第2話

そんな郁と古賀が話している近くに真帆と百華も座り二人で同じように談笑していた。


「なんだかいつもより楽しいね」

 そう言ってにこにこ顔の真帆。

「そうね。女子だけっていうのはいいけど男女揃って輪になって話すのは久しぶりよね」

 同じく百華も笑顔を浮かべていた。


「ほんと、一時はどうなるかと思ってたけど……良かった。俊君は入るのは決まってたことだけど、最悪のケースだったら男一人だけだったもんね」

「ほんとにね。俊彦も嬉しそうで良かったわ」

「ね。私心配してたんだよね。いくら私達が幼馴染で昔から知ってるとはいえ、やっぱり同性がいるいないじゃ違うもんね」

「男は張り合うライバルがいるって大事っていうものね」

「だよね。俊君嬉しそう」

そんな会話をしながら弟といってもいい間柄の二人は楽しそうに話している俊彦を見て笑い合う。


「ところで真帆、連れてくるとは聞いてたけど前から落合君を連れてくるの知ってたわよね? どんな子なの?」

「え? 知らなかったよ? ヒューヒュー」

突然百華から聞かれ鳴りもしない口笛を吹く。そんなことをしたらただでさえ百華に隠し事が出来ないのに。

「そんなとぼけてもだめよ。私はマネージャーとして彼の事を知らないといけないのだから知ってる事をキリキリ吐きなさい」

「わかったよー」

 しぶしぶ真帆は白状する。


「以前から誘うということは聞いてたんだけどね。どうやって入部させるかって相談されてました!」

「やっぱり。で、どんな子? 知ってるんでしょ?」

「そんなに詳しくは知らないよ? 私も中学の時に見たことはあるけど、今日が初対面だし。仲がよくて小学校からの知り合いだってぐらい」

 そう聞いて百華は記憶をたどる。だが私達5人。古賀三兄弟に、真帆。それ以外で一緒に今日まで一緒にいる人物に心当たりが見つからなかった。


「あら、私達以外にも幼馴染がいたの? いたような記憶はないのだけれど」

「えっと、小学校の時は違う学校で、知り合ったのはリトルリーグ時代だって。私も記憶がないもの。1年しか同じではなかったみたいだし。で、中学から同じで再開して2年だったかな? クラスメイトだって」

「それでも中学からなら私達もいたし、野球部で彼はいなかったはずよ? 二人ともマネージャーしてたのだから」

「バスケ部だった」

「あー、思い出したわ。バスケ部に上手な子がいるって騒いでた子がいたわね。たしか真帆もよね?」

「そうそう、その子。と言っても今のほうが可愛いけど」

「そうね、けどスキンシップはほどほどにした方が良さそうよ?」

「みたいだね」

 そう言って言葉は控えるかのように言ってるが真帆は微塵もそんな事は思ってないかのように笑う。


 すぐ近くで会話しているのだから当然会話が聞こえてくる。

 二人はこうやって話しはしながらも別々の理由で俊彦と郁を気にしていた。

 それは念願の後輩ということ。部長とマネージャーという立場と幼馴染という立場のため。真帆は相談されていたというのもある。いくら入部を決めたからといって、ほっとくわけにもいかない。俊彦の事はあまり心配はしていないが、郁の事はそうはいかない。

 そのため二人で話しながらも郁に意識を向け、二人して気を配っていた。いつでもフォローできるように。だから当然、話している内容も聞いていた。


「本当に可愛いね。クールと童顔のミスマッチが可愛さアップって感じ」

「クール……ね。あれはクールというより」

 そんな時だった。百華の言葉が途中で止まり真帆も目線が隣へいく。

 俊彦の様子が変わったのだ。


 内容は真帆と俊彦の関係。それから昔話。春休みしごくぞ。覚悟しろ。目標は全国大会初戦突破に彼女を作る。

 聞いていれば何気ない部活をしている高校男子ならだれもが話すであろう他愛もない会話。

 ただ近くにいて聞こえてくる程度なら気づくことはなかっただろう。

 だが真帆と百華は念願の新入部員というのもありいつも以上に、自分たちの立場もあって気を配っていて聞くというより聴いていた。


 そのため幼馴染である俊彦の声のトーンと雰囲気が変わったのに気づいてしまった。郁が一瞬暗くなったのを見てしまう。俊彦もまた一瞬顔が強張るのも。すぐに二人とも会話を続けているが俊彦の手が強く握りしめられた事にも二人は気づく。


