第45話 広瀬裕VS高城弥之助

「キタナ! ジョレイシメ!」


「いきなりのお出迎えか。そして……」


「ヒトジチノデクダ」


「お可哀想に」


「ミジュクモノタチニハ、フサワシイタイグウダ」




 二度目の高城城であったが、今回はウザイ岩谷彦摩呂とその信奉者たちもいないので、すんなりと正面城門から中に入れた。

 すると、高城弥之助の悪霊らしき人物が目の前に立っていた。

 どうやら、俺を待ち構えていたようだ。

 そして彼の傍には、『ボケーーーッ』とした表情で立つ、岩谷彦摩呂とその信奉者たちがいた。

 目は開けているのだが、俺たちに気がついていないように見え、心ここにあらずといった感じだ。


「岩谷彦摩呂は、これ以上ない屈辱を感じているはずよ」


「屈辱? どうして清水さん」


「だって、曲がりなりにも除霊師が殺されていないのですもの」


 涼子が、久美子の問いに答える。

 悪霊がテリトリーに入った人間を殺す理由の一つに、将来自分を除霊してしまうかもしれないからというのもあった。

 それなのに、岩谷彦摩呂とその信奉者たちは意識を奪われ、カカシのように立たされているだけ。

 要するに、彼らは将来自分の脅威にはならないと思われたのであろう。

 いつでも殺せるから、今は俺たちを呼び寄せる出汁として使わせてもらった。


 もしそんなことをあとで本人たちが知れば、きっと除霊師として大いに屈辱を感じるであろうと。


「でもさ、今までの話を聞くに、アレがそんな風に思うかな? 岩谷彦摩呂って、ある意味いい性格しているみたいだし」


 トップアイドルとして多くの人を見てきた里奈は、岩谷彦摩呂という人物をまったく評価していないようだ。

 そう言われてみると確かに、彼の自信とプライドは異常なまでに高い。

 退治しようとした悪霊に捕らわれ、その悪霊が戦いたいと願う俺を呼び寄せるため生かされたなんて事実、自分の精神を保つため、またおかしな理論を唱えて現実逃避しそうだな。


「どちらでもいいか……」


 俺の仕事は、高城弥之助の悪霊を倒して高城城と高城神社を解放することだ。

 向こうが一対一の対決を望むのであれば、逆に好都合とも言える。


「しかし、どうして一対一に拘るかね?」


「タシャナド、シンヨウデキナイ」


 そう高城弥之助の悪霊が呟いた直後、俺たちの脳裏にある光景が浮かんだ。

 まだ人間であった頃の高城弥之助と、時代劇にでも出てきそうな武士たち。

 彼らは、高城家の家臣たちであろうか?





『弥之助様! このままでは、高城家は御家断絶となってしまいます! 是非とも高城家を継いでいただきたい』


『しかしだな。私は、亡き殿が農民の娘に産ませた子だぞ。幕府が継承を認めるのか? それに、これまでの私の境遇を考えるに、わざわざ高城家を継がずとも、この道場で剣術を教えていた方がという思いもある』


『お願いします! 戸高備後守の悪霊のせいで、今生き残っている高城家の者は弥之助様だけなのです。我らは、このままでは……』


『揃って浪人になるか……そなたらにも家族はあるであろうからな。仕方がない。ならば、私が高城家を継ごう』


 高城弥之助が、渋々ながら家臣たちの要請を受け入れる場面のようだ。





『弥之助様、本当によろしいのですか? 弥之助様は、この道場で剣術師範のまま人生を終えたかったはず。私と夫婦になって、道場を継いで……』


『すまん、お香。私は、浪人となり困窮するであろう家臣たち本人ではなく、その家族、女と子供が可哀想になってな。私も幼少の頃は苦労したから……』


『弥之助様はお優しすぎます』


『すまん、お香。私は必ずお前を迎えに行くから』




 御家断絶の危機で担ぎ出された生き残りの子は、母親が農民で本来大名になれる立場にはなかったというわけか。

 弥之助は町の剣術道場で名の知れた存在であったから、そこの娘と結婚して道場を継ぐ予定であった。

 それが急遽高城家を継ぐ身となり、彼は許嫁であるお香という道場の娘と一時別れを告げたようだ。

 しかし……。




『増井典膳! 貴様ぁーーー! 不意打ちとは卑怯だぞ! 貴様、戸高家の差し金で……』


『おーーーほっほ。弥之助様、大正解にございますよ。戸高家の家臣の数は、亡くなられた殿の奮戦でかなり減ってしまいました。つまり、我ら家臣たちからすれば、別にこの地を治めるのが戸高家でも高城家でも構わないということ。席はあるのです。勿論、反対する輩が多かったので、それは別途始末しておりますがね』


