第3話

もうすぐ別れる分岐に差し掛かろうとする頃、不意に百華が郁に尋ねる。

「バイトって来週からで今日と明日はないんだよね?」

「ありませんね」

「てことは晩御飯は一人?」

「そうですよ。たまに店に行って賄いを食べに行く事もありますけどね。基本一人で食べてます」

「自分で作るのよね?」

「そうですね」

「そっかぁ……偉いねー、それで料理覚えたの?」

 百華は郁の返事を聞き、何かを思案し人差し指を顎に当てて考える素振りをし、郁に質問を続ける。


「んー……関係なく覚えたかな? 物心つく前から料理が身近でしたから。いつのまにか趣味になってたし」

「そっか。好きなんだ。料理」

「ですね。作るのも食べるのも。誰かに食べさせるのも。食べている人を見るのも好きですね」

「将来はお店継ぐの?」

「どうでしょう。継ぐと言っても俺にそれだけの腕があるかどうかですし。継ぐ継がないは別にしても料理関係の仕事はすると思います」

「そっかぁ……もう将来は決めてるのね」

「いやまだ決まってませんよ。漠然と料理の道に進むってだけなので」

「それでも決まってるようなものだわ。私なんて進路先すら3年なのにまだ決まってないもの」

「ほとんどそうじゃないですか? まぁ先輩は焦った方がいいとは思いますが。夢とかないんですか?」

「夢かぁ……夢はお母さんみたいな結婚して母親になりたい」

 そう言って微笑む百華。横に並び、会話をしてたため顔を向けていた郁は見惚れてしまう。

「どうしたの?」

「別に、何もないですよ。結婚が夢って女の子らしいですね」

 見惚れてしまっていたのに気づきバレないように誤魔化して歩いている方向へ顔を向ける郁。

「女の子ですから」

 百華もまた歩いている方へ向きながら返した返事も笑顔になりながら答える。


 その横顔を横目で見ていた郁は左手で口元を抑え百華と反対方向へ顔を向け思わず小さく呟いてしまう。

「(可愛すぎかよ……、これは流石に……人気があるだけはある……)」

「何? 何を一人で呟いてるの? あ、子供ぽい夢だって馬鹿にしてるんでしょ!」

 そう言って立ち止まり両手を腰に起き、頬を膨らませ郁を睨めつける。まさに怒ってますという態度だが、どうにも微笑ましい姿だ。それが妙に可笑しく思えて郁は吹き出す。

「あはは、思ってませんよ。可愛い夢で先輩らしいですよ」

「やっぱり馬鹿にしてるわね!」

「してませんて」

「いいえ。してるわ! じゃないと笑わないじゃない! これは罰が必要ね」

「罰って……本当に馬鹿にしてませんよ?」

「よし、なら今日は家に来て1品作りなさい」

「なんでそうなるんですか!?」

「これは決定です。一人ご飯寂しいでしょ?」

「いや…俺はべ「寂しいでしょ!」つに……いや、だか「さ、み、し、い、わ、よ、ね」ら……はい、寂しい……です」

 郁は否定しようと声を出すも2度も被せて近づいてくる百華に気圧されて肯定してまう。

「よろしい」

 百華は物凄く満面の笑みで頷いた。


「料理の事は何でも好きなんでしょ? この前ごちそうしてくれたお礼に私の手料理も食べさせてあげる。それにお母さんも妹も会いたがってたし。お呼ばれされなさい」

「わかりましたよ。で……俺は何を作れば良いですか?」

「そうねぇ……オムライスの予定だったんだけれど……ふわとろオムライスて出来る?」

「オムレツ載せたオムライスですか?」

「そう、それ」

「できますよ?」

「やった! ならオムレツ作って! ライスとスープとサラダは私がするわ」

 よっぽど嬉しいのか「ふわとろ~、ふわとろ~」と音程をつけ繰り返し、少し弾んで歩く百華。

 喜ぶ百華を見ながら郁もそんなに嬉しいのかと思い自然と笑みを浮かべていた。

「そうと決まったら買い物にも行かないとね。一緒に行きましょ!」

「はいはい」


 二人は近くのスーパーへと進路先を変える。百華の足取りはスーパーへと着くまで弾んでいた。

 やがてスーパーへ着いた時に百華が郁の方へ向く。

「あ、郁は先に入り口らへんで待っててくれる? 妹とお母さんに連絡するから」

「わかりました」

 少しの入り口から離れた場所で素早く二人へSNSへ飛ばす。飛ばした後百華は独り言をこぼす。

「少し強引だったけど……上手くいったわね。あんなあとに独りでご飯なんてさせれないし。二人に根回しもした。それに美味しいものが食べれるし、一石二鳥だわ」

 そう呟き、足取り軽く入り口へ向かう百華。その表情は上手くいった策に誇らしげであった。


「なんか嬉しそうですね?」

 待っていた郁は先程よりさらに嬉しそうに来た百華に尋ねる。

「嬉しいわよ? ふわとろオムライス楽しみだわ」

 確かに嬉しいのは嘘ではない。ただ裏の真意があるだけで実際にお店で出されるようなふわとろオムライスが家で食べられるのは、本心から嬉しいのだ。

 だから裏の真意なんて微塵もでないので郁もまんまと騙される。

「よっぽどですね……デミグラスソース……だと嬉しいですか?」

「嬉しいわ! 作れるの?!」

「いや、流石に時間的に厳しいです。けど、家に帰るか……店に行けば貰えます」

「あー……どうしよう……悩ましい……」

「店ここから近いから行きますか?」

「そうねぇ……お願いしてもいいかしら?」

「わかりました。じゃ効率的に俺は店に行きますから先輩はこのまま買い物を。待ち合わせは……今から30分後にどこかで」

「わかったわ。じゃぁ俊彦の家はわかるのよね? その近くに来たら連絡して?」

 やり取りを交しそれぞれスーパーで別れる。


「なんだろうな……どうも山路先輩に頼まれたり、喜ぶ顔見ると断れないんだよな……美人て卑怯じゃないか?」郁は独り言をこぼす。

 独り言をこぼしながら歩く郁は、まんまとのせられたと思ってはいるものの、店にソースを用意してもらうため店の番号をコールする。不満げにいいつつ行動している割にその表情は晴れやかだった。


 ふと店に向かう途中で道場で見た夢を思い出し違和感を覚える。

「そう言えば……いつもの夢の中に暖かい光がでてきたな……あれなんだったんだろ」

 いつもは母親が亡くなった時の事、そしてその後は彼女と別れたときの事。そしてバスケでどんどんと皆が背を追い抜いていき囲まれて、通用しないと罵られる夢。この3つの夢を見る。時には2つであったり、全部だったり。そんな時は決まって寝起きは最悪だった。それが今日は途中から何か暖かいものが現れた。


 そこで郁は今日見た道場での百華の姿を思い出す。

「似て……る……まさかな……」

 ありえない想像をし頭を左右に振り思考を振り払い店に向かう。

 しかしその表情は先程と変わっていない。足取りも軽い。郁はその事に気づくこともなく約束を遂行するために先を急いだ。





第3章 陽だまりの天使 ~完~

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