第4話

買い物も終え帰宅してきた郁は料理にとりかかる。


 今日のこの挽肉レタスチャーハンは得意料理。父親の料理人仲間でもある、居酒屋の店主に教えてもらったレシピ。

 俊彦からの話題で久しく作ってなかったし、初めて食べたとき、チャーハンなんてどこにでもある、どれを食べてもそんなに大した差はない。

 だけど工夫や作る人によってこんなに差ができるんだと、子供ながらに感動して教えてもらった数少ないイタリアン以外の料理。


 郁は料理をしながらそんな思い出、初めて食べた時の事を思い出しながら作る。

「居酒屋なのにここのチャーハンは上手いぞ! なんで中華やらずに居酒屋なんだと思うぐらいには」

 と言う父の言葉に郁は、

「チャーハンなんてどこも同じじゃないの? たかがチャーハンだよ?」

 といった時にたかがなんて言うなと拳骨をくらった。

 簡単な調理の料理をばかにするやつは上手いものは作れない、と怒られた事を思い出す。


 そこの居酒屋は特殊で鉄板で調理する。鉄板料理というと、お好み焼きと焼きそばしかイメージが無かったし、鉄板料理なのにお品書きには焼きそばはあれど、お好み焼きがない、けど居酒屋という変な店。

 店主は二つのコテを器用に使いながら、見事な卵につつまれたパラパラお米のチャーハンを仕上げていき、出来上がっていく様は感動だった。


 会話と料理を作ってるのを見惚れてる郁に店主は言った。

「料理って奥が深くてな。焼き茄子って焼くから焼き茄子って言われるがな、油でさっと素揚げして皮をむいてだしても焼き茄子って出せるんだぞ。どうだ。簡単すぎる料理でも奥ふけーと思うだろ。まっ邪道だけどな」と店主は笑って言った。

 料理を作りながら教えられた豆知識に料理の奥深さを教えられたのを思い出していた。


 料理も出来上がり、いつものように独り料理を楽しむ。ほのかにニンニクの香りが漂い、隠し味のごまの香りと一緒になり食をそそる。食べるとレタスのシャキシャキ感とひき肉の旨さが米に混じりなんとも言えない。


「あ~やっぱり上手い! けどやっぱり鉄板なのかなぁ。あの味には遠く及ばないのが悔しい……」

 そう自分の料理を批評しながらも、美味いことには変わらないので独りもくもくと食べていた。


 食事も終えお風呂にも入り一人リビングでテレビを見てくつろいでいた。しかし、テレビはつけてはいるが、はいなかった。

 お腹も満たされ、寛いでいたことで落ち着いてしまったら今日の事が頭によぎっていたからだ。


 今日は郁にとってなんと思っていいかわからない日だった。時々胸がしめつけられたり、何を感じているのか自分でもわからない感情がちょくちょく出てきていたからだ。


 久しぶりの俊彦のうざ絡み。元々はそんなだったがいつの頃かわからないが距離をあけたような遠慮しているような、とにかく執拗に肩を回したり、誘いに来たりというのが無くなった。

 ただ野球には入らず、勉強を頑張ってるようで、そのせいか爽やかイケメンとか呼ばれだしたのを見て、彼女が欲しいとずっと言っていたから、そっちへシフトしたのかと思っていた。


 なのに今日は、これまでしてなかったからと言わんばかりのうざ絡みだった。

 でも、と思う。部活をしていた時のあの雰囲気は懐かしかった。連れて行かれた柔道部から別れるまでのあの雰囲気は久しく忘れていた感覚だとは思う。

 だからだろうか……。しかし何か違う気がしていた。

 なにか自分が置いてけぼりにされたような、寂しいのか、混ざりたいのか、懐かしいのか、よくわからない感情が時々現れていた。

「それにしても幼馴染か……いうだけあって息がぴったりだったな」

 そう零して二人を思い出す。


「真帆さんは……俊彦の女版って感じだったなぁ、年上っていうより妹みたいかな……。本人弟とか言ってたけど。姉ねぇ……、でも明るそうでムードメーカータイプで人気ありそうだな。彼女って言ってたな……。てことはあの時の振られたとかどーのが真帆さん? え? 似た者同士だから惚れたのか? その二人がこれからセットか……先が思いやられる」

 真帆の評価はやっぱり大和撫子と思える黒髪とスラッとした容姿。そして明るい。モテる理由は揃ってるが、あのスキンシップと俊彦と息があったときの絡みを思い出し、今後の不安にげんなりする。


「それに比べたら、年上でお姉さんだなと思わせる落ち着いた雰囲気そうな百華さんは、まとめ役なんだろうな。時々さり気なくフォローしてたし、ほんと年上お姉さんて感じ。だけどなぁ……たまにさらっと揶揄ってくるのがなぁ……不意打ちすぎて逃げられない……あの人も油断ならないな」


 結局三人とも郁からしたら同じ部類の人間で幼馴染三人ということもあり、何時どこで標的にされるかわからないので、やっぱり油断出来ないなと結論してしまう。


「幼馴染か……信頼、信用してそうだったな。今回の罠も俺を逃さないように相談してたみたいだし、それをフォローしてたし……自然と助け合ってんだろうな……帰るまで終始そんな雰囲気だった」

