第2話
この学校にはマザーと言われる生徒がいる。それがこのももと呼ばれている女性。面倒みがよく、笑顔が人を和らげる。そんな彼女を一部の生徒からマザーと呼ばれている。
そんな彼女から再度真帆は叱られる。
「いい加減にしなさい! せっかくの後輩を逃したいの!?」
「それは困る……」
「あとで撫でさせてあげるから」
「わかった! 今は我慢する!」
ようやくもも先輩の一括で場は落ち着きを取り戻すが、最後のやりとりの言葉に、何故自分の同意もなく約束を取り交わすのか、今が終われば撫でられるのか、もうツッコム気もなくなり、これも逃れられない予感しかなく、苦虫を噛み潰すした顔をした郁だった。
「ごめんね。騒がしくって」
もも先輩は申し訳なさそうな顔をしながら改めて郁と向き合う。
「いろいろと言いたい事はありますが、助かりました。古賀についてはいつもああなんで慣れてますけど。ただそれが二人となって少し困惑しましたが」
「ふふ……お互い苦労してるわね」
「いや……ですね。えーっと……」
やっと場が落ち着き相手を見る郁。あなたの言った言葉も入ってます、と言いかけたが踏みとどまった。そこで初めてしっかりと先輩を見る。
髪は少し明るめのブラウンで、胸元まで伸びてる髪。胸は大きいようだが、それよりも印象的なのは郁よりも身長が低い事。150あるのだろうかといった低さだ。目線が下がると、自然に胸が視界に入るので目を奪われそうにはなるが、その低さで幼さを、可愛いと感じそうになるのに、誰もが彼女を綺麗と思わせる不思議さがあった。
郁は見下ろすことがあまりない。
だからかじっくりと観察してしまっていた。
しっかり見ると端麗な顔つき、身長の低くさから、どこか自分に似ていると親近感をもったのが先輩への第一印象だった。
そんな印象をもちつつ返答をしようとしたが、もも先輩だというのは会話から察せられるが、自己紹介をしておらず、言葉に詰まる。
それを察した先輩が口を開く
「あ、自己紹介してなかったわね。マネージャーをやってる
最後に優しい微笑みを浮かべ百華は勧誘する。
百華は、やりとりを見るに入部までは決心していないようだと状況を分析し、俊彦もあんな性格なので、あれこれ言いくるめられて渋々連れて来られたのだろう。そしてこの茶番劇は予定通りの行動だろうと察した。
やはり今年の新入部員がいないだけでなく、男子部員が一人もおらず、女子部員4人だけという状況に危機感は当然あったため、今回の話は百華としても逃す事ができない。譲歩をしつつも入部の確率をあげようと思案してなんとか興味だけでもと画策した会話だった。
郁はその笑顔を見て斜め上に目線をきる。流石に綺麗な女性に目の前で首を掲げて、しかも上目遣いでされると、免疫のない郁は照れてしまう。
今までは同じ目線か見上げる女性ばかりだった。そんなことから上目遣いをされる経験が皆無なのだ。今日初めて男性が『上目遣いをする女性に弱い』という、郁にとっては都市伝説で実感が無かった女性の仕草を、真実だったと理解させられてしまう。
「ん? もしかして照れてる?」
百華は自分の容姿を知っている。そして周りからどう見られ、どう思われるか。
そのために目の前の少年の態度は、もはや見慣れた姿。顔の容姿は、たしかに童顔クールショタと言われるだけあって童顔なのは一目瞭然。童顔ショタと言われるのは納得できるが、クールというのは感じられなかった。ただ、照れてる姿は年下らしくて可愛いと感じて、いつも妹にしているように無意識に手がのび、頭を撫でてしまう。
突然頭を撫でられるといった状況に郁は理解ができず、さらに耳は真っ赤になり、じっと百華を目を見開き見つめ、何度目かわからない思考停止をくらっていた。
頭をなでられながら口を半開きにし、百華を見下ろし固まる。
そんな郁にますます可愛いと感じた百華は微笑み、可愛いと呟くと話しかけた。
「そんなに真っ赤になって見つめるということは見惚れてるのかしら? 慣れてそうと思ったけど
所謂、上目遣いからの首コテンの微笑みながらのお願いである。しかも撫でながらである。
郁は黙ってゆっくりと小さく2回頷く。
端麗な顔立ちの年上の女性の一連の行動。下から見られる事に慣れていない郁が、黙って頷いたのは世の男性ならば誰しもが納得する結果だろう。
承諾はしても気が変わる事はある。つい撫でてしまったが、困惑していそうな郁を見て、入部を確固たるものにしようと咄嗟に一芝居をした百華は、自身の特徴を活かした見事な行動。
同意をもぎとったその行動と話術は、真帆と俊彦へのまさにマザーと言わしめる、見事なフォローと言える。
「良かったわ。これからよろしくね。では今日は親睦会ということで一緒にお菓子でも食べて話しましょ」
百華はそれはそれは満面の笑みを浮かべて郁を誘う。
「は……はい」
力なく返事をする郁は、もうこの時に力関係が決まってしまった瞬間だった。
「真帆、俊彦。入部すると決心してくれたわよ。だからもう色々画策せずにこっちへ来て明日以降の話を含めて親睦会しましょ」
それを見ていた俊彦と真帆は、流石は裏の部長とお互い目を合わせて頷きあう。
「さっすがもも姉! マザーと言われるだけある。流石のクールショタもマザーには敵わないか」
「フォローは嬉しいけど! ももずるい! 私も撫でるーー!」
「あら、見てたの? 噂通り可愛い子ね。撫でたくなるのもわかるわ。つい撫でてしまったもの」
撫でれていない真帆に当てつけるように自慢する百華。
「むーー! 落合君、いや、かーくん! 撫でさせろー!」
そう言って郁を撫でようとじりじりと間を詰めよる真帆。
「見てたならわかると思うけど、彼の髪サラサラで撫で心地は良かったわ」
煽る百華。
「むぅ! 私も撫でないと不公平だと思います! なので大人しく頭を寄越しなさい! かーくん!」
せっかく落ち着いていた場がまた混沌としていく。
「いや勘弁してください! 羞恥で死にます! とゆーか撫でてもいいことはありませんよ? それとかーくんてくだけるの早過ぎません?!」
「ある! 早くない!」
「ありません! 早いです! だいたいなんで撫でるのに意地になってるんですか?!」
「撫でたいから! 髪サラサラ! 童顔! 照れる! 可愛い! 正義! 仲良くなったら渾名つけるのは私のデフォ!」
「なんですかそれは! 意味がわかりません! ちょっと古賀も山路先輩も見てないで助けてくださいよー!」
やはり真帆は撫でるのを諦められないのか詰め寄ろうとしてるが、郁に頭を抑えられジタバタと暴れて叫ぶ。
郁は必死で頭を抑えて近づき過ぎないように抑える。
またカオスと化していた。
そんな二人を微笑ましく4人はただ見守っていた。完全に入部を決めたことで、もう誰もが助けるといった概念はもう持ち合わせてはいない。
第1章 女子柔道部員~完~
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