第3話

親睦会も不穏な空気が一瞬ただよったが、無事に終え解散となり、真帆、百華、俊彦とは近所なのでいつものように一緒に帰る。

 郁も帰る方向を聞くと同じということもあり、4人で一緒に帰路についていた。


「かーくん、どう? やっていけそう?」

「やっていけそうかと言われても話しただけですし。なんとも」

「それもそうだね。じゃ私達とは?」

「良い方ばかりなので仲良くはやれそうですが、スキンシップには慣れそうもありませんので近づき過ぎないで欲しいです」

「えー!? それって私だけをさしてるよね!! ね!?」

「さぁ?」

「それ私って言ってるようなもんじゃない!」

「言ってないですよ?」

 そう言って郁は顔をとぼけてそむける。親睦会を経て郁は真帆の扱いを理解したようでだいぶ扱いがわかっていた。

 それを聞いた三人はそれを感じて親睦会は成功したとかなと安堵する。しかし真帆も安堵はしたがそれと同時に不満が出る。

「言ってる!」

「福本先輩。濡れ衣です」

「もー! ももちゃん、かーくんが酷いよー!」

 そう言って百華に泣きつく真帆。


「ということは私ならいいのかしら?」

「え? いや……」

「あら。じゃぁ私のことなの?」

「あ、その……」

「冗談よ。年下らしくてほんとに可愛いわね」

「……」

 帰宅中、こうやって何度となく絡まれ揶揄われる郁。もうたじたじだ。


「私の時と反応違う……これが母性本能か……なんか納得いかない……」

「仕方ないって、もも姉と話すとみんなこうなるし」

 そう言いつつも真帆と俊彦は笑顔だ。百華もまたこの帰宅している時間を楽しむ。このやりとりは、いつもと変わらぬ三人。そこに増えた一人のためのスキンシップ。

 これから仲間となり、今後この輪の中に加わる事になるだろう喜びによるもの。

 三人なりの歓迎だった。


「出来れば撫でるのは福本先輩も、山路先輩も遠慮したいですよ」

「それは難しいなぁ」

「そうね、難しいわ」

 真帆の拒否に百華も続く。

「いや、難しくないでしょ」

「諦めろ、郁」

「諦めないといけないのか……」

 古賀にも同意され肩を落とす郁。


「そうそう。そんなことよりかーくん」

「なんですか? 福本先輩」

「それ! せっかく仲良くなってきたし、その呼び方変えよう! 私のことは真帆姉で!」

 さらに距離を縮めようと真帆は提案する。

「いや、古賀は幼馴染だからわかりますが、俺にはできませんよ。そのかーくんも定着させてますけど聞き慣れないのに」

「なら真帆先輩でもいいよ。というか部員みんな名前呼びだからうちの部は名字禁止!」

「絶対そんな決まりありませんよね? ないよな古賀? 山路先輩?」

 どうにか回避したい郁は必死だ。無駄とわかりながらも古賀や百華に助けを求める。


「今決まりました!」

「今って……」

「そうだぞ! 俺だけ郁って呼んでるのにいつまで古賀って呼ぶんだよ」

「そうね、じゃぁ私も俊彦と同じで郁かな。で私はもも? でも百華も捨てがたいけど、好きに呼んで?」

「はい、部内ルール決定!」

 そういって三人はハイタッチを交わす。


「これも回避不可か……わかりましたよ、では俊彦に、真帆先輩に、百華先輩。これでいいですか?」

「えー、なんか距離あるなぁ。一人だけ先輩呼び」

「そうね、呼び捨てでいいわよ?」

「うん、かてぇな。俺は先輩なんてつけないし」

「なら、さん付けで。流石に先輩を呼び捨ては……。どうです?」

「「よろしい」」

 真帆と俊彦は親指を突き立てハモる。行動も発言もぴったりと合わせていた。

「息ぴったりですね……」


 そんな中一人返事がないので郁は百華へ視線を向ける。

「百華さんは不満そうですね」

「んーももか、ももさんがいいわ」

「わかりましたよ。ではももさんで」

「ふふふ」

 百華は微笑み、そして頭を撫でる。良くできましたというように、満足したというように、優しく優しく撫でる。マザーと言われるのに恥じない行動。


 もう何度もされた行為なので逃げることをしない郁は、この三人に出会ってしまったら、いろいろ諦めないといけない事がある。仕方ないことなのだと、改めて味方は一人もいないのだと心に刻むのだった。


