第2話

百華は家につくと忙しなく動いていた。

 いつものように家事をし、妹の世話も終え、気づくと夜21時を回っていた。一息つこうと休憩していた百華はリビングで珈琲を飲みながら一日を振り返る。

 今日は確かに私達にとって、素晴らしい日だ。後輩と仲間ができた日。百華自身も心から喜んだ。しかし終始、なにかの違和感がつきまとって、三人を観察していた。

 それがなんなのか頭の中でわからずうねっていた。いつもなら二人については見てればだいたいわかる。なのに今日だけは何かを隠していると言う事だけ。

 それに郁の事も気になっていた。

 何度も振り返りながら体は上下に小さくゆらゆら揺れていた。


 そんな事をしている娘を近くで見ていた母は、娘がまた何か考え事をしているなと、見てきづく。

 しかも、良いことではない。何か悪いこと、腑に落ちない事といった類だ。

 いつもの考えてる時の癖、足がぶらぶらゆるている。それだけなら楽しかった事を思い出してい機嫌がいいこと。


 だが人というのは嬉しい出来事ならば上を自然と向く回数が増える。それは娘も同じ。しかし今は嬉しい事もあって足をぶらつかせているが、途中から下を向く時間が増え、カップを見つめ、前後にゆらゆら小さく揺れている。

 幼馴染の二人に何かあったのかと思い、声をかける。


「百華? 何かあったの?」

「あ、うーん、あると言ったらあるし、無いと言ったら無い……かな?」

「問題がわからなくて難解系みたいね」

「わかる?」

「何年あなたの母親やってると思ってるの?」

「何かあるってわかったけど、これだろうと思うけど、何かが引っかかっていて、違うと思うし、けどあってるはずとも思うし、結局それが何なのかわからない。て悩みだわ」

「何そのなぞなぞ……」

「そうね、なぞなぞよ」

「まぁ相談したかったらいつでも言いに来なさい」

「ありがとう。お母さん」

 聞いたときに相談になろうと声をかけた母親だったが、なぞなぞのような返答に、流石の母親も今聞いても答えれる気がしないと悟り、娘の事だからすぐまとめ、煮詰まったら相談してくれるだろうと考え、いつでもいいと添えてテレビに目を向けた。


「そろそろ寝るわ。おやすみなさい」

「はい、おやすみ」

 百華はとりあえずわからないから自室に戻って考えようとリビングをあとにした。

 部屋に入り机に向かう。メモを取り出し今日あった事を箇条書きにおこし、気になったことを補足していく。

 書き終えるとベッドへ向かった。

 真帆にプレゼントされたお気に入りの熊を抱きかかえ、メモを横に起き、ぬいぐるみに話しかける。

 わからないことは紙に書き出す。そしてそれを口に出す。そうすることで頭が整理されていく。

 百華のもうひとつの考え事をする時の処世術だ。


「熊さん、今日ね新しい部員がきたのよ。その子は噂通りとっても可愛い子で、撫でたくなるような子なの。思わず撫でてしまったわ。ふふ」

 そういって思い出し、笑い声をこぼす。

 普段の百華を知っているだけの人がこれを見たら深刻な悩み事を抱えて大丈夫か? と心配するか、好意をもつものならば飛びついて抱きついてしまうだろうが、本人はいたって真剣。

「で、見学ということで来たみたいだけど、真帆と俊彦の悪巧みで強制入部させようと画策してて、それは気づいてて白状はさせたんだけれど……」

 今日の事を順に一つ一つ思い出しながら熊に語りかけ頭をクリアにしていく百華。最後まで語るまで止まらない。


 今日俊彦が一人男の子を連れてくることはあらかじめ知らされていたので知っていた。

 そしてそれは数日前に俊彦と何やら話していたのでその事なんだろうと容易に想像できた。


 百華は周囲からマザーと呼ばれている。それは母性本能が母親譲りだからだ。母親譲りといっても最初から母性本能が高かったわけではない。

 百華は両親と4つ下の妹の4人家族だった。両親ともに愛情をものすごく貰い育てられた。

 しかし、三年前の夏に父が他界。妹は当時10歳。百華は中学2年でまだ子供と言えば子供だが、まだなんとかなる。だが妹はそうはいかない。まだまだ手が話せない。だが母親は働かなければならない。そこで眠ってた母性本能が家事や妹の世話をすることにより開花する。そして面倒をみているうちに観察眼が養われた。それも元々はもちあわせていたのだろう。

