第30話 怨念小箱
「この地図を見るがいい」
「戸高山を中心とした地図ですね」
「そうだ、相川のお嬢ちゃん」
「戸高山の地下にあるという、ワシは見たことないが巨大な地底湖。聖地の中心部分である」
「これがなにか?」
定期的に浄化や除霊の仕事をこなしながら学校にも通う日々を送っている俺たちであったが、今日は大切な用事があると、菅木の爺さんが訪ねてきた。
そんな彼と、毎日恒例の買い食いを終えて戻ってきた竜神様たちも姿を見せ、そこに俺、久美子、涼子さん、さらになぜか竜神池稲荷神社のお稲荷様もこの場にいた。
彼も呼んでいないはずなのに、竜神様と同じくさすがは神とでも言うべきなのか。
普通の人間よりも勘が鋭いようだ。
「聖域の強化であろう? 現代の為政者よ」
「為政者と呼ばれるほど偉くはないですが、この地にそれなりに影響力を持つ人間ではあります」
菅木の爺さんは、人間に変装している竜神様たちの正体に気がついているようだ。
赤竜神様からの問いに、丁寧な口調で答えていた。
「我らが言わずとも、現代の為政者が説明すればいい」
「では、代表いたしまして……聖域は、五芒星により完成するのだ」
そう言うと、菅木の爺さんは広げた地図を指し示した。
「中心は当然、戸高山であり、その南側麓に正式名称戸高赤竜神社と戸高山青竜神社があって、聖域を守護している。北側の麓にある裏森、竜神池、竜神稲荷神社も同じだ。葛山刑部の悪霊が除霊されたのは大きい」
戸高山の山腹にある祠にも、小さな赤竜神神社と、青竜神神社があり、これも戸高山の聖域強化に役立っているそうだ。
戸高山は聖域の中心であるため、その分配置された神社などが多いのであろう。
「ここを中心に、聖域の強化を完成させるには五芒星を作る必要があるというのは先ほど話をした。まず、西側はここだ」
菅木の爺さんは、すでに除霊された戸高ハイムを指し示した。
「ここが、五芒星の左側ってことですか?」
「そうだ。元々あの土地は、戸高備後守の首塚が置かれることに決まったほど、霊的に安定した土地だったのだ」
そのまま封印しておけば安全だったのに、わざわざ封印を解いて悪霊の巣にしてしまったのだから、戸高不動産が潰れても仕方がないというわけか。
バカほど余計なことをするわけだ。
「でも、そこになにかありましたっけ?」
「戸高ハイムの緑地部分、首塚の跡に小さな神社を建てている。完成すれば、五芒星結界の一端となるわけだ」
五芒星の五つの端には、すべて神社ができるわけか。
そのご神体が、中心にある聖域を守り、強化するというわけだ。
「ご神体はあるのですか? 神社って、ご神体がないと意味ないですよ」
安倍晴明は元々陰陽師の出であり、彼は五芒星を使っていた。
それを利用する聖域結界の仕組みについて、知識くらいは知っていたが、結界を維持するため新しく作った神社にはご神体が必要。
そのあてはあるのかと、赤竜神様は菅木議員に尋ねていた。
「あるはず……ですな?」
「ちょうどいい子を拾ってきたからね」
「拾ってきた?」
「ほら」
そう言うとお稲荷様は、着ているパーカーの懐からなにかを取り出した。
よく見るとそれは、小さな子ギツネであった。
「うわぁ、可愛い!」
「おいで、子ギツネちゃん」
「ずるいよ、清水さん。私のところにおいで」
とても可愛らしい子ギツネなので、久美子と涼子さんは抱っこしたくて『おいで、おいで』とやっていたが、子ギツネはお稲荷様の傍から離れなかった。
「二人とも冷静に。その子もお稲荷様だから、お稲荷様の傍にいるのが優先だと思うぞ」
「へえ、さすがだね。普通の子ギツネとお稲荷になったキツネを見分けるなんて」
お稲荷様から褒められてしまったが、この子ギツネから出ている霊力を探れば、普通の除霊師ならわかるはず。
わかるはずなんだけど……。
「そこの二人は、このチビの可愛さのせいで察知できなかったみたいだね」
「しょぼーーーん」
「不覚です」
お稲荷様から、除霊師としては迂闊だと評価されてしまった久美子と涼子さんは、ガックリと肩を落としていた。
「そのお稲荷様は?」