「あと、料理の招待忘れないでね?」

 しれっと懇親会でのことを持ち出し釘を差す百華。

「おぼえてますよ。父にも今日言っときます。早い方がいいですか?」

「お願いするわ」

「わかりました。では明後日から春休みだし、その間に招待しますよ」

「楽しみね」


 その会話を聞いていた真帆と俊彦が反応する。

「やった!」

「また食べれるのか。待ち遠しい……」

「お前は呼ばない」

「な、なんでだよ!」

「そうね俊君はお留守番」

「俊彦、お土産持って帰ってあげるわ」

「ひでー! 冗談だよな?」

「さぁな?」

「さあ?」

「どうかしら?」

「何を三人息合わせてんだよ!! 息合うのはやくね?!」


 そんな和気あいあいと帰路につく4人。今日初めてにしてはかなり打ち解けたと誰もが思うだろう。

 そんなやりとりをしつつ、郁の家に向かう分岐にはまだ違うところで郁が別れを告げた。

「では、俺はここで」

「いやお前の家こっちだろ?」

 俊彦は家の場所は知っていたので疑問に思う。

「夕飯の買い物して帰らないと家に何もないんだよ」

「本当に作れるんだね。ちなみに今日は何作るの?」

 本当に自炊できるんだと関心するが俊彦が絶賛するぐらいだから何を作るか気になる真帆。

「そうですね。今日は簡単にチャーハンと唐揚げですかね」

「あら、イタリアンじゃないのね」

 イタリアン好きの百華はてっきりその系統と思ってたら意外なチョイスですこし驚く。

「イタリアンのシェフの息子だからといってイタリアンしか作れないなんてないですよ」

「あれか!? 挽肉とレタスのチャーハン!」

「それ、思い出したら食べたくなった」

「美味かったんだよなぁ。俺も食べたくなってきた」

「また今度な。それじゃ俺はこっちだから」


 そう言って郁が離れようとした時、スっと真顔になる。

 百華に慌てて呼び止められ、連絡先を懇親会で聞くのを忘れていたと、部活の連絡などがあるからと交換をお願いされる。

 それぞれ交換を交わし、明日の部活の時間を告げ改めて別れを交わす。

 手を振り見送る三人。

 その三人はそれぞれ様子を帰路の中でずっと特定の人物をずっとうかがっていたいた。

 一人は別れた人物を。

 一人はそれを見ていた人物を。

 最後の一人はそれを見ていた一人と別れた人物を。



「ふぅ……今日は散々な日だったな。まぁ悪い気はしてないし、良い人達ではあったから不快ではなかったけど。ただあのスキンシップは当分慣れそうもないな……。はぁ……。しかしあの三人仲の良さ……」

 そう独り言をこぼしながら途中で口を閉ざし、郁は買い物を早く済ませようと歩くスピードを速め歩きだす。



 一方三人は。

「俊君良かったね。入部してくれて」

「そうだな。少し強引だったけどな」

「少し? かなりだったと思うけど。下手な三文芝居だったし。すぐに彼にばれてたじゃない」

「まぁいいじゃん。上手くいったんだし」

「だね。念願の後輩に、念願の一緒の部活だね」

「ああそうだな。付き合ってくれて真帆姉ありがとな。それに百姉もフォロー助かったよ。ありがとう」

「「どういたしまして」」


 俊彦は失敗するとは思っていなかったが、なんの不安もなかったとは言えない。しかし相談にのってもらい一緒に画策してくれた真帆と、知らなかったはずの百華が機転を利かせフォローしてくれたから、無事に成功したとわかっている。だからこそ、いつになく真面目にしっかり感謝を伝える。


 そんな俊彦を二人はなんでもないように答える。

 一方は事情をしり手助けした。

 一方は事情はわからないが何かを感じ手助けを。

 二人の会話で見た俊彦の姿に何かを言いたい、問いただしたい気持ちはあるが、今日それを聞くのも野暮だと思い、せっかく入部が決まり明日から再スタートを取れることになった日を喜ぶだけにしようと二人はお礼を素直に受け取る。


「さぁ、早く帰ろ? あんな話ししたからお腹空いちゃって我慢できないよー」

「そうね、急ぐわよ俊彦」

「そうだな。俺も腹減った。(……ありがとな……)」


 そんな空気を漂わせないように真帆が明るくいつものように茶化す。そんな意味を理解して百華があとに続く。

 俊彦もそれをなんとなく察し、それに乗っかり小さく感謝の言葉を呟いた。

 小さい頃からの幼馴染だからこそ、その小さな心遣いができ、そしてそれに気づく。



 郁の帰路は静けさで包まれ、三人の帰路は明るい笑い声がある高校生らしい姿。


 対象的な四人の初顔合わせの初日の終わり。


 この日は寒さがまだ残る朝だったが、夕方には春だぞと感じるように夕日が四人を照らし暖ため、心地よい春風が四人の背中をそっと撫でいた。

 その光と風は、まるである者にはその想いを祝福するかのように、背中を押すかのように、ある者にはその氷をとかそうと、気づいてと囁くように4人を包む。





第2章 思い出と視線 ~完~

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る