第3話 前編

家に着き玄関に入ると、俊彦は物凄い音をあげながら階段を駆け上がり、部屋へ入り勢い良く閉め、大きな音が鳴ると同時に持っていたカバンをベッドへ投げつけると叫んだ。



「くそがーーー!!!」



 それはこれまで幾度となく我慢し、感情を鎮め、楽しさで誤魔化す。また我慢しそして鎮める、という事を繰り返した反動。

 家に帰った事により、それは火山が噴火するように感情が爆発した瞬間。

 俊彦の性格からすればその行動は、郁と別れてからなってもおかしくなかった。


 だがそれでも堪えたのだ。

 一人には協力を依頼し、一人はいつものように気づきフォローしてくれた。

 おそらく俊彦自身、何かを我慢しているというのも二人には悟られている事はわかっていた。だが、二人にとって新入部員が入る事は念願なのだ。それに水を指すような行動は出来なかった。

 俊彦にとっても郁と同じ部活ができる事は嬉しい事だ。だから楽しかった事は事実だ。

 だが限界が来た。

 家に入った瞬間、行き場のない感情に我慢が出来なかった。


 ここまでなる理由は俊彦が小学生でリトルリーグ時代に郁と出会ってから、高校1年のGW明けまでの間に起こった過去が関係している。


 郁とは地域のリトルリーグからの付き合いだった。当時から俊彦は兄弟に対して劣等感を抱いていた。三兄弟の中で一番運動神経は劣っていると感じていたのだ。

 それをたまたま近くにいた当時チームメイトだった郁に吐露してしまう。

 小学校は違うし、特に仲が良いとうわけでもなかった。理由はわからないが何故か愚痴をこぼしていた。あまり知らない他校の同級生だったからかもしれない。


 それを聞いていた郁は言った。

「確かにお兄さんはここの4番だな。間違いなし事実だな。だれしもがここの4番はお兄さんって言うな。弟も運動神経がいいって言うなら、いずれそうだろうな。けど、俺達の4番はって聞かれたら古賀君って答えるよ。次男の古賀君って」

と笑って言われたのだ。


 ただその時はまだ小3で深くは理解してない。ただその言葉が嬉しかった。それから話すようになったが、4年に上がる頃に郁は家庭事情とかで辞めてた。


 その数年後、中学になり郁と再開する。その時はバスケ部と聞き残念に思いながらも交流を再開。

 ただ当時の郁はリトルリーグ時代に見せてた笑顔は影を潜めていたが、絡むと昔となんら変わらないのもあって気にはならなかった。


 そして中2へと上がりクラスメイトになってからさらに距離が縮まる。

 夏になろうかという頃には親のお店や自身の手料理を食べさせてもらうぐらいには仲良くなった。彼女もその頃に出来てよく揶揄ったものだった。

 そして俊彦が郁を特別な友人に変わるきっかけになるのも、その夏の大会だった。

 当時、俊彦はましにはなってはいたが、まだ劣等感を抱いていた。

 たしかに小学生のあの時の言葉が嬉しくて今日までやってこれただろうが、克服したかと言われたらそれは無かった。ただ脳裏にかすかに残っていて、我武者羅に打ち込んでいただけとも言える。

 そんな俊彦は今なら笑える話しだが、真帆の事を好きだった。大会前に告白するが既に遅く、振られた。そのせいかはわからないが、兄が全国へいったというのに予選敗退し、才能も恋も勝てないと塞ぎ込んだ。


 塞ぎ込んでいる俊彦を郁に理由を聞かれた。

「好きな人に大会前に告白したら振られてさ。理由は既に兄の恋人だからって言われたんだ。で、大会も予選敗退。兄にはなにやっても勝てないみたいだ。ださいよな」

「古賀って見かけによらずメンタル弱いのな。ほんとださいわ。あのな? チームメイトはお前が4番って思ってるよ。努力してるのは見てるさ。慕われているんだから自信もて。じゃないと仲間にボコボコにされるぞ? お前、兄のために野球やってんの? あとな、自信あるやつとないやつ、どっちを好きになるかなんてわかりきってるだろ。振られて当たり前。だから余計に自分を信じろ。お前はお前だ。俺にとって古賀は兄じゃないよ。ここでダサい事言ってるお前だ」

「ひでー、慰めているのか? 貶しているのか? どっちだよ。もっと優しくしろよ……」

「貶してる」

「テメー!」

 そう言われて俊彦は心が軽くなった。


 小学校の時と同じような言葉。当時は幼く、深くは考えなかったが、間違いなくこの2つの会話で俊彦は救われた。最後の大会も結局兄を超えられなかったが、何も思わなかった。精一杯やれたのは郁の『お前はお前、古賀は兄ではない』という言葉だった。

 誰しもが兄と比べて見ていた。ただ俊彦という人物だけを見、評価してくれて最初に言葉をかけてくれたのは郁だ。それからだ、兄弟や幼馴染二人もこれまでの気持ちを吐露したらかけられた言葉から同じだと気づいたのは。

 勝手に比べて殻に篭っていたのは自分だと。

 だから俊彦は郁に恩を感じている。

 とても大事なものを気づかせてくれてわからしてくれた。


 郁は中学ではどこか陰りがあるのは気づいてた。その原因は家庭事情にあるのはなんとく理解した。父子家庭で家事をしているのを、遊びにいった際に知ったからだ。俊彦にはわからない苦労があるのだろうと想像した。

 だから絡んだ。去年の百華と同じだから、その時の真帆の真似をして。

 楽しい事があれば吹っ飛ぶからだ。笑顔が出るからだ。

 俊彦自信、百華や郁のように気の利いた言葉をかけることはできないから。

 真帆のようにさり気なく気づいてやれないから。

 あとはなんとなく独りにしてはいけない気もしていたから。


 そんな郁にも彼女ができ、笑顔が増えていく。よく恋は人を変えるよなと揶揄ったものだ。

 たまに彼女の事を話す郁は嬉しそうに笑う。傍からはわかりにくい奴だが。


 その後中学生活はそれぞれで部活を頑張り、最後の大会で約束を交わす。

 約束を交わした時の笑いあったあの日は忘れたことが無い。

 郁は絶対に叶える強い目をしていたのだ。


 ここまでが俊彦が郁に絡み続け、恩があるからと返そうとし、特別な友人。なんなら親友と言ってしまう郁との想い出。


 そしてこの後、俊彦が後悔と過ちと思っている二つの出来事が起きる事となる。


 

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