「チビかい? ちょっと戸高市の南の方で見つけてね。きっと昔はあった稲荷神社がなくなったからなんだろうね」
お稲荷様は、子ギツネを祭っていた戸高市南部にある稲荷神社がいつの間にか壊され、そのご神体であるチビが道路の端で佇んでいたのを拾ってきたそうだ。
「可哀想にの」
「ねえ、ご神体も移さないで神社を壊すなんて、もし妖狐になっていたらどうするんだって話。あまり文句ばかり言っていてもしょうがないから、この子を戸高ハイムの庭に建てる神社のご神体にするから」
「わかりました、手配しましょう」
菅木の爺さんは、お稲荷様からの提案を受け入れた。
どうせ実作業は竜神会でやるんだろうけど。
「これにより、五芒星の西側、戸高ハイムの庭に作る『戸高西稲荷神社』の完成を持って、五芒星が無事強化されることとなる。戸高西稲荷神社の管理は竜神会がやるから問題はないはずだ。それで本題だ。次は、五芒星の北の位置。戸高山の北部『戸高真北山及び、戸高北盆地、旧山中村』この地の除霊が裕たちの新しい任務となる」
「任務って……でも、戸高山の北部って、誰も行かないし、どんなところか話にも聞いたことがないな。久美子は?」
「そう言われると、ただ絶対に行くなって。清水さんは知っているんでしょう?」
「概要くらいはね。戸高真北山及び、戸高北盆地、旧山中村は、戸高備後守の悪霊なんて目じゃない。A級除霊師でも近寄らない、封印された地よ。その辺の事情は、菅木議員の方がお詳しいんじゃなくて?」
「まあな。一般人には絶対に秘密の情報であるからな。悪霊の巣で、幕末に立ち入り禁止とされた時点で、今はそこがどうなっているのか知る者はいない。なにしろ、封印エリアの中に入れないのでな」
「入れない? それはおかしいだろう」
世界中には、そこに入らない方がいい。
入ると悪霊に殺されてしまう。
という危険エリアが各地に存在する。
当然立ち入り禁止となるのだが、この世の中の半分の人間が霊なんて信じていない。
勝手に立ち入って死ぬ奴が毎年必ず出てしまう、という場所は多かった。
霊を信じていない人たちは、その人は遭難した、現地で急病になって死んでしまったという風にとらえてしまうので悪霊のせいだとは思わない。
そんなわけで、どんなに危険な場所でも必ず立ち入る奴が出てしまうのだ。
それほど広くなければ、封鎖したり、警備の人を置き、中に人が入らないように監視できるが、すべての危険な場所でそれができるわけがない。
いくら金や人手があっても足りなくなってしまうからだ。
結果、毎年日本では必ず数十名~数百名は、危険地帯の悪霊に殺されていた。
表向きは、遭難か、事故か、現地での急病死扱いにしてしまうけど。
「本当に入れないのだ。なぜなら、剛が強固な封印を施したのでな。そのせいで、安倍一族には嫌われたようだが……」
菅木の爺さんがそう説明すると、涼子さんに対し意味ありげな視線を送った。
「事実なのか? 涼子さん」
「ええ、戸高真北山及び、戸高北盆地、旧山中村は、除霊なんて不可能と言われている、日本でも五本の指に入る危険地帯なのよ。手に負えない、これ以上管理できないと、かなり前に戸高市が安倍一族に管理を依頼したって聞いているわ」
その理由は、いくつか存在するようだ。
まず、範囲が広大なので、毎年必ず中に入り込んで死ぬ人が出てしまったこと。
危険地帯全部をフェンスで覆うのは戸高市の予算の都合上不可能であり、例えフェンスで覆っても、よじ上って中に入ってしまえば意味がない。
「子供たちが興味本位で入ってしまう。肝試しで入ってしまう人たちもいて、幕末から、裕君のお祖父さんが封印を施すまでに、三百人くらい死んでいるって聞いたわ。当然、死んだ人たちも悪霊化している可能性が高いから、ますます厄介な場所になったでしょうね」
「安倍一族は、手を打たなかったのか?」
「それが、安倍一族としても、フェンスで囲って見張りの人を置くしかないって返答したらしいわ」
いかに安倍一族といえど、広大な広さがある危険地帯を永遠に封印するなんて難しい。
戸高ハイムを短期間封印しただけで、あれだけの手間と金がかかっているのだ。
