第3話
「うわぁ……これか」
「あぁ……これだな」
真帆と俊彦は納得顔で頷く。
「なにが?」
「いや、こっちの話。それより早く食べさせてくれよ」
俊彦が待ちきれないとばかりに急かせる。
そんな隣では真帆と百華がひそひそと話す。
「これは破壊力抜群だね。もーちゃんがやられるのもわかる」
「でしょ? 童顔でちっちゃくて、そしてあの笑顔。あれで甘えられたら大概の年上、いえ、女ならやられてしまうわ」
「料理関係だけってのが救いね」
真帆の言葉に百華も同意を示し頷きあう。
そんな会話をしてるとも知らず料理を運ぶ郁。テーブルに料理が並べられ真帆と百華も話を止め並べられた料理に視線を向ける。
そこには2種類のパスタにパン、そしてトマトで煮込まれたような色とりどりの野菜があった。
「リクエストのイタリア料理で得意なものって言われたから作ったけど、本当に良かったの? 店に食べに行くのに素人の俺の料理で」
「それはそれ、これはこれだ。お前の料理は美味いだろうし。ただ俺は肉があればなお良かったけど」
高校男子としては食べごたえのあるものが食べたい。当然買い物時にリクエストした俊彦だが、当然姉二人に却下されている。
「それは二人にいってくれ」
と郁は肩をすくめる。
「何言ってるの? 私達は初めて食べるんだから私達の意見が優先に決まってるじゃない。ねえ? もーちゃん」
「当然ね。けど本当に美味しそうだわ。一つは見ればわかるのだけれどあとのは何かしら?」
「カルボナーラ2種にカポナータです。リクエストされたカルボナーラだけどせっかくなら食べ比べと思って。でそれだと重いのでさっぱり食べれるトマトの野菜煮込みが良いかなって」
百華の質問に答える郁。
「こっちもカルボナーラなのね、けど黄色いわ」
そんな料理の説明をしている横で既に食べている俊彦が感嘆している。
「美味いな! こっちはいつも店で見るやつだけどこっちは濃厚だな! そしてトマトがさっぱり。最高!」
「そりゃ良かったよ。二人もさめなうちにどうぞ」
「いただくわ」
「いただきまーす」
最初こそ料理の感想をいった三人だったがあとは終始無言で食べている。その姿を見ていた郁も自分の料理の出来と合わせて満足気に顔を緩めていた。
そんな姿を百華は横目で郁を見ていた。
「けどカルボナーラってクリームパスタでしょ? こっちもカルボナーラなの?」
食べながら疑問に思った真帆が不思議そうに言う。
「生クリームって一般家庭だと高いだろ? それは向こうでも同じでそれを使わないのが庶民的なんだよ。だから家庭カルボナーラってとこかな?」
「へー、なら家でも手軽に作れそう」
「そう思って2種類にしてみたんだ。料理の奥深さを知ってもらおうと思って」
「料理好きなんだね」
「ああ、まぁね」
伝えたい事が伝わってご満悦の郁。その顔はとても笑顔だ。
それを見ていた三人は料理の時の郁は普段見せない年相応の姿をみせる郁に笑みを見せていた。
四人の食べる姿は一見楽しそうに談笑している。
ただ百華だけは料理を楽しみつつもずっと横目ど三人を観察していた。
そして気づく。
郁のときおり見せる表情が、昨日と同じ顔をしていること。
俊彦がそんな顔に気づくたびに眉間に皺を見せていること。
そして真帆がそんな俊彦を心配そうにしている事に。
「ごちそうさま。片付けは私達がするわ。せめてそれぐらいはさせてもらえるかしら?」
「ではお言葉に甘えてお願いします」
「俺も手伝うよ」
「三人もいらないわ。俊彦は郁と話でもしといて。真帆行くわよ」
「はーい。美味しかっよ、かーくん。ごちそうさま」
「お粗末様でした」
食事が終わり片付けに向かう二人、そこで百華が昨日から気になり、さっきの食事で気になっていた事を話した。
「ねぇ、真帆。料理をしている時や食べている時は私達と何ら変わらない笑顔を見せるけど、どうして普段はしないのかしら?」
「え? 突然どうしたの?」
「いえ、さっきも笑顔も見せてた。けどわかりにくいけど、ときおり遠い目をしてたのよ。昨日もしていたわ。それが気になって。それに俊彦もなんだかときおり変だし」
「そ、そう? き、気のせいじゃない?」
まずいと思いとぼける真帆。
「そうかしら……」
ジト目を向ける百華。
「そ、そうだよ」
「とぼけるのね。真帆……何か知っているんじゃないの? あなた達はっきり言っておかしいわよ? 昨日の俊彦の様子が変わったのを私が見たというのはわかってるでしょ?」
「……もーちゃんごめん。今は言えない。何れ言うから待って。私からは今は言えない」
やはり百華には隠し事が出来ないと悟り素直に真帆は謝った。
「やっぱり何か事情があるのね。俊彦もしってるのよね?」
「うん……俊君から相談うけてたから。私の事なら言えるけど。だから私からは言えないの」
「それはあなた達が関係していることなの?」
「うーん……私は関係してないよ。俊君も直接関係してるわけでもないと思う」
「そう。複雑そうなのはわかったけど……心配あまりさせないでね?」
「ごめんね」
「今はこれ以上聞かないわ。その代わり私が良くないと思ったら容赦なく問いただすからね。それまではいつものように見守るわ」
「ありがと、ごめんね? もーちゃん」
そんな二人がシリアスな話しをしている一方で男二人は食事後ということもあり、床に寝そべって寛いでいた。
「片付け終わったわよ。二人して寝そべっていないで、さぁ行くわよ」
片付けが終わり戻ってきた百華は二人に告げる。
「もう少し休憩しようぜ」
百華の言葉に俊彦はまだ動きたくないとばかりに動かない。
「郁は買い物もあるのよ。私達のせいで行けなかったとかはだめよ。ほら起きなさい。郁も」
「わかったよ。百姉。だから耳ひっぱらないで!」
「はい」
耳を引っ張られ起き上がる俊彦。自分も引っ張られてはたまらないと素直に応じた郁だった。
渋々男達は起き上がり4人はもう一つの目的である買い物をすませるためショッピングモールへと赴いていた。
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