第3話

「明日は終業式の演習だからな。遅刻、ズル休みはしないように」

「ズル休みは普段ならいいんですかー?」

「ああいいぞ。内申点さがってもいいならなぁー」

「ひでー!?」

 いつものように担任と盛り上げ役の生徒との掛け合いが起こる。

「冗談だ。ズル休みはするなー。それと服装は制服だ。間違えて私服でくるなよー! カッターシャツだからなー。あと間違えて弁当とか持ってくるなよー。昼までだからなー! 連絡は以上だ」

 郁の担任はユーモアがある先生で生徒から慕われている。


 郁達が通う学校は学ランにブレザーとなっていて、行事以外の服装は自由にしていい校風だったが、なぜか皆しっかり指定の学生ズボンやスカートを着ていた。理由はわからず今まで何年もそんな感じで、夏には指定のカッターシャツが大半だ。上も冬こそ寒さのせいでそれぞれ好みの私服のセーターやパーカーなどを着込んではいるが、必ず学ランやブレザーを羽織っていた。

 郁自信も経験してわかったが、以外に自由は不便で毎日私服を選ぶより、制服のほうが楽だったりする。

 なので大半は楽だからと制服を着ているのだろう。


 染髪も金髪などの派手なものでなければ茶髪でもいいので、染めている者はたくさんいる。なのにピアスなどの装飾は駄目で何故かペアリングは良く、ネックレスは見えなければ良いや、体育時や調理実習など特定の授業だけ外せばいい。なんの違いで決めてるのかさっぱりわからない。なんとも規律や校則があるのか無いのかわからない。

 大学や社会に出るステップアップの場が高校だという校風。

 まさしく『生徒の自主性と倫理に任せる』文字通り自由な学校だった。当然バイトも誰でも出来る。


 郁が選んだ大きな理由は別にあるが、そんな自由さもあって気に入った学校だし、公立ではあるが、まわりの公立高に比べれば学力が高く、私立に若干劣るが進学校ともいえるほど学力が高いというのも決め手だった。

 そんな理由だからかわからないが先生は結構担任のような人が多い。


「郁! 行くぞ!」

 担任の話が終わると同時に勢い良くドアが開き教室に古賀の声が木霊した。

「古賀! うるさい! ドアは静かに開けろ! あと早いわ!」

「いや、落合捕まえないといけなかったので、すみません!」

「ああ、今日か。申請は明日でいいぞ。今日は手が離せん」

「うっす」

 後半の会話は聞き取れなかったが、前半の受け答えを聞いていた郁は、勧誘がよっぽど切羽詰まっていたのを表しているかのような登場