やるにしても、莫大な金がかかると返答した。
「そんな金があれば、きっと戸高市が自分でなんとかしたと思うけどね」
「でしょうね」
こうして対応が後手後手に回っていたところ、そこで亡くなった人たちの遺族に訴えられ、まさか裁判で争うわけにいかず、和解で多額の賠償金を取られてしまったそうだ。
「裁判になったら駄目なの?」
「ややこしいからな」
久美子の疑問に、菅木の爺さんが一言で答えた。
半分が霊を信じていないのに、悪霊に殺された人の遺族と裁判で争う。
裁判官が霊を信じているかいないかで判決が大きく変わってしまうし、もし悪霊により人が殺された事実を司法が認めてしまうと、これも後々色々と厄介になってしまう。
「川で事故死しただけなのに、悪霊に殺された。河川を管理している国の責任だ。なんて言われると困ってしまうからな」
なんでも悪霊のせい、そこをちゃんと管理していなかった地方自治体、国、企業、個人の責任は重いので賠償するようにと判決が出てしまっては、確かに面倒そうだ。
第一、霊を見ることができない人に、霊の存在を証明するのは難しいのだから。
もし霊が見えても、映像、トリックなどと言って頑なに否定する人もいるらしいけど。
「そうなると、裁判官、警察官などに霊が見える人を配置しなければならない。まず無理なのでな」
警視庁、一部地方警察、自衛隊、SPなどには、少数だが霊が見える人間と除霊師を配備しているところもあるが、すべてに配置するのは難しいというわけだ。
「剛が封印を施す前のことだ。戸高市の新市長が革新系の人間になった」
この人物は霊を信じていない人で、彼は長年封印されている戸高真北山及び、戸高北盆地、旧山中村の再開発を目論んだ。
「あれは悲劇だったな」
現地の視察に赴いた市長、副市長、市役所の職員、建設会社の人間など。
四十三名が、悪霊の群れに殺されたそうだ。
「まさか、悪霊に殺されたなどと公にするわけにもいかず、誤魔化すのに苦労したそうだ。私は当時まだ議員ではなかったので、話を聞いただけだが」
そんなわけで、これに危機感を覚えた祖父さんが独自に特別な封印を施した。
中に入ろうと進んでも、いつの間にか外に出てしまっているという封印なのだそうだ。
「そのおかげで、以降は犠牲者は出ていないけど、安倍一族からすれば大恥よね」
自分たちではできませんと言ったことを、市井の除霊師一人にやられてしまったのだから。
安倍一族の信用に関わる事例のため、祖父さんの功績を知る者は少ないそうで、さらに安倍一族も絶対に口にしないタブーなのだそうだ。
「なるほどね」
歴史ある除霊師一族ってのも、プライドとかあって色々と大変そうだ。
そして、俺の祖父さんは凄いな。
「次に、戸高真北山及び、戸高北盆地、旧山中村の歴史を説明しよう」
続けて、菅木議員の話が始まる。
「戸高北盆地がある旧山中村は、非常に豊かな農村だった」
戸高北盆地は、豊富な水と豊かな土地のおかげで、美味しい米が沢山収穫できた。
この米は幕府への献上品にもなっており、戸高家中の者たちも積極的に消費を行い、他大名家への贈り物にもなっていた。
「封印されている戸高真北山も、山の幸が豊富だったそうだ」
そんな豊かな旧山中村であったが、村人たちの生活は非常に貧しかったという。
「米は税率十割で、収穫のすべてこの地を治めていた戸高家に奪われた。種モミの管理も戸高家で行い、旧山中村の村人たちは、自分で作った米を食べられなかったそうだ」
村人たちは、山の斜面で雑穀を栽培して食べていた。
もし村人が勝手に米を食べようものなら、問答無用で打ち首。
幕府や大名への献上品や贈り物にも使える米を食べてしまう農民など、打ち首が当然というわけだ。
「他にも、旧山中村は非常に貧しかったため、働けない老人は『老人塚』へと入れられたそうだ」
そこは、他所だと『姥捨て山』と呼ばれるような場所で、そこに行った老人は一週間と経たずに死んでしまったらしい。
「さらに、養えない子供を処分したり、娘などは人買いに売り飛ばされた。盆地ゆえ田んぼの面積は増やせないので、不必要な人間は食い扶持がないので処分されたわけだ」
