、霊力に目覚めて間もないうえ、これまで除霊師の世界と関わっていないので、とにかく判断が素人っぽくて稚拙なのだ。
霊の存在を信じず、除霊師を詐欺師扱いしていた部員たちに同調するようなところがあった。
「祖父としては、荒療治なのかもな」
これまで避けていた除霊師の世界に早く慣れてほしいと。
だから俺の凄さを見せるため、会長というか無門宗が保管していた弓を葛城桜が所属している弓道部の部員にネットオークション経由で売り渡し、除霊案件をでっち上げた。
「あの会長、葛城さんと裕ちゃんを結婚させたがっている節があるものね」
「らしいな」
だからあの会長は、霊力に目覚めた葛城桜をあえて無門宗に入れていなかったとも考えられる。
俺は神社の息子で神道系だからな。
彼女を無門宗の関係者にしてしまうと、結婚には相当なハードルがあると理解していたのであろう。
「そこまでする? あの会長」
「菅木議員と同じで策士ってことなんでしょう。でも、よく望月さんになにもなかったわね。下手に自宅でケースを開けていたら死んでいたし、そうなったら会長の不祥事で洒落にならないくらいのダメージが行くんだけど」
「あれ? でも望月さんは、購入した弓のケースを開けないなんてことあるのかな?」
「だからさ。実はもう一つおかしな点があるんだけど、それを今確認……っ、来たな」
スマホの着信音が鳴ったので出ると、電話の主は生徒会長である漆間先輩であった。
「裕ちゃん、いつの間に漆間先輩の番号を?」
「極めてオフィシャルな理由で聞いただけなので、久美子が気にすることはないぞ」
『いつでもデートに誘ってくれていいわよ』
「裕ちゃん!」
漆間先輩がおかしなことを言っておれをからかうので、久美子が怒ってしまった。
それよりも今は、先ほど頼んでおいた件だ。
「漆間先輩は、同じクラスである弓道部の部長に頼まれたんですよね? 部員が中古の弓を購入したら、それに悪霊が憑いていたって」
『ええ、そうよ』
「弓の持ち主について、詳しく話を聞きましたか?」
『一年E組の望月さんでしょう? なんでも母子家庭で、高価な新品の弓を購入できないから、ネットオークションで中古の弓を購入したらそうなったと』
これだけ聞くと、別に不自然な点はないな。
実は、もっと他のことを聞きたくて電話してもらったんだが。
「望月さんって、本当に一年E組に在籍していますか?」
『当たり前でしょう。生徒名簿にもちゃんと記載されているわよ。望月留美子さんね』
「「「えっ?」」」
漆間先輩から一年E組に所属しているとされる望月さんの名前を聞いた瞬間、久美子たちは驚愕の表情を浮かべた。
俺たちが今日顔を合わせた望月さんは、望月千代子だからだ。
「いて当然ですか……」
『所属しない謎の生徒とか、それは新しい学校七不思議かしら?』
「なんて軽いジョークをつい。わざわざ教えていただいてありがとうございました。生徒名簿まで調べてもらって」
『大した手間でもないから別にいいけど、弓道部ってなにかあるの?』
「それがわかるのは明日ですね。ちょっと危険かもしれないので、心霊委員会の担当ということで」
『わかったわ。気をつけて、裕君』
最後に、漆間先輩から十分注意するように言われ、電話は切れた。
「裕ちゃん! 漆間先輩まで裕ちゃんを名前で!」
「外国風にフランクなだけだから! それよりも、望月さんだ」
一見、弓道をやりたいのに弓を買うお金が足りなくて、最近ようやく中古で弓を購入したら呪われていたという不幸な少女望月さん。
ところが彼女は、色々と怪しい部分がある。
その答えが、漆間先輩が調べてくれた一年E組に所属する望月留美子という名の生徒であった。
「まさか、望月さんはこの学校の生徒じゃないってことかしら?」
「正解」
「でも、そんなこと可能なの? 誰か気がつくでしょう」
「そこが盲点なんだよ。久美子、弓道部って何人くらい部員がいるか知っているか?」
「十人そこそこだね。そんなに部員は多くないよ」
戸高第一高校はスポーツの強豪校ってわけでもなく、弓道はマイナー競技なので部員も少ないのだと久美子は教えてくれた。