『それなら、最初から私に家督継承の話など持ち込まなければいいだろうが!』


『あなたがいると、戸高高則様も不安だったのでしょう。いつ高城家復活の話が出てくるやもしれませんしね。あなたが死ねば、高城家はもう滅亡というわけです』


『他にもあるぞ』


『貴様! 戸高高則か?』


『戦バカの伯父上に代わり、ようやく戸高家当主に相応しい僕の出番が来たんだ。同じく剣に優れている君を見ているとムカムカしてくるね』


『それは、お前がただ単に鍛錬をサボっているからであろう? 豚が』


『ムカツクな、こいつは! みんな、トドメを刺してしまえ』




 高城家継承のため、他の家臣たちとの顔合わせだと呼び出された高城弥之助は、彼がいると戸高家復活の邪魔になるという理由で、仕官の約束で引き抜かれた元高城家の家臣たちによって暗殺されてしまったようだ。


 なるほど、だから高城弥之助は他者を信じられなくなり、他の悪霊や怨体を吸収して単独で厄介な悪霊となったわけか。

 脳裏に浮かぶ映像はここで終わった。


「それにしても、あの戸高高則って人」


「戸高高志にそっくりね」


「なんというか、救いようのないクズ一族ね」


 そんなクズだからこそ、今でもなんとか生き残れているかもしれないので、人間とは複雑な生き物だなと思う俺であった。

 戸高家の人間は、卑怯な奴が多いというのは理解できたけど。


「オマエヲコロシ、アクリョウトナッタオマエヲキュウシュウスレバ……」


「戸高家の人間を殺し放題か? 再浮遊化が狙いだな」


 悪霊は、恨みのあった地に縛られるケースが多いが、ある程度まで強くなると自由に動けるようになる。

 これを『再浮遊化』と呼ぶのだが、これはかなり厄介な悪霊であり、高城弥之助はこれを目指して俺を呼び寄せたわけか。

 俺が殺されれば厄介な悪霊になる可能性が高く、これを吸収すれば高城弥之助の悪霊は再浮遊化が可能なまでに強くなると。


「そんな理由で俺を殺すなよ。いいだろう、高城弥之助! お前を除霊してやる!」


 俺は、『お守り』から神刀ヤクモを取り出した。

 相手は剣の達人らしいので、霊力や身体能力を生かして戦わないと。


「……」


「……」


 一方、高城弥之助の悪霊も刀を構えて俺と対峙を始めた。

 どうやら彼は、戸高備後守よりも剣士としては優れているようだ。

 俺の挑発にも乗らず、まるで射るかのような視線で俺を見つめている。

 これは、迂闊に先に動いた方が負けというパターンのはずだ。


「昔の悪霊は、剣の達人ばかりでやりにくいな」


 俺も向こうの世界で三年剣を鍛錬してきたけど、高城弥之助に比べれば俄かの誹りから逃れられないからな。


「……」


「っ!」


 無詠唱で治癒魔法の矢を何本か飛ばしてみたが、すべて余裕をもって刀で弾かれてしまった。

 これは、遠距離からの魔法攻撃で仕留めるのは不可能だな。

 勝敗は、どちらが相手を斬れるかで決まるはずだ。


「裕ちゃん……」


「相川さん、残念ながらそれどころじゃないわよ」


「そうみたいね……」


 久美子たちが俺に加勢しようとしたその時、ただ突っ立っていたはずの岩谷彦摩呂たちが動き始め、得物を手に襲いかかってきた。

 その動きはいまいちであったが、久美子たちの俺への加勢を阻止するには十分であった。


「なるほど。だから、生かしてデクにしてあるのか」


「コノジダイノジョレイシハ、ミジュクモノバカリダ。オマエイガイハナ!」


「ご評価いただき感謝するよ」