「あの風船の先祖は酷いな」
「ああ、だから罰が当たったのさ」
幕末、黒船が来航してから数年後のことだったそうだ。
旧山中村は、突如大発生した悪霊の集団に占拠されてしまった。
幕府への献上品に使う米が徴税できなくなるのを怖れた戸高家は、慌てて軍勢を送り込んだが……。
「一人残さず、全員が殺されたそうだ。以後の戸高家は、多数の殺された家臣たちの穴埋めができず、旧山中村の米もなくなって財政的にも苦境に陥り、明治維新の時にもなにもできずに終わった」
幕府につくでなく、かと言って官軍につくわけでもなく。
それどころではなかったのであろう。
挙句にこれまでの悪政を新政府にまで批判され、以後、戸高家は没落の道を歩むこととなった。
他の大名家たちからも酷いと批判され、華族にも任じられなかった。
旧大名家で、新政府に逆らったわけでもないのに華族にもなれなかったのは、戸高家だけだそうだ。
「さすがに、『怨念小箱』はまずい。誰も立ち入れない、危険な悪霊の巣を作ってしまったというのもあるが」
「怨念小箱ってなんです?」
「呪いの道具だよ。旧山中村の村人たちが、二百五十年かけて作り出したものだ」
怨念小箱とは、全長一メートル四方ほどの木製の箱だと菅木の爺さんが教えてくれた。
「その箱に、旧山中村で亡くなった者たちの髪、骨、血の一部を入れていく」
二百五十年もの間。
戸高家のせいで貧しい生活を強いられ、働けなくなれば年老いた父、母、祖父母を始末し、多すぎる子供を殺すか、娘なら江戸の遊郭に売り飛ばし、病気や栄養失調で早死にする者も多く、村を逃げ出そうとすれば戸高家の侍に連れ戻され、少しでも自分で作った米を食べれば打ち首にされてしまう。
「その怨念小箱には、一体何人の恨み・無念が籠っているのであろうか? A級除霊師でも、直接触れば死ぬと言われている。実際に怨念小箱を見た者はいない……作っていた村の連中は見ているが、連中は箱を発動させる際にみんな死んでいるし、確実に悪霊化したであろうな」
「自らが死に、悪霊になる覚悟で、二百五十年かけて作った怨念小箱を発動させたのですか」
「ああ、旧山中村は豊かな農産物と山の幸を育み、戸高山の地下から湧く豊富な地下水と、戸高真北山の豊富な雪解け水もあってまるで極楽のようだと言われていた。そこに住んでいる者たちからすれば、それは絵に描いた餅で、自分で作り、採取したものすら碌に口に入れられず、村人たちは代々地獄の日々であった。彼らに希望など欠片もなかったのであろうな」
生の苦しみから逃げ出すため、長年かけて作った怨念小箱を発動させ、村人はすべて死に絶えた。
恨み重なる戸高家の者たちを巻き込んで。
「そこまですれば、明治維新後に没落して当然ですか」
「だが、性懲りもなく戸高市に凱旋しようとしている。裕が言っている風船男は有名なバカ息子だが、父親は優れた商売人だ。奴は商売に成功はしたが、そういう者たちが上の連中と接すればわかることがある」
上流階級のサロンには、元大名家の当主や一族なんて人も多い。
彼らからすれば、戸高家の人間は武士の恥さらしなのだ。
「それでも、金があればその恥さらしの子孫に配慮する者たちもいる。商売に成功した者は、次は名誉を求めるというわけだ」
元々、戸高市を中心とする土地を治めていた戸高家に対する地元の人たちの評価は低いらしい。
旧山中村ほどではないが、大名であった頃の戸高家当主は、基本的に酷薄で、領民から税を搾り取ることしか考えない者が多かったそうだ。
「茶道狂いで、高価な茶器が欲しいから税を上げた『茶狂い高則(たかのり)公』。刀剣の収集が趣味で、さらに試し切りをしたいから微罪でも罪人を死刑にしまくった『試し切り高晴(たかはる)公』など。幕府や幕閣、他大名への贈り物などで取り潰しはされなかったが、戸高家はよく江戸時代中に改易されなかったものだ、と歴史研究家に評されることも多い大名家だ」
少なくとも、あの風船男を見る限り、人の品性と能力は生まれとは関係ないんだなと思えてしまうのは確かだ。
逆に考えると、あの風船男は戸高家の人間に相応しいのか?
