第3話

幼馴染達が集まって話している頃、その当事者の郁はベッドを背枕にし天井を見上げぼーっとしていた。

 意識して避けてたわけではないが、無意識だったのかもしれない、学校では麻子とはたまにすれ違う事もあったが部活を辞めてからはほぼ関わり合いは無かった。しかしこの数日言葉を交わしてしまった。その事により思い出したくもない事が勝手に浮かんできては消え、そして今日言われた事が浮かぶ。その繰り返しで何も出来ずにいた。


「戻ってきてくれ……ね。今更……」

 何度となく呟いた言葉を吐く。ちらっと時計を見ると21時を少し回っていた。

「ふぅ……こういう時は走るか……」

 そう呟くと未だ着ていた学生服を脱ぎジャージに着替え玄関に行くとドアが開く。ちょうど仕事から戻ってきた父親だった。

「おかえり」

「ああ、ただいま。なんだ走りに行くのか?」

「軽く1時間ほど走ってくるよ」

「そうか、ならほれ」

 そう言って500円玉を渡す一。

「サンキュ、いってくる」


 いつものコースを走る。しかしいつもよりペースが早い。その事に気づかない郁は息が上がりだした事に怪訝な顔をする。

「まじか、息上がるの早すぎ……ハァハァ……ちょっと水分補給でも……するか」

 近くのコンビニへ入る。そしてスポーツドリンクを買い店前で飲んでいた。

「あら? 郁?」

 呼ばれたとこに視線を向けるとそこには一人の女性がいたが店内の明かりでわからない。近づいて来た女性の姿が徐々にはっきりとしだす。

「山路先輩? ですか?」

「やっぱり郁ね。こんばんは」

「その口調は山路先輩ですね」

「未成年がこんな時間にコンビニ前って不良さんだったのかしら?」

「今時コンビニに居座る不良っているんですか? それを言ったら先輩もそうなりますけど?」

 何を言っているんだコイツと言わんばかりに呆れた顔で返す郁。

「フフ……それもそうね。で、貴方は何しているの?」

 言われたことに全くその通りと笑いをこぼし、百華は尋ねた。

「見ての通りランニング中の水分補給です」

「夜走ってるのね。ああそうだ、私も喉が乾いたかも。少しちょうだい?」

「どうぞ……なわけ無いでしょ……誰にでも言ってるんですか?」

「何がかな?」

「もういいです。奢りますよ。何がいいですか?」

「その飲みかけがいいかな?」

「怒りますよ?」

 完全にわかってて返しているとわかった郁は百華を睨む。

「もう、怒らないでよ。悪かったわ。お言葉に甘えてホット珈琲」

 それを聞いた郁は再度店内に入って注文の品を買い百華に渡した。

「ありがとう」

「どういたしまして」


 一口飲んだ百華が話し出す。

「それにしても、だいたいの人は私と間接キスとなると喜びそうなのに郁はそうでもないのね」

「たいした自信ですね。俺は別に間接キスがどうだとか気にしませんよ」

「ならくれても良かったじゃない。知らない? 私結構モテるのよ?」

「知りませんよ。自覚があるなら軽々しく言わないほうがいいですよ?」

「どうして?」

「勘違いされても困るでしょ?」

「勘違いするのかしら?」

「しません」

 はっきり言った郁に百華はクスクスと笑い出す。

「何を笑ってるんですか?」

「だって言ってる事が矛盾してるもの。間接キスは気にしないけど、勘違いするかもとか、ならないように珈琲買ってくれたりとか、気にしてるのか気にしてないのかどっちなのって思ったらおかしくて」

 そう言って止まらなくなったのか声を出して笑いだした。

「俺は、先輩のために言ってるんですよ」

「そうね。ありがとう」

 そっぽを向いて言う郁にさらにクスっと笑う百華だった。

「そろそろ帰らないといけないんじゃないですか? こんな遅くに何してたんです?」

「大丈夫よ。俊彦の家に行くのは知ってるし、コンビニ寄って帰ると連絡してるから。とは言ってもいい加減遅くなったからまずいかしら?」

「なら早く帰りましょ。送りますから」

「優しいのね」

「当たり前のことです」

「ちょっと待っててね、デザート妹に買って帰るって言ってるから買ってくるわ」

 そう言って店内に入っていく百華を見ながら郁はぼやく。

「しっかりしてるようでどこかぬけてるよな……」


 お土産を買い二人は夜道を歩いてると百華が呟く。

「暗いわね……」

「そりゃ夜ですから」

「こんな暗い道だと襲われそう……襲わないでね?」

「はぁ?」

「いや、むしろ私が襲う?」

「何言ってんですか……」

 そんな揶揄い揶揄われる会話をしていると百華の家の前に着いた。

「ここよ。送ってくれてありがとう」

「それじゃ、俺はここで」

「待って」

 役目は終わったとばかりに早々に立ち去ろうとする郁を呼び止める百華。

「この前渡された服返すから待ってて? いい? 帰っちゃだめよ?」

 そう言われなんの事かわからず首を傾げる郁に、百華は返事も待たず家の中に入っていった。しばらく待つこと数分後。

「おまたせ。はいこれ。おかげで風邪をひかずにすんだわ。ありがとう」

 そう言われ袋を渡され中身を見ると見覚えのある服だった。

「ああ、あの時の。忘れてました」

「だと思ったわ。あれから何にも言わないし」

 そんな会話をしていると郁は何やら視線を感じてその方向、百華の後ろに目線をやるとドアの隙間から見ている二人に気づく。家族とわかり軽く会釈をする。それを見た百華が振り返る。

