第3話 後編

高1のGW明け。噂で郁がバスケ部を辞めた事を友人に知らされ、信じられなくてすぐ駆けつけ問い詰めた。

「熱が冷めただけだよ。飽きたぽいわ。よくあることだから気にすんな。独りなのが好きなのに気づいただけだよ。チームスポーツは向いてない」

 全く覇気がなかった。

 冷めた、飽きた、どこかで聞いたかのような言葉。

 それを聞いて何も言えず立ち去ったのをよく覚えている。

 そんな予感がしていたのに、そんなはずはないと頭から除外した。恩を返すと思っておきながら何もしなかった自分に腹がたった。

 あの時に気づいて捕まえて話しをしていれば変わったかもしれないのに。

 変えられなかったとしても、あんな事を言わせるのは防げたかもしれないのに。


 冷めた性格が更に悪化したのを止められたかもしれないのに。

 しなかった後悔。


 そして過ちと思っている二つの出来事。


 その一つ目。


 俊彦は高校から柔道をすることは決めていたから野球を引退してからはよく高校へ行き、兄と混じって練習していた。

 そんな卒業式前日の日、その日も同じように練習に参加していた。兄、百華、真帆と帰宅しようと校門差し掛かった時に同じように見知った顔を見る。

 郁の彼女だった。

 男3女2人だった。今いる俊彦達と似たような集団。バスケ部マネージャーだし、ここに入学することも知っていたし、同じように知り合いか中学のOBで、時期的に先に挨拶にでもしに来たか、仲が良い先輩に会いに来ただけだろうと軽く考えていた。

 向こうも気づいたようで驚いていたが会釈をしたので返した。普通のやりとり。


 兄は兄でその中の男に向かって手を上げてコンタクトをとって言葉を交わす。

「彼女と帰宅か? 最近出来たからってうかれすぎるなよー」

 兄がそう茶化していたのを俊彦は深く考えるべきだったのだ。しっかり観察するべきだったのだ。そういって茶化した隣にいるのが誰だったのかを。


 そして二つ目。


 春休みに入ったときだった、卒業式に別れた事を野球部仲間から聞かされた。

 もちろん心配はしたし、会いにもいった。たしかに落ち込んでる風ではあった。理由はと聞いた。

「わからない。何かしたのかもな」

 そう言って悲しそうに空を見ていた。

 念の為、兄にあの時会話をしてた人物の彼女はあの中にいたのか確認した。

 するとお前と同じ年の子で会釈してた子だと。彼女が郁の元カノだった。ただフラてた日と合わない。

 伝えるべきか悩みはしたが掘り返すものでもないと黙った。

 その後入学してバスケ部に入り、一緒に練習し、元カノにも会うのに続けていることから、話し合って納得のうえでと思い込んでいた。

 このバスケを続けていたのが円満とは言えなくとも話し合って別れたのだと勘違いした事。

 郁は言ったのだ。理由は知らないと。


 この二つが俊彦の過ち。


 俊彦は間違いだと思い知らされたのだ。

 少ないとはいえそれでも笑っていた。

 少ないとはいえ周りに人はいた。

 郁自信でも誰かに自ら絡んでいた。

 俊彦にも話しかけてはきた。


 しかし退部後は無くなった。

 こちらからアクションを起こせば以前のように笑うし、遊ぶし、普通に話す。


 しかし全く今は無い。

 クールショタともまだ言われていない。


 それはそうだ。いくら言われる要素が元からあったとはいえ、入学したばかりの高校1年の男子高生に渾名が、二つ名がつくわけがない。

 だから変わっても異変に誰も気づかない。

 気づくのは男子では唯一同中の俊彦しかいない。


 そこから兄の元へ走った。事実をしっかり確認するために。

 真帆姉もいたがデートだろうがなんだろうが、構わずに叫んだ。

「前に聞いた男はなんてやつだ! あの女とはいつからだ! あの男の性格とか洗いざらい教えろ!」

 捲し立てるように問い詰めた。

 兄と真帆姉に事の顛末を全部話した。

 結果は二股。別れの理由は言わず。郁は何もしらない。そしてGW前に恐らく知って退部。

 ここまではわかるがあの変わり用が説明がつかない。付き合ったというだけならああはならない。結論は二股だった事実も知ったか悟った事。

 郁があの男に誘われ、憧れの人からだと嬉しそうにいって、この高校を選んだのを俊彦は知っている。

 あくまでも予想だが間違いない経緯だろう。

 それがわかったとき、兄に八つ当たりをしていた。


 だから郁からあんな事を聞かされた俊彦は今度こそ間違えないように、郁の事については慎重に必死に頭で考えている。

 だから今日の時折みせる郁の表情を見た俊彦は、必死に堪えていた。

 

 いつものように感情に、正直に、安易に、行動して、また失敗しました、では悔やんでも悔みきれなくなるから。


 近くにいれば何かを気づく機会が増える。

 近くにいれば手を伸ばしやすくなる。

 柔道部なら信頼できる二人の姉がいる。

 一緒にやれば昔を思い出すかもしれない。


 今はまだ何をしていいかはわからない。まずは近くにいれる条件を作る事。

 これが今日の勧誘だったのだ。

 もし、また力不足になりそうになってもここに一緒にいてくれさえいれば、真帆と百華、二人の姉がいる。なんとかなるはずだと。


 それは叶った。叶ったがそうなる前に出来なかった事を思い知らされた。

 全国という夢をもち、憧れた先輩に誘われ入学しこれからという時に、その先輩に彼女を取られ、二股という事実をもし知ったのなら彼女にも裏切られたとわかったら……。

 おそらく、最悪の展開なのだろうと改めて今日理解させらてしまった。

 だから叫ぶのを止められなかった。悔しくて涙を零す。


「クソー!! クソがーーー!! 俊彦お前は何してたーー!! ちくしょーーー!!」


 長くその家では男の慟哭が鳴り響いた。


 幸いにも家には誰もおらず、男の叫びには誰も気づかない。

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