 俺は神刀ヤクモで、高城弥之助は死ぬまで愛用していた刀らしきものでお互いに斬り結んでいた。

 ステータスの数字で圧倒しているので、俺の方が攻撃の速度も回数も多いのだが、なぜか高城弥之助の霊体には掠りもしなかった。


「まるで、俺の動きを事前に読んでいるみたいだな」


「ウケナガシノゴクイダ」


 なるほど。

 俺が攻撃する際に発生するわずかな空気の流れを読み、俺の攻撃手段を先読みしてかわしているわけか。

 これは、戸高備後守よりも厄介な悪霊だな。


「死ね!」


「悪霊め!」


「彦摩呂さん、この悪霊たち、素早いですよ」


「はははっ! 任せたまえ!」


 一方久美子たちは、高城弥之助の悪霊に操られている岩谷彦摩呂たちの攻撃に苦戦していた。

 どうやら彼らの精神を操り、久美子たちを悪霊に見せかけているようだ。

 大半の意識を奪われているような状態なので、岩谷彦摩呂たちは本当に久美子たちが悪霊に見えるらしく、持っている刀やナギナタ、棒などで攻撃を続けている。

 ただ、一度に十数体を同時に操るのは難しいようで、一人一人の動きはかなり鈍かった。


「涼子、お札でも貼ろうか?」


「駄目よ。そんなことしたら、彼らは廃人になってしまうもの」


 そう。

 悪霊に操られているということは、彼らの魂や霊体に悪霊のそれが混じっている状態なのだ。

 岩谷彦摩呂たちをお札で攻撃してしまうと、悪霊の影響力からは脱しても、除霊の影響で魂や霊体にダメージを受け、死ぬまで意識を取り戻さないかもしれない。


 多分、高城弥之助の悪霊はそれを理解して岩谷彦摩呂たちを動かしているのだ。

 彼らを殺すわけにいかないので、久美子たちは俺への助っ人に入るところではない。

 俺との一対一の対決を邪魔されないようにというわけだ。


「アクリョウカシタキサマヲキュウシュウシ、トダカケノレンチュウヲコロス!」


「俺が死んで、必ず悪霊化するってこともないけどな」


 悪霊として力をつけ、高城城の縛りから解き放たれ、憎き戸高家の人間を呪い殺したいわけか。

 そのために、岩谷彦摩呂たちを人質に取るとは、悪霊にしてはかなり冷静……つまり、危険というわけだ。


「飛翔斬!」


「っ!」


 神刀ヤクモから治癒魔法の衝撃波を作り出し、高城弥之助の悪霊にぶつけてみたが、かなり近距離から放っても余裕で避けられてしまう。

 素早さのステータスでは俺の方が圧倒的に上のはずなんだが、やはり俺の体の動かし方から攻撃の種類と方向を読み取っているな。


「ミジュクモノメ」


「悪かったな」


「ワタシニコロサレルガイイ」


「なにを言うのかと思えば……俺は百五十まで生きるから」


「ムリダナ。オマエノコウゲキハアタラズ、タスケモコナイノダカラ」


 あらためて周囲を見てみると、みんな高城弥之助の悪霊に操られている岩谷彦摩呂たちに苦戦しているな。

 そのままお札で攻撃したり、ましてや涼子が髪穴で霊体を突いてしまうと廃人になってしまうから、無傷で取り押さえるのに苦戦しているようだ。


「はははっ、涼子君に似た悪霊だね! 現代に生まれ変わった第二の安倍晴明である私に除霊されるといい」


「あんたにそこまでの実力はないでしょうが!」


 悪霊に操られて攪乱状態なのか、それとも実は正常な状態……なわけはないか。

 自称超一流除霊師である岩谷彦摩呂は、涼子を悪霊だと思って攻撃していた。


「こんな安物のお札でも、天才である私にかかれば」


「えいっ!」