「何覗いてるのかしら? 二人とも」

 そう言うと覗いていた二人が出てきた。


出てきた二人は百華に劣らず背が低いかった。三人の身長はさほど変わらない。母親らしき人は郁と同じぐらいで、百華よりも母性が滲み出ている印象を受ける。妹らしき人物は百華よりさらに小さく140前後といったぐらいだろうか、幼く見えるがすでにモテそうな可愛らしい子だった。


「美沙が男連れて帰ってきたとかいうから。ね?」

 母親らしき人が答え、美沙と呼ばれた子は頷く。

「お姉ちゃん、この人彼氏? ね? ね?」

「残念だけど違うわ。部活の後輩よ。たまたまコンビニで会って送ってもらっただけよ」

「なぁーんだ。つまんないの」

 と残念な顔をする美沙。それでもじっと郁をみている。さらにもう一人、母親も郁を観察している。その視線に郁は戸惑いつつも挨拶を交わそうと声をかける。

「こんばんは。夜分にすいません。落合です。先輩にはお世話になってます」

「あらあら、ごめんなさいね。挨拶もしないで。こんばんは。私は百華の母親で敏恵です。でこの子が次女の美沙です。送ってくれてありがとね」

「美沙です。中2だよ。お兄さん名前は?」

「え? あ、郁だよ」

「女の子みたいな名前だね。けど似合ってるね」

 ニコっと笑いながら言う美沙に郁は言葉を無くす。

「こら! 美沙! いきなり失礼よ? けどわからなくもないけど。可愛らしい顔に名前でぴったりだわ」

「そうなのよ。毎日撫でてしまうもの。照れるとこと笑顔が可愛いのよ。ふふ」

「そうなの? 見てみたいわ!」

 両手を胸の前で手を合わせる敏恵。

「お姉ちゃんが可愛いってよぽっどだね!」

 母親の肘のあたりの服をひっぱりながら言う美沙。

「あぁ……親子だな……」

 失礼だと叱る母親は親らしかったがその後が台無しで、さらに百華の言葉に敏恵、美沙ともに同調している姿を無表情で郁はがっくりと肩を落とし下を向き呟いた。


 そんな郁を隣で見ていた百華は正に今だと撫で始める。

「何をどさくさに撫でてるんですか?」

 撫でられるのに抵抗は無くなったとは言っても恥ずかしいというのは無くならない。しかも今回は相手の家族の前ということでみるみるうちに耳が赤くなる。

 それを見ていた敏恵は感激の声を出す。

「あらあら、まぁまぁ」

 そう言ってギュッと郁の頭を抱き寄せ胸に抱きよせていた。

「え? え? ちょっと?」

 やられた郁は大混乱に陥る。

「お母さん、それぐらいにしなさい」

「あらごめんなさい。ついやってしまったわ」

 百華に鋭い声をかけられ郁を離す敏恵。離れ際に満足感があったのか微笑んでいた。

「い、いえ。気にしてませんから……」

 郁はぎこちなく作り笑いを作る。

「私もー」

「だめよ? それは私の特権よ!」

「特権じゃないです。えと、そろそろ帰らないと行けないので……」

 このままだとやられかねないと思った郁は退散を試みる。

「じゃ、今度遊びに来てね? お兄さん!」

「そうね、それがいいわ。またいらっしゃい」

「わかりました。時間ある時にお邪魔します。それと先輩、袋はお返しします。走って帰りたいので邪魔になりますから」

 郁は、美沙と敏恵の誘いに社交辞令を交わし、渡されたパーカーを着て「おやすみなさい」と一礼し走り去っていった。


郁が走って去るのを三人は見送り見えなくなったところで家に入る。すると妹の美沙が百華に話しかける。

「ねぇ、お姉ちゃん」

「なに?」

「お兄さんの事、好きなの?」

「えっと好きよ?」

「恋愛として、異性としてだよ?」

「え? 異性として……恋愛として好きかってこと?」

「そう! お姉ちゃん、あの人の事好きなのかなぁ? って思って見てたんだけど違うの?」

「え? なんで? そんな事ないわよ?」

 いきなりの妹からの質問と意外な事を言われ、わたわたしだす百華。

「えー違うの? ねーお母さん! お母さんもそう思ったよね?」

「そうねぇ……どうかしら? もしそうなら息子ができるわね……ふふ」

 次女の問いかけに曖昧な返答をする敏恵。

「何言ってるのよ。二人とも……。もし息子や兄になって欲しいなら彼の父親と再婚したら叶うわよ?」

「え? なんで?」

「だって彼、父子家庭だし。そしたら美味しいイタリア料理食べ放題よ?」

「え? え? どゆこと?」

 百華の返答に美沙が食いつき、さらに返ってきた言葉でさらにテンションが上がっていた。それもそのはず、この家族はパスタが好物だった。

「実はね、彼の父親はあのレガーメのシェフよ。この前部員で行ってきたわ」百華は胸をはり自慢気に話す。

「えー! ずるい!」

「あら! そうなの? 百華ぜひあの子射止めなさい!」

「そんな理由で娘を誑かさないでよ。もう」

 そんな会話をしつつ、妹は百華に必ず連れてきてといい、母親はそこからお父さんと面識をもてないかなど馬鹿な冗談を入り交えて盛り上がっていた。


 そんな話をしている一方で郁は、途中で止まっていたランニングを再開し夜の闇の中を走る。

 暗い夜道。夜空は雲も少なく、満月が仄かに明かりを灯して星が瞬いていた。



第2章 幼馴染会議 ~完~

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