 そんな経緯で中学3年生になる頃には片鱗を見せ始め、高校に入った頃にはマザーと呼ばれるように完成してしまっていた。


 昔から幼馴染の古賀三兄弟と真帆の四人は隠し事をしてもそれなりに気づいた。だが今ではほとんど看破してしまう。それなりなりに付き合うとだいたい気づいてしまう。相手のちょっとした仕草の違いを見て察する。そんな百華だが今日のことはさっぱりわからない。


 それもそのはず、関係してるのが郁のことだからだ。

 百華も真帆と同じく、俊彦と郁の会話は聞いていたし、雰囲気が変わった瞬間も見た。

 百華にとって俊彦のあんな顔は初めて見たのだ。

 だが郁は今日見知ったばかり。わかるわけがなかった。


「ねぇ、熊さん。俊彦は間違いなく郁のこと何か知ってるはずなのよね。で、真帆も何か知っているはずなの」


 そう間違いなく知っている。真帆はわかりやすい。それは懇親会の時にはわかった。けどその後の真帆はどこか心配そうに俊彦を見ていたことから細部までは知らないのだろう。

 となるとやっぱり俊彦と郁の会話の中で俊彦の発言で変わった二人のあの表情。

 俊彦の方は真帆もきづいただろう。だが郁のほうはたぶん私だけだろうと考える。その後の彼の遠い何も写してないよいな目や何を考えてるかわからない顔を時々していたのを気づいてたのは百華だけ。いや俊彦も全てでは無いが気づいてる様子だった。

 最後の大会の時の話。真帆の話の時。

 と、ここまで独り言をこぼした時に違和感に気づく。


「あら? とゆうことは、郁は真帆が好き? 大会の時何かがあった? どう思う?」

 さらに熊さんに語る。

「いやでも帰宅中の時の彼の表情は何か遠くをみてたのよね。真帆を見ていたというより……私達? え? 私?」

 と考えるもありえないわねと頭をふる。

 どうにもどれも線で結びつかない。

「なんとなく恋路とバスケなんだろうけど……。わからないわね……。どう思いますか? 熊さん」

 そう言ってぬいぐるみをガオーとやったりこねくり回す。

 やってる事は可愛いし、いつもの口調と時折幼女のような語りを織り交ぜ、独り言をぬいぐるみに向かってこぼしているのは、なかなかに痛いとも言えるし、可愛いとも言える。


 だいぶまとまってきたと感じさらに考える。

 たぶん問題点は何というのはわかる。けど理由がわからない。もし真帆への好意の類ならば、もっと真帆を見てたり、何かしら意識するはずなのに、初対面とわかるお互いの態度。

 真帆が嘘をつくはずかない。

 恋路で俊彦と衝突なら俊彦はあんな我慢はしない。

 もし百華へとなったらそれこそ無い。接点がないし、一目惚れの類ならばアプローチや視線などアクションがあるはずだから、感じた事もないからこれもない。

 となると百華や真帆ではなく俊彦と郁との間で何かがある。これ以外考えつかない。


「まとまったけど、結局行き着いた先はかわらなかったわね。熊さん、どうしましょ? そうよね。いつものように見守っていればいわよね?」

 結局わからずに、今までの信頼から何かあれば言ってくるはず。真帆が直感で動いたならそうそう変なふうに転ばないのは今までが証明している。

 だがもし失敗した時は私がフォローする。

 俊彦も同じタイプなのが気にはなるが、あの姿をみるに慎重に動いているはずだと、待つ事に決めたのだった。


 しかし一つだけ気になっている。


「けどね、熊さん。一つだけ気になる事があるの。聞いてくれる? 二人の事は信頼もしてるし、信用もしてるわ。だから心配はしてないのよ? けどね、郁の目と顔がね? お父さんを亡くした時の、私達の目にどこか似てるのよ……あ~お父さんからのハグがもうないんだ、愛情はもらえないんだって思った私達の……ただ何処かが違うのよ……あれは何かな? 熊さんわかりますか?」


 そう熊に話しかけ、もうわからないから考えるはやめようと熊を抱きしめゴロゴロと寝転がる。


 そう言ってもその日の夜の百華は、あの目、あの顔が、ずっと脳裏にこびりつき離れなかった。


「郁って何なんですかねー? 不思議な子」


 その夜、眠りにつくまでずっと熊に郁のわからない仕草を語り続け、ベッドの上をゴロゴロ転がる百華の姿があった。

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