 思い出しながら三人の関係を雰囲気から感じ取り言葉をこぼすと、またそれを見てた時の感情が出てくる。

 ん? 首を傾けたが、違和感を感じながらも気のせいだなとかぶりを振る。


 違和感と言えばもう一つ。

「百華さんって不思議な人だよな。なんであんなに動揺したんだろう。まぁ確かに頭を撫でられて照れたのはあるけど、それだけって感情じゃなかったんだよなぁ」


 三人それぞれ思ったことは違えど良い人達というのはかわらない。残りの二人の先輩も同様に印象は良かった。ただ幼馴染三人というのが場の主導権をもっていたというだけだろうし、撫でられるということなら4人に散々やられた。

 そのどれも恥ずかしいかったし、耳が熱くなったのも実感していたから同じはずだ。

 なのに百華にだけは何か違っていた。


「あれか、微笑みと気配りの良さからくるマザーと呼ばれるスキルの高さのせいか? うん。そうだな。それ以外違いないしな」

 そう結論した郁は納得してしまい、大きく2度頷く。


 そうまとめていると父親が帰ってきたのか玄関のドアが開く音が聞こえる。

 そしてリビングが開けられ父親の姿が現れる。

「おかえり、親父。小腹が空いてるならチャーハン残ってるから食べていいぞ」

「ただいま。そうか、あるなら少し食べるかな」

「なら温めてやるよ。あと酒はビールか? ワインか?」

「あーチャーハンならビールだな。気が利く息子を持って父さんは幸せだ!」

 そういって目尻にシワが現れはじめた顔は、笑ったことによりより浮かび上がらせる。

「何調子いい事いってんだ」

 そう言って温めた夕食の残りとビールを置いて父に告げる。

 そこで間近に見た息子に父親のはじめはいつもの様子と違う顔をしている事に気づき頭に疑問付を浮かべる。

 何かあったか聞こうと口を開きかける前に郁が話しかける。


「あーそうだ。部活明日から始めるから」

「ん? バスケ戻るのか?」

「いや、柔道」

「は? 柔道?」

 いきなりの斜め上の言葉に驚く一。


「そう、柔道。柄じゃない気もするけど、友人に多少強引に誘われて根負けした」

「そうか、納得したことなら止めはしないが……」

「てことで準備は何もないとは言ってたけど、急に何かいるかもだから、ちょっと多めに金用意できる?」

「あーいいぞ。そうだな……。とりあえず3万ほど置いとく」

 そんなに良いのかと思ってしまうかもだが、家計の遣り繰りは、ほとんど郁がしているからという理由が背景にある。


「助かる。あと先輩達が店に来たいって」

「ほう……いつ何人だ?」

 人を連れてくるというのが珍しく驚く一。

「んー、俺含め6人かな。女4男2。日時は春休み中かな」

「わかった。明日予約見とくわ。で可愛いのか? 彼女いるのか?」

 女性が多いことで茶化しにかかる一。

「何言ってんだよ。今日あったばかりの先輩だけだよ」

「いないのか」

「男は前に連れてきたやつだ。女性はそのうち二人がそいつの幼馴染」

「そっか。タイプいたか?」

 まだ煽って引っ張る一。


「いないよ。何学生みたいなこといってんだよ。じゃ頼むな。俺はそろそろ部屋戻って寝る」

「ああ、郁」

「なに?」

「何か悩みあるか? 学校で何かあったか?」

「いや、話したこと以外は特に無い」

「そうか、何かあったら相談しろ」

「なんだよ、突然」

「いや、何もないならいいんだ。只の親心だ。おやすみ」

「おやすみ」

 何でもない子供が親に頼み、親が答えたというだけのどこにでもありそうな親子の会話。

 ただ一は違和感に感じた顔が気になる。


 郁にとってはいつもの普段通り。

 だが一は会話の間、違和感をもってからずっと郁の顔を見ていた。

 その顔は無表情で一切動いてなかった。

 ここまでの会話で煽ったり茶化したりと揺さぶってみたが全く動いてない。

 だから執拗に感情を引き出そうと会話を引っ張った。

 いくら昔から感情をあまり出さない、甘えない、といってもだ。これだけ絡むといつもなら呆れ顔をみせたり、眉間にシワを寄せたりと喜怒哀楽の表現は出している。

 しかし今日は淡々と答え、表情に変化は無い。


 そんな息子を見た一は一抹の不安、心配がよぎる。

 高校に入り、繁忙期のGWが終わり、一週間後に取った休暇の時には、今のような雰囲気になってしまっていた。

 今日、またあの時見た顔をしていたのだ。


 あの顔はこれで三度目。その最初の日が幼いときにみせた、野球を辞めた翌日。

 だから言いようのない気持ちに襲われるのは仕方がないだろう。


 こんな時、母親がいればと、再婚をすべきだったのかと、何度も思い悩みぬいていた気持ちが一を襲っていた。





第3章 初顔合わせを終えたそれぞれの夜 ~完~

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