第1章 女子柔道部員

第1話

格技室は1階が柔道場で2階が剣道場となり、そこから格技室と呼ばれている建物。

 それぞれ入り口は別となっており、外にある階段を登れば剣道場、一階の扉を入れば柔道場となっている。

 体育の授業で使うこともあり、郁は構造自体は知っていた。入った先は玄関となっており、すぐ左手に靴箱があり靴や上履きを脱いで上がる。すぐ右手にはトイレと洗面所があり、外の運動部も使えるように外にも繋がっている。そして正面にはドアがあり入った事はないが、そこが小部屋で部室なのだろうと予想していた郁だったが、古賀は靴を脱ぎ声がする道場へと足を踏み入れていった。

 聞こえてくる声が件の先輩たちなのだろう。郁も後に続いて入っていく。


「お邪魔しまーす」

「失礼します」

 古賀に続いて郁も一礼して中に入る。

 あとについて辺りを見渡すと、そこにはマットの上にお菓子をひろげて座っている4人の制服姿の女性が談笑を止めこちらを見ていた。


真帆まほ姉。連れてきたぜ!」

 挨拶もそこそこにフランクに古賀が先輩らしき女性に声をかけると、そのうちの1人が立ち上がり近づいてきた。

「俊くん、待ってたよー! 無事にゲットできてなによりだよ!」

「逃がすわけ無いだろ」

 そう言って古賀は親指を突き立てる。

「だよね。連れてくるって豪語してたし。やったね! ゲットだぜー!」

「ゲットだぜー!」

 そう言って二人して拳を掲げ笑っていた。

 それを見ていた郁は、どうやら仲が良い、それなりの親密がある間柄と察せられながら呆気にとられていた。


「郁、紹介するな。この人は部長で2年の福本ふくもと真帆まほ。で真帆姉、こいつが言ってた落合おちあいかおる

「初めまして。部長の福本真帆です。よろしくね」

 女性らしく笑顔で挨拶され郁も慌てて挨拶を返す。

「落合です。今日はとりあえず見学ということでお邪魔します」


「え? 入部じゃないの?」

 てっきり入部だと思っていた真帆は首をコテンと傾け古賀を見る。

「いや入部だ!」

「いやまずは見学だって言ったろ」

「知らん! 聞いてない!」

「おい、聞い「よし! 入部だね! はい! これ入部届け! 俊君書いて!」てないて」

「OK!」

「え?」

 そう言ってなぜか真帆は用紙を古賀に渡し、その古賀が書き始める。

 まるでこの流れを想定してたかのような一連の流れを、郁はただ呆気にとられ、止めることが出来ずにポカンと口を開けて固まっていた。


 この時の様子を郁は、第一印象こそ肩まである黒髪を靡かせながら笑顔で来る姿は、これが大和撫子かと感嘆したが、人を珍獣やレアポ○モンのように言い合う俊彦とのコントに、話を聞かず先に進めるのを見て、どうやら古賀に近いタイプで、印象とは違う性格に清楚詐欺かよと心の中で見惚れたのを後悔した。と後に語っている。

 その話を聞いた真帆が「大和撫子だよ! 撫子だよね!?」とギャーギャー言って郁に詰め寄ったのは言うまでもない。


「はぁ……降参。負けたよ。入ればいいんだろ。断らさせる気が無いのが良くわかった。その代わり俺は素人だからな。ちゃんとフォローしてくれよ」

 もう入る以外に選択肢は無いのだと。この勧誘から今の一連の流れは予定通りで、まんまと罠にはめられたと理解した郁は、力なく項垂れ入部を告げたのだった。


「わかってるって。俺はいつでもお前の味方だ。だから何でも相談してくれ」

「俊君、良かったね。それにしても落合君て本当に童顔だよね。しかも背が私とあまり変わらな…いし?……ほんと弟に欲しい。ね? 撫でていい?」

 童顔で背が低いと言われコンプレックスを刺激されるが撫でていい? と突然言われ、流石に先輩に反論することも出来ず、かと言って年上に撫でられるというのも気恥ずかしく、さらに弟とかなんの脈絡もない会話に、どう返事をしていいか郁は戸惑う。


 そんな一連のやりとりを見かねたのか一人の部員が近づき止めに入る。

「真帆! いい加減にしなさい! 彼困ってるでしょ! 俊彦もよ! たまに本当の姉弟のように息があうわよね」

「もも姉ごめん。入部させたい一心で。というか将来的に姉弟にはなりそうなのであながち否定できないです」

 なにやら気になるワードがさっきから飛び交っていて質問したい郁だったが、来たばかりの場所に初顔合わせの人で会話に入れず、困惑していたのに、いきなりの撫でるワードのせいでペースを掴めずにいたので場を静観することに決め黙った。


「新入部員が来てくれるのは私達も念願だったから嬉しいのはわかるけど」

 そういってもも姉と呼ばれた人は微笑む。その笑顔を見た郁は、なぜか自分にむけたものではないのは理解していても直視できず俯くぐらい破壊力のある微笑みだ。


「だってもそう思わない? 彼すごい可愛い顔してるし背も高くないとか、愛でないでどうするの?」

 古賀は謝っていたがもう一人の当事者はご不満だ。その内容は郁にとってはとても許容できる内容ではないが。


「否定はしないけど、入部しようか決めてない後輩に、無理矢理感がある入部催促に、あなたちのコントを見せられ、いきなり年上の可愛い先輩に撫でさせて、なんて言い寄られたら恥ずかしくて困惑以外ないわよ」

「え? 恥ずかしいの? 可愛い先輩だから? じゃ愛でてあげるよ?! ね? いいよね!? ね? ね?」

「あ……いや……その」

「流石だな! 童顔クールショタ! 羨ましい!」

 なぜか同意をしつつも、郁の内心をつくもも先輩。どうにかして愛でたいと詰め寄る真帆。そんなやりとりを内心で(同意なのかよ! 撫でるから愛でるになってる!)とツッコミたいのを我慢し、さらに困惑する郁。

 肝心の古賀は思ってもいない事を言っていて役にたたない。まさにこの場はカオスと化していた。

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