第3話

料理も進み最後のデザート、ティラミスが運ばれてきた。

「やっぱりイタリアと言ったらティラミスだよね!」

 真帆を初め皆喜びの声をあげる。

「こちらのティラミスは少々お酒を効かせていますので大人の雰囲気をお楽しみ下さい」

 喜びの声に茜は説明を添える。

 6人は思い思いに食べる。女性陣はもちろん破顔している。そして意外にも。

「これ上手いな。甘いけど甘すぎないというか、苦味があって」

 珍しく俊彦が食レポのような絶賛の感想をもらしている。


 そんな時、横から声がかかる。

「それは良かった。その苦味はコーヒー、エスプレッソだよ」

 郁以外の5人は一斉に声の主を見る。

「あ、おじさん! お久しぶりです!」

「ああ、たしか古賀君だったかな? また来てくれてありがとう」

「か、かーくんのお父さん? てことは……落合シェフ……ですか?」

 会話を聞いて真帆が恐る恐る聞く。

「ああ、そうだよ。郁、素知らぬ顔で食べてないで率先して紹介するのがお前の役目だろ。接客の基本だぞ」

 そう言って一は郁の肩をバシバシと叩く。それに対し顔は、

「今日はホールで働いてない。俺は客だ」

 ぶっきらぼうにセリフを吐く。

「そうか……じゃぁ今日の分はお前持ちなんだな。バイト代から引いといてやる」

 不敵に笑い告げる一。

「うわ! きたないぞ! くそっ……あーこの如何にも偉そうなこの人は、実際に偉いここのオーナーシェフで俺の父親だ……」

 この投げやりな紹介に一同苦笑いだ。

「あの、柔道部マネージャーの山路百華です。今日はわざわざ席を御用意して下さって有難うございます。料理どれも美味しかったです」

 百華が流石はという対応を先陣きって礼を告げるとそれぞれ美味しかったなどの礼を言っていく。それを聞いた一はそれがお世辞ではなく心からの言葉と感じ微笑む。

 その顔を見た百華は思わず言葉を漏らす。

「笑ってる顔そっくりだわ……」

 思わぬ声に一が反応する。

「ん? 誰とかな?」

「え、あ、その、郁の笑い顔とそっくりだなと……やっぱり親子だなぁと」

 それを聞きますます一は笑顔になる。

「そうか、そっくりか。一人息子だからね。顔は妻に似てて言われないんだが嬉しいね。それにしてもこいつ笑ってるのか」

 そう言って一は笑い出す。

「似てないよ」

 また何か被害を受けては堪らないとボソッと文句を垂れる郁。

「いやぁ気分いいね。よし、元から今日の料理は私からのプレゼントなんだが……お土産も用意しよう! 茜君、アマレッティなら包めるだろ。頼むよ」

「かしこまりました。というかもう包んでありますけどね」

「茜君は郁に甘いよなぁ」

「シェフに言われたくありません。この店の従業員皆にとっても息子みたいなもんですからね」

 その声に全員が喜びの声をあげる。一方郁は身内のこの会話にもう顔中が真っ赤になっていた。

「あ~かーくん、いつも以上に照れてる! 可愛い! けど遠くて出来ない!」

「郁、照れちゃって、お姉さんにお願いしてたもんね?」

 いち早く気づいた真帆に言われ、それに反応した茜が暴露する。

「あら、そうなの? 郁は優しいのね」

 そして百華がのっかる。極めつけに、

「なんだ郁はモテてるなぁ。父さん羨ましいぞ!」

 一ものっかり、そして常連客も中にはいて、当然郁の事も働いてる姿も見たし小さい頃から知ってる事もあり会話を聞いてたその客までもが冷やかす。

 場は突然のシェフの登場で周りは耳をすまして聞いていたという事実が発覚したのだった。

「勘弁してくれ……」

 郁は手で顔を覆い隠す。それを俊彦はそっと肩に手を載せて、

「流石に……同情する」

 と声をかけるのだった。


「ところで郁、恥ずかしがってるとこ悪いんだが……」

「郁の恋人はこの中の誰なの?」

 一が何かを聞こうとし、茜がそれを遮る。二人とも同じ内容のようだ。

「いないよ!」

「じゃぁ好きな人? 見た感じどの子も郁のタイプぽいけど」

「え? そうなの? いるの?」

「へーその話は気になるわね。せっかくだから聞きたいわ」

 茜の一言に真帆、百華が興味を示し全員が郁を見る。

「あーもう! なんで揶揄う人しかまわりにいないんだよ! トイレ!」

 そう言って郁は席を立ってトイレへと逃げ込んでいった。


 それを見ていた一が先程までの顔を引き締めて一同に語り出す。

「見ての通り素直に慣れない性格なんだが、あれは昔からでね。あまり感情を出さない子だったんだが、妻を亡くしてから余計にそうなってしまってね。それに最近はさらになってしまったようで。バスケも辞めて虐めでもあってるのかと心配していたんだよ。けどあんなに感情を出すということは、仲良くさせてもらってるようだ。これからも息子をよろしく頼むよ」

「私からもお願いするわ。私にとっても息子のような弟のような子だから」

 一の言葉に茜が続き、礼を取った。

「俺はあいつのおかげで今があるので、お願いされなくても仲良くしますよ!」

 俊彦が力強く返答する。

「ありがとう。ではそろそろ失礼するよ」

 俊彦の返事にどこかほっとしたような安心したような顔をし、茜とともに仕事へ戻っていった。

 そんな会話をしていたと知らない郁も戻ってきて食事も終わり、各々土産をもち解散となった。


 そんな食事会も終わり帰宅している百華は、父親の話の中にヒントを見つけた気がしていた。

「やっぱりお母さんを亡くしてから酷くなったということは私達と同じで間違いないようね。そして最近何かがあった……ふふ……なんか探偵みたい」

 ずっと郁の様子を見ていて、そして父親の言葉にヒントを見つけて推理だてていく自分に気づき、その思考に笑ってしまう。

「どうしてこんなに気になるのかしらね……不思議な子……」

 その呟きは夜の闇に溶けていった。

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