「一年生には三人しか部員がいないそうだ。みんなクラスはバラバラだ」
「でも、望月さんが別人なことに気がつかないわけがないと思うわ」
「なあに、ここ数日誤魔化せればいいのさ」
もし望月さんが入学直後から弓道部に所属していたら、すでに入学式から二か月以上も経っているので、別人だと気がついた部員もいたはずだ。
だが、彼女には経済的な理由があって入部してからそれほど経っていない。
「一年E組の望月さんは入部したてだ。一年生の残り二人の部員たちが、他のクラスの女子生徒の下の名前を知らなくてもおかしくはない。『千代子です』と紹介されたら、『ふーーーんそうなんだ』と思うだろう」
実際に一年E組に望月さんがいて、さらにちゃんと部活に参加しているのだ。
もし一年E組にいるのが望月留美子で、部活に顔を出しているのが望月千代子だとしても、数日誤魔化して目的を達せられるとなれば、まったく問題ないとも言えた。
ある意味大胆な誤魔化しだが、逆に大胆だから気がつかれないという盲点もあるのだと思う。
「このあと望月さんがいなくなって、部員たちが一年E組を見に行ったとして、部室に来ていた彼女とまるで別人だとしても、それはまさしく学校七不思議だな」
「なんのために入れ替わっているの?」
「それは当然、俺たちや葛城桜への細工で他に犠牲者を出さないためさ」
弓の悪霊が他の人間に危害を加えないよう、上手く望月さんが誘導していたわけだ。
同時に、実は上手に部員たちも煽っていた。
「俺の除霊にイチャモンをつけていた部員たちを上手く煽っていたな」
一見望月さんは、彼女たちの非常識さを窘めているようにも見えたのだが、あの手の部活動では、いくら丁寧でも後輩が先輩に意見なんてしない方がいい。
余計に彼女たちが意固地になってしまうからだ。
だが彼女は意見している。
「除霊費用として望月さんの弓を報酬に貰う。家庭が貧しくてようやく弓を手に入れた望月さんに対しなんて酷いことをと。部員たちは余計に纏まったわけだ」
纏まった彼女たちが次になにを企むのかは、容易に想像できる。
葛城桜に無料で除霊させればいいと考えるのだ。
「無料でねぇ……でも、本当にそう思ってそう」
「理解できないものを祓う代金が異常に高額だと、反発する人間も多いってことだ」
彼女たちは、俺と葛城桜との間にある、除霊師としての実力の差がわからない。
だから部のために、お金がない可愛い後輩のために、弓を無料で除霊してほしいと彼女に頼むわけだ。
あくまでも善意からの行動で、その善意は、彼女たちの基準で胡散臭い除霊師である俺たちを批判した。
『地獄への道は、善意で舗装されている』とはよく言ったものだ。
「でもさぁ、彼女たちは悪霊を信じていないんじゃないの?」
「そこは微妙なところだな」
霊を信じていない人だって、それに触れると死ぬかもしれないと言われれば怖れるものだ。
それが悪霊かどうかは、厄介な悪霊ほど一般人にも見えてしまうので、もし彼女たちが安易に葛城桜を使って除霊させようとすれば、あの恐ろしい左膳寺左衛門を拝むことになるはず。
「そうなったら、幻覚やプラズマだと思う人以外は霊を信じるようになるかもしれないな」
「なにそれ?」
「昔、幽霊なんていないプラズマの一種だと言い張った教授がいたんだと」
その人は、霊などいないと証明しようとして、厄介な立ち入り禁止区域に入り、そこにいる悪霊に呪い殺されたそうだけど。
死因は病死ということになったので、結局霊を信じる人はそう増えなかったのは皮肉な結果だった。
「心のどこかで霊を信じているからこそ、葛城桜に無料で除霊させようとしているとも言える。本当に信じていない人は、そのままケースを開けるから」
そして、確実に呪われて死ぬ。
死んでしまえば、その人は霊を信じるも信じないも関係なくなる。
霊を信じていなくたって、死ねば悪霊化してしまう人もいて、そういう人は自分が霊になった自覚がないので、人に迷惑をかける悪霊になるケースが多かったりした。