「そんなぁーーー! 私の五百万円のお札がぁーーー!」


 それにしても岩谷彦摩呂って、冷静に見るとギャグキャラだよな。

 言うほど除霊師としての実力もないようで……それでもこの世界基準ならかなりのものなのだが……かなり高額のお札で除霊を行っているようだ。

 随分と贅沢なことをしているようだが、彼の実家である安倍家の分家は、いわゆる不動産成金で大金持ちなのだそうだ。

 コストを無視して除霊を行い、功績と評判を得ている事実が今判明してしまったな。


 彼が涼子に投げつけたお札は、彼女が対抗して投げた俺特製の『チラシの裏に筆ペン』お札により相殺され、青い炎と共に消えてしまった。


 それだけ涼子のレベルが上がって強くなったのと、岩谷彦摩呂が安蘇人大古墳の時からまったく成長していない証拠であった。


「次のお札だ! 一千万円だぞ!」


「えいっ!」


 続けて一千万円のお札を投げつける岩谷彦摩呂であったが、久美子が投げつけたやはりチラシの裏に筆ペンお札により相殺され、青白い炎と共に消えてしまう。

 これで一千五百万円……しかも、悪霊でもない相手に投げつけて無駄にしてしまうなんて……。


 実家が金持ちなので、そんなにダメージはないのかもしれないけど。


「かくなる上は! 二千万円のお札だ!」


「また? はい」


 三度、岩谷彦摩呂は高額のお札を、今度は里奈に向かって投げつけた。

 倒せそうな悪霊(に見えているだけ)にシフトしたつもりらしいが。これも里奈が投げつけたチラシの裏に筆ペンのお札で相殺されてしまう。

 青白い炎と共に、これで合計三千五百万円が煙と共に消えた。


「クソッ! まだだ!」


 岩谷彦摩呂はいまだ俺たちが悪霊に見え続けているようで、持っているお札を次々と投げつけて無駄にしていた。

 多分億を超える経費であろう。

 それにしても高額のお札ばかり。

 さすがは、実家が金持ちなだけはあるな。


 ただ、このお札攻撃のおかげで涼子たちは俺の救援に向かえないのも事実であった。

 他の若手除霊師たちも操られており、これでは助っ人は難しそうだな。


「いて邪魔になるとか……とんだ除霊師たちだな」


「トウセイノジョレイシハ、ミジュクモノバカリダナ」


「言っておくが、俺は違うぞ」


「クチデハナントデモイエル。コウゲキガアタラナイクセニ。オマエハマシデハアル」


「俺が今まで、お前のような剣術に優れた悪霊との戦闘経験がないと思ったのか?」


 向こうの世界でも、死後に死霊になってしまった凄腕の騎士や剣士との戦闘など、飽きるほどやっていた。

 剣術なんて一年や二年でどうこうなるものでもなく、ならば答えは一つ。


「無理に同じ土俵に立つ必要はない。俺はお前よりも圧倒的に霊力に優れているのだから。どうだ? 動けるか?」


「ナニッ! トツゼンアシガヌイツケラレタカノヨウニ!」


 どうやら高城弥之助の悪霊も、己の剣術に自信がありすぎて油断するタイプだったようだな。

 かなり簡単に暗殺されてしまったようなので、剣術には優れていても、実は慎重な性格ではなかったのであろう。

 戸高備後守と似たような性格なのかもしれない。


「見事罠に嵌まってくれてありがとう。周りを見てみな」


「クソッ! ゴボウセイカ!」


 いつの間にか、高城弥之助の悪霊の周囲には小さな三角錐型の水晶が二重の五芒星型に配置されており、その中心にいた高城弥之助の悪霊は二重の五芒星から発する青白い光に包まれ、その場を動けなくなっていた。


