第2章 幼馴染会議
第1話
あれから春休みも終わり、始業式が終わった当日の夜。俊彦の部屋に4人の姿があった。俊彦、真帆、百華、俊彦の兄の忠宏だ。仲が良い幼馴染の4人組。いつもならここに弟もいるのだが今はいない。理由はいつも笑顔で和ませる人である百華が話があると集めたからだ。いつもの笑顔は無く、顔を引き締めている姿に何か不味いと思った三男は退散していた。
真帆と俊彦はなんとなくわかっていて俯いている。忠宏は帰ってくるなり呼ばれ部屋に入るとお通夜のような雰囲気に嫌な予感がし口を開く。
「なんだ? 俊彦に真帆、またなんかやらかして百華怒らせたのか?」
「い、いや。その……」
俊彦が答える。
「気づいてないだけだろ。お前らは」
「忠宏。ちょうどいいとこに帰ってきたわね。話しがあるから座って?」
「え?」
「いいから。座って?」
百華は笑って繰り返す。ただ目が笑っていない。そんな目をされる覚えがないのだがただならぬ雰囲気の百華に大人しくしたがった。
この状況になってるのは今日までの出来事に関係している。
店を招待した日から数日が経った春休み。その間の郁はさらに体をいじめぬいていた。まるで邪念を振り払うかのようにもくもくと。誰にも止めさせないという雰囲気がわかるほどだった。心配した俊彦や百華がペースダウンやクールダウンをした方が良いと声をかけるほどだったが、ブランクを取り戻すためだからそれまではと言って聞かなかった。
そんな姿を見ていた百華は「やっぱり余計な事いったかも……」と呟き、終始郁をみていた。
そんな春休みを終え今日は始業式。真帆達は高3に、郁達は高2になった。
クラス分けの掲示板の前に郁の姿があった。
「1組か……」
そう呟くと声がかかる。
「郁! おはよう! お? 同じクラスじゃん!」
郁の肩を回し耳元で叫ぶ俊彦だ。
「みたいだな。それと暑苦しいから離れろ」
「なんだよ、連れないな。嬉しいくせに」
「嬉しくない。ただでさえ担任も同じ、部活でも一緒で暑苦しいのに一日中になるとかどんな拷問だよ」
「なんだかお前、童顔クールショタにツンデレ属性もつきそうだな!」
「やめてくれ……」
そんな事を言う俊彦に郁は心底嫌だという顔をする。
始業式も終わり。練習も休み。いつものようにマットの上で新入生獲得のため部活紹介では何をするかと言う名の座談会をし、帰宅しようと4人は道場をあとにしていた。話しながら体育館を横切る時にある二人がいた。その二人もこちらに気づき声をかけてくる。
「落合。本当に柔道部に入ったのか?」
声をかけてきたのは新しくキャプテンになった同級生だった。
「ああ」
「なぁ本当にバスケ辞めちまうのか?」
「前にも言ったろ。俺には向いてないからな」
「なんでだよ。今だとスタメンは無理でもレギュラーにはなれるだろ」
「もう無理だよ。今更お前達には追いつかないよ。それにこの身長じゃ通用しないかもと言っていたのはお前達もだろ」
「それは今だからだろ。でも伸びるかもしれない。でもそれ以上にお前ならセンスでカバー出来てたじゃないか。もったいねーよ」
「バスケは背が低いのは致命的だよ」
「そりゃそうだけど……今新メンバーでやってるが、コートをひっかき回すのがいないんだ。けど、お前は外から打てる、運動量もある。だから落合が必要な場面はあるよ。マネージャー、同じ中学だろ。説得してくれ」
説得してくれと頼まれた麻子は困った顔をしながら口を開く。
「スタメンは決まったんだけれど、流れを変えれるような2番目の人がいないの。それで外から確率のあるシュートが出来て、コートを引っ掛き回すような郁のような人が必要なの。だから……復帰して欲しいの」
話してきた麻子をじっと見る郁。それを聞いていた真帆は話しが込み入っていて話に入れず心配そうに見ていた。ただ俊彦は見るからに怒りを滲ませていたが口を固く閉じている。
百華はそんな郁と俊彦をじっと観察していた。
少しの沈黙のあとの郁は下を向き、聞こえないように呟く。
「それをお前が言うのか……」顔を上げ麻子を見て答える。
「何故辞めたか理由は貴方が一番知っているとはずだけど? それに上杉さん……もう名前で呼び合うような仲じゃないはずだ」そう言ったあとバスケ部キャプテンに向き、
「必要としてくれて嬉しいけど、悪いが諦めてくれ。もうバスケはしない」
そう告げると一人足早に歩き出した。
「お、おい! 落合!」
「待って! 郁!」慌てて呼び止めようとするキャプテンと麻子。
「なぁ、言ってただろ。バスケはもうやらないって」
それを静止させる俊彦。そして強く重い口調で麻子に話し出す。
「なぁ、上杉。お前、自分が言ってる事わかってんのか? お前が戻ってきてくれなんて資格はないはずだ」
「そ、それは……」その問いに俯く麻子。
「俊彦! 行こ? かーくんいっちゃうよ?」
不穏な空気に堪らず真帆が帰りを促す。
「ああ、そうだな」
俊彦もそう言われ溜飲を下げ郁のあとを追う。
「ごめんなさいね。柔道部としては引き抜かれるのは困るし、本人も戻る気はないみたいだから諦めてくれると助かるわ」
百華も二人に告げて三人を追った。
追いついた三人は郁の雰囲気に話しかける事も出来ず黙って帰る。そして別れた直後に百華が二人に話しかけた。二人に向き合ったその目は鋭い。
「真帆、俊彦。話しがあるから。家の事したあとに夕方俊彦の家に集合ね」
「あ、ああ」
「わ、わかった」
そして集まった三人。
「今まで何かあると思って私は黙っていつものように見守ろうと思ってたわ。けどそうも言ってられなくなったわ」
そう百華に言われ頷く二人。
「と言うことで二人には知ってる事洗いざらい話しなさい。事情を知らないとこれはフォローもできないわ」
「わかった。話すよ」
そう言って俊彦と真帆は目を合わせ頷きあった。そして真帆が語り出す。
「えっとね、私がたっくんと二人でいる時に俊君がいつもと違う雰囲気できたかと思ったら……」
「ちょっと待って。忠宏も知ってる事なの?」
「うん。二人でいた時だし。俊君はたっくんに聞いてたから。私は側にいて聞いてただけ」
「そう。私だけが知らなかったのね。そう……こんな
大きく問題になりそうな事と今日あった出来事に思い知り、早急に事実を知らないといけないから知っている二人に聞き出そうと思ったら、実は忠宏も関係していると知った百華からの言葉に二人は思わず俯く。そこへ何も知らず現れた忠宏。それがこの今の状況だ。
座った忠宏は俊彦に耳打ちする。
「なぁ、何があったんだ? 百華がこの雰囲気は久しぶりだろ」
「何がって……あの事だよ」
「あの事だよ」
そんな耳打ちする二人を百華は止める。
「ひそひそ話してても終わらないわ。三人とも。郁の事で知ってる事を全部話しなさい」
そう言われ忠宏も事情を察する。
三人はこれは長くなるなと腹を括るのだった。
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