自分は生きていると思い、他人に気がついてもらおうとして悪さをするからだ。
「人間って、意固地なものよね」
そう簡単に自分の考えを変えない人は多いからな。
「それでどうするの?」
「どうせ葛城桜が、明日にでも俺たちを出し抜いて除霊しようとするだろうな。彼女たちは新入りである彼女に、『仲間のために無料で除霊する』という枷を嵌めるわけだ」
もし断れば、狭いコミュニティーである弓道部で彼女は孤立してしまうわけだ。
これが、集団の怖いところだな。
「葛城さん、可哀想に」
「本人もそんなに嫌だとは思っていないさ」
もし除霊に成功すれば、もう涼子たちにあれこれ指導されながら浄化をしなくて済むからだ。
「あの会長、よほど業突く張りで生臭坊主なんだな。孫に嫌われていて」
日本除霊師協会の会長である祖父の印象が悪いので、葛城桜は除霊師を嫌悪している。
だからろくに除霊のことも調べず、初心者で大した霊力もないのに、左膳寺左衛門を除霊すれば俺たちと縁が切れると思っているのだ。
「彼女になにかあると厄介だと思うけど」
「だから、明日はちゃんと邪魔させてもらうさ」
涼子の言うとおり、葛城桜になにかあると、のちのち会長が敵になるかもしれない。
そうなると面倒なので、死なせはしないさ。
「ただ、俺たちが一番利益を得るために動くけど」
向こうの世界で一緒に戦った葛城桜と、この世界の葛城桜はやはり別人なのだ。
特に仲間意識もないので、俺はビジネスライクに動かせてもらうさ。
一人、化けの皮を剥いでとっちめてやらないといけない奴もいるからな。
「望月さん? 彼女って何者なのかな?」
「涼子なら詳しいと思うんだが、望月が本名だとしたら、その名前の除霊師に聞き覚えは?」
「あるわね。望月一族は、元は忍で今は有名な除霊師一族なのよ」
「もしかして、望月千代女の子孫ってこと?」
望月千代女って、よく歴史物では出てくるよな。
歩き巫女のトップで、武田信玄のために諜報活動をしていたと。
史実かどうかは知らないけど。
「他にも、服部家、百地家など。忍でもあり、除霊師もいる一族って、今も全国に残っているの」
涼子の説明によると、昔は厳しい修行の成果で霊力に目覚める忍が多く、彼らは諜報活動のみならず、除霊の仕事もこなしたのだそうだ。
「戦で討ち取った敵の武将や大名、兵士が悪霊化することが多くて、有名な大名ほど多くの除霊師を抱えていたわ。戦に勝っても、悪霊に呪い殺されたら意味がないもの」
それは江戸時代も同じだったが、明治維新後に彼らを失業の危機が襲った。
「明治政府に諜報員として雇われた者たちと、逆に失業してしまった忍もいたのよ。その中で、除霊師の才能がある一族が集まって今も活動しているわけ。望月家も、今も公安や警察で働いている一族と、除霊師の一族に別れたと聞くわ」
つまり、あの新人弓道部員望月千代子は、望月家の除霊師という可能性もあるわけだ。
「そんなに霊力は感じなかったけどな」
「忍の一族だから、霊力の隠蔽も得意なのね」
「元から大した霊力がないから、隠しやすいとも言えるな」
「みんながみんな、裕君みたいな霊力の持ち主じゃないもの。話は変わるけど、彼女が望月家の除霊師なら話は簡単ね。あそこは、除霊師でもあり忍でもある。会長の企みを、望月家が引き受けた可能性が高いわ」
なに食わぬ顔で、一年E組の望月さんとなり替わって弓道部に入部し、上手く俺たちに反感を持つ部員たちを煽っている。
『そういうことはよくない』と口では言いつつ、彼女たちの反感を上手く引き出す態度と話術は、さすがは忍というわけだ。
「それで、無謀な除霊で危機に陥った葛城さんを裕ちゃんに助けさせるわけだ」
そして、彼女が俺に惚れるって……つり橋効果なのだろうけど、そんなに上手くいくのかね?
「まあいいさ」
死人を出すのはよくないので、今は会長のシナリオ通りに動いてやる。
そのあとに、俺の行動をコントロールできなくても責任は持てないけどな。
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