「ニジュウダトォーーー!」


「他の悪霊を吸収してまで強さに拘るお前だからな。普通の五芒星だと逃げられるかもしれないだろう? そして!」


 さらに指で小さな三角錐型の水晶を弾き飛ばしていき、高城弥之助の悪霊は三重、四重の五芒星に包まれ、次第にその体が薄くなってきた。

 五芒星の中で発動させた治癒魔法のせいで、高城弥之助の悪霊の霊力が消滅の危機を迎えていたのだ。


「ウゴケナイ! コノワタシガ!」


「逃がすか」


「トダカケノヤツラヲネダヤシニィーーー!」


「気持ちはわかるが、お前の願いは叶えられない」


 俺としては、戸高高志のみなら別にそれでいいような気もしなくもないが、悪霊が当初の目的を達成したので成仏したなんてケースは少ない。

 なにかしら理由をつけて犠牲者を増やし続けるからこそ、見つけたらなるべく早く除霊するか、悪霊がいる場所に人が入らないようにするのだから。


「カラダガァーーー! ワタシハァーーー!」


「あの世で、戸高家の人間に恨みを晴らすんだな。どうせ連中も地獄にいるさ」


 歴史のある名族なんてそんなもの……ではあるのだが、戸高家の連中は本当に酷いな。

 そのせいで、戸高高志の祖父の代まで没落していたのであろうが。


「キエテナルモノカァーー―!」


「悪いが、ちゃんと除霊されてくれ」


「クソォーーー!」


 最後に、神刀ヤクモでトドメの一撃を加える。

 四重の五芒星のおかげで、高城弥之助の悪霊は身動きが取れないまま神刀ヤクモによって袈裟斬りにされた。

 生物には傷一つつけられない刀だが、悪霊には絶大な効果を発揮するため、高城弥之助の悪霊はこの一撃で完全に除霊された。


「最後の手段! 一億円のお札だ! あっ……」


「倒れた? 裕君?」


「ああ、無事除霊が終わった」


 高城弥之助の悪霊が除霊されたことにより、彼に操られていた岩谷彦摩呂たちもその場に糸が切れた人形のように倒れ伏してしまった。

 どうやら、悪霊の支配下から無事脱したようだ。


「裕ちゃん、いいお札使っちゃった」


「別にいいさ」


「でも……」


「久美子が無事ならいいんだ。悪いのは、採算度外視の高額お札使いであることが判明した、『金で除霊している彦摩呂』だからな」


「裕ちゃん」


「おほん、その分も請求するからいいのよ」


 涼子さんの言うとおりではあるのだが、それはちょっと露骨な言い方かも。


 それにしても、岩谷彦摩呂は迷惑な奴だったな。

 自分が勝手に高額のお札を消費するだけならいいが、俺たちにまで高品質のお札を使わせやがって。

 自信過剰なのはいいが、それが高額のお札を用いていたからだったとか。

 それでも実際に戦果はあがっているので、若い除霊師たちに支持されているから面倒な奴ではある。


「裕、これからどうするの?」


「あとは、念のため高城城全体を治癒魔法で浄化して終わりだ。弱った悪霊や怨体が一体でも残っていると面倒だからな」


 それに、あとで契約違反だと言われても困る。

 長年高城弥之助の悪霊のみが占拠していたと言われているが、必ずしもそうという保証はなく、最後までちゃんと確認するのがプロの除霊師だからだ。


「裕、プロだねぇ。で、これらはどうするの?」


 里奈の言う『これら』とは、今倒れ伏している岩谷彦摩呂と、彼を信奉する安倍一族の若手除霊師たちのことであった。


「見た感じ、高城弥之助の悪霊からの支配を逃れて気絶しているだけだから……どうしようかな?」


「裕君、彼らのことは安倍一族に任せればいいわ。どうせ、この城の外で待機しているわよ」


 救助は、安倍一族の連中に任せるか。

 同じ一族だし、今回の件で少しは懲りて大人しくなるであろう。


「それは無理ね」


「無理なの?」


「岩谷彦摩呂も、彼を信奉する若手除霊師たちも、根の部分で今の当主と長老会に不信感を抱いているのだから。助けなければ戦力不足に陥り、助けても感謝もされず反抗を続ける。この点のみは、長老会の連中に同情するわ」


「世の中儘ならないんだな」


 高城城の完全な除霊を終えた俺たちは、岩谷彦摩呂たちの救助と介抱を安倍一族に任せて先に帰宅の途に着くことにする。

 自信満々で除霊に挑んだ岩谷彦摩呂であったが、今回の無様な敗北で荒れ狂うかもしれず、だが俺たちに責任がある訳でもなく、触らぬ神に祟りなしだなと、急ぎその場を離れるのであった。

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