「でも、どうしてそんな厄介な場所の解放を?」
「実は、戸高真北山及び、戸高北盆地、旧山中村は後回しにしようとしていたのだ。だが……」
涼子さんの問いに答えるかのように、菅木の爺さんが事情を説明し始めた。
「あの風船男のせいだ。奴が戸高市で活動を始めたので、怨念小箱と悪霊たちがざわつき始めた。当然であろう? 奴らは戸高家の人間など嫌いどころか、殺しても余りあるほどの恨みを持っているのだから」
そのせいで、せっかく俺の祖父さんが張った封印が解かれてしまうかもしれないらしい。
もし封印が解かれれば、悪霊の集団が戸高家の血を引く者たちを一人残さず殺すため、戸高市中を徘徊するであろうと。
「とてつもない悪霊の集団だ。無関係の人間も多数犠牲になってしまう。できれば怨念小箱を破壊し、悪霊の集団を除霊してほしいが、そこまでの贅沢も言えぬか。裕、再封印はできないかな?」
「実際に中に入って様子を見てみないとなんとも。でも、入れるのか?」
祖父さんの封印のせいで、中に入れず元の位置に戻ってしまうかもしれないからだ。
これを破る方法のあてはなくもないが、実際に試してみないと有効かどうかわからない。
「それは大丈夫だ。剛の張った封印なので、基本的に剛よりも優れた除霊師だと効果がない。だから安倍一族は関わらぬのであろうが……」
「封印を破れず、中に入れなかったら。今の当主なら屈辱に耐えられないわね」
戸高真北山及び、戸高北盆地、旧山中村の再封印なり除霊を引き受けても、今の安倍一族の除霊師たちだと、中に入ることすらできないというわけか。
そんな事実を日本一の除霊師一族が認められるわけなく、涼子さんの話によると、今の当主はプライドだけは歴代当主でもトップクラスだそうだ。
仕事を引き受けないのは当然か。
いわゆる、組織防衛の観点からしても。
ああいう連中には、名誉こそが重要というわけだ。
「もし封印が解けて悪霊が飛び出してきたら、さすがの安倍一族でも対応すると思いますけど」
「清水のお嬢ちゃん。実はそんなことをしても、なんら解決にはならないのだ」
「どうしてですか?」
「それが、怨念小箱の恐ろしさでもある」
怨念小箱とは、二百五十年間旧山中村で死んだすべての村人たちの怨念を封じ込めた箱である。
その負の力は、すでに永久機関に近いものになっているそうだ。
「悪霊を除霊しても。怨念小箱があると、除霊した悪霊はすぐに復活してしまうのだ。つまり、怨念小箱を破壊しなければ、永遠に湧き出る悪霊と戦わなければならない」
だから、最悪でも再封印というわけか。
「引き受けてくれるか? 裕」
「やるしかないだろう」
そんな危険な土地が、うちの北にあるっていうのなら。
「ちょっと準備をしてから、一回偵察がてら中に入ってみる。久美子と涼子さんもいいよね?」
「任せて、裕ちゃんの足を引っ張らないように頑張るから」
「私も、裕君の邪魔にならないように頑張るから」
「じゃあ、三人で偵察に行ってきます」
「任せたぞ、三人とも」
こうして俺たちは、菅木の爺さんの依頼で戸高真北山及び、戸高北盆地、旧山中村の封印強化か解放を目指して動き始めるのであった。
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