第4章 動揺

第1話

店に寄り、冷やかしを受けながらも目当てのソースを分けてもらってから俊彦の家の近くで百華を待っていると、百華が現れ自宅へと案内されていた。

「どーぞ、あがって」

「お邪魔します」

 家はよくある市が管理する集合団地で、団地の前にはちょっとした公園のような砂場とブランコとちょっとしたブロックが置かれており、ベンチも何組か置いてあってどこにでもありそうな団地の5階の1室へ案内される。

 家の中に入ると女性しか住んでいないとわかる、ほのかに甘い匂いを漂わせている。玄関には一輪の花と小さなウェルカムボードに家族写真が貼られていた。

 そこには中学生の入学時だろうか、今よりも幼いが今と変わらず朗らかな笑顔をしている百華と、以前見た母親とさらに幼い妹に、父親らしき人物の写真もあり、皆笑顔だ。


 上がろうとせずに立ち止まっている郁を見ると見てるものに気づく。

「それね、私が中1の入学式の写真なの。恥ずかしいからあまり見ないでね?」

「あ、すいません。みなさん良い笑顔だなと思ってつい見てしまいました。これ見て思い出しましたよ。あの時の人だなと」

「あの時?」

「はい、三人で野球応援しにきてましたよね? 小学生の時」

「あ、そういえば郁もリトルリーグしてたのよね」

「まぁ、はい」

「私は郁の事は知らなかったのだけれど」

「俊彦のお兄さん応援してましたもんね。知らなくても仕方ないかと。試合にすら出れない低学年でしたから」

「そうね。あの頃は忠宏の応援してたわ。懐かしいわね。そんなことより、とりあえず昔話しは置いといてあがったら?」

「あ、すいません。お邪魔します」


 百華のあとをついていき台所へ向かう。

「あ、郁はリビングでくつろいでて。オムレツ以外は私がするから」

「わかりました」

 そう言われリビングで座って待つ郁。壁際には腰ぐらいの棚がありその上にも玄関動揺に写真立てに家族写真が3つほど飾られていた。

 そのどれも皆笑顔だった。それを見ていた郁は物思いにふけるような顔をして見つめていた。

 そうしているとドアが開く音が聞こえてくるとリビングのドアが勢いよく開けられる。

「ただいまあー!」

 振り向くとセーラー服を着た少女。妹の美沙だった。


 この前は初対面であんな衝撃的な出会いで、しかも夜ということもあり改めて彼女をしっかり見ることになる。

 あの時はおろしていた髪は今はポニーテールに結ばれていてる。結ばれている髪は首元までしかなくそこまで長くはないようだ。肌は少し焼けているのか褐色気味。顔は初めて見た感想の通り、百華を幼くした感じで良く似ていると思わせる。ただあの時と登場した感じのように性格は活発なようで、朗らかな印象の姉に対して、妹は屈託ない元気がにじみ出るような顔立ちで、はっきりとした顔立ち。どことなく写真で見た父親に似ているなという印象を受ける。


「あ! お兄さん! いらっしゃい!」

「どうも。お邪魔してます」

 挨拶を交わすと勢いよく近づいてきて顔を寄せてまじまじと郁の顔をみてくる。

「えっと……近く……ないかな?」

 郁は行動に驚き引き気味に姿勢を反らせ恐る恐る話しかける。

「あの時は暗くてしっかり見れなかったけど……うん……良いね! 見た目だと私と同い年と言われてもわかんないね!」

「ハハハ……一応……気にしてるからそんなはっきり言われると傷つくよ?」

「あ、すみません! 悪い意味じゃないんです。顔は私のタイプですよ!」

「あ、ありがとう。ハハハ」

 もう何から返していいかわからずとりあえず愛想をふりまくしか無かった郁だった。

「美沙! 困ってるでしょ! はやく手を洗って着替えてらっしゃい」

「はぁーい」

 姉の叱責を受けさっと部屋を出ていき慌ただしい音が響いてる。

「ごめんね。落ち着きない性格なのよ」

「まぁ若いってことですよ。中学生なんてあんなもんでしょ」

「はぁ……そうなんだけれど……高校になったら落ち着くのかしら……そろそろ出来るからお願いしていい?」

 百華はため息をつきながら、郁の返答にやれやれとジェスチャーをし郁とともに台所へと行く。


「そうして並んでいると夫婦みたいだね!」

 そんな声を聞いて百華と郁は声の聞こえてきた方へ振り向く。

 そこにはハーフパンツを履いていて少し大きめのパーカーを着ていた美沙がニヤニヤと笑って立っていた。

「なに言ってるのよ。そんなこと言ってると美沙だけオムレツなしのチキンライスだけにするわよ?」

「オムライス?」

「そうよ。ふわとろオムライスでソースはあのレガーメのソースよ」

「うそ!」

「本当よ。てことで美沙だけチキンライスのみね。郁そーゆーことで」

 姉妹のやりとりを聞いていた郁は突然ふられて困惑の顔を浮かべる。

 それを聞いた美沙は突如慌てだした。

「え? まじで?! ごめんなさい。私もふわとろオムライスが食べたい! お兄さんお願い!」

 そう言って郁の二の腕を掴み泣きそうな顔をして上目遣いで見つめる。そんな彼女を見て優しく微笑み返して答える。

「ちゃんと用意するからテーブルに座って待ってな?」

「やったー!」

 美沙は郁の答えに喜びを全身で表しぴょんぴょんと飛び跳ねて、リビングへと素直に向かって行った。

 そんな百華は呆れながら「現金なんだから」と溢し郁にもジト目を向けていた。


「優しいのね……ひょっとして美沙みたいな年下の子がタイプなのかしら?」

「違いますよ。食べたいって言ってる人に食べさせたいってだけですよ」

「へー……そう……」

 百華は何か納得いっていないのか郁の返答にまだジト目を向け返事をするのに対し、郁は訳がわからないとばっちりを言われ呆れながら答えるしかなかった。


 そんなやりとりをしてる間には家主である母親が帰ってきて台所に姿を現す。

「ただいま。郁君いらっしゃい」

「お邪魔してます」

「お客様なのに、なんか料理させちゃってごめんなさいね」

「いえいえ、好きでやってるので」

「そう。ではお言葉に甘えて楽しみにしてるわね。着替えてくるわ」

 簡単なやりとりをすると自室へ着替えに戻って行った。

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