 郁のことは二人は詳しくはわからない。しかし俊彦のことは良くも悪くも知っている。

 二人は俊彦の性格があまり我慢をせず、言いたいこと、思ったことは結構ストレートに物怖じせず話す性格だと知っている。

 なのにそれを我慢してるとわかるような手。そして俊彦には珍しく悟られないようにして作っている表情。長年の幼馴染である弟のような存在であった二人には、普段と違う俊彦の態度に、どこかの会話の中のワードが、郁にとっては暗くなるような内容があり、俊彦はそれに気づいていて、それを悟られないように堪えているというのを察した。


 そして沈黙から二人の目が合い気まずい雰囲気が漂う。

「えっと……なんだっけ?」

「そ、そうね。あ、道着のサイズ聞かないと」

「あ、そうだね。もーちゃんサイズ聞いて準備願いね」

「わかったわ」

 二人ともなんと言っていいかわからず、アイコンタクトでとにかくその場を濁す事にした。暗黙の了解でこの件に関しては一先ず置いておくことにしたようだ。


「落合君、道着発注したいから身長教えてくれる?」

 道着の準備が必要なのは事実なので百華は話しを郁にふる。

「……161です」

「じゃぁMかな……けど筋肉ついてくるだろうし、Lのほうがいいかしら」

「学校で用意したのはMですけど、お任せします」

「じゃとりあえず両方用意しとくわね」

「ありがとうございます」


 そんなやり取りをしてるところに古賀が口を挟む。

「なんだやっぱり届いてないじゃないか」

「届いてないよ! 言いたくなかったのに! くそ、お前は身長伸びやがって」

「今は175だ。羨ましいか?」

「わけろ!」

「お前料理は出来るから栄養とってそうなのにな。また食わせてくれよ。お前の料理うまいからなぁ」


 そんな会話を聞いた百華と真帆はすぐさま反応する。

「え? 料理できるの? しかも美味しいの?」

「へー料理男子なのね」

「父の影響なだけです。それに父子家庭ですからね。自然と出来るようになっただけです」

「そうなんだよ。こいつの親父さんあの落合一だぜ。一度だけ店に連れて行ってもらった。あれは美味かったなぁ。また食べたい」

 そう言って古賀はお腹をさする。


「え? あの落合さんの息子さんなの!」

「ちょっと俊彦! それどうゆうこと!? 聞いてないわよ!」

「そうだぜ。知らないのは言ってないからな。羨ましいだろう」

 真帆が驚くのはわかるが、珍しく百華も取り乱していた。そんな二人にそうなる事を知っていた俊彦は自慢し、煽る。


「落合君?」

 静かに郁を呼ぶ百華。それはそれは笑顔にした顔をしながら。しかしその笑顔は先程まで何度も見せていた顔ではなかった。

「は、はい……」

 郁は言いようのない気迫を感じ喉をごくりと鳴らす。

「食・べ・さ・せ・て」

「はい?」

「食・べ・さ・せ・て」

 言い寄る百華。するともう一人も。

「かーくん、わ・た・し・も」

 真帆である。真帆も先程までの明るさのある雰囲気は消えていた。

「えっと……父の料理ですか? 俺の……料理……ですか?」

 二人から言いしれぬ圧力をかけられ、一応話しの流れを咀嚼して父のだろうと思いつつも自分のことも出たので恐る恐る聞く。


「「両・方!」」

「はい、今度……招待……します」

 二人の返答に了承してしまう郁。それほどの鬼気迫る様子だった。

「「よろしい」」

「やっぱりこうなったな。実は二人ともパスタとかイタリアン好きなんだよ。だから今までは黙ってたんだが。良かったな。両手に華じゃん」

「そうか……まぁ作るのも食べてもらうのも親父ともども好きだからいいけど」

「そんなことより、俊彦」

「なに?百姉」

「一人だけいい思いして、それを黙ってたのね」

「いや、それは……接点は俺だけだし……」

「そこに座りなさい!」

「そう座りなさい!」


 そう言って古賀は真帆と百華に説教をされていた。三人は誰が見ても仲がいいと言える幼馴染なんだなと思える光景だった。


 そんな三人を黙って眺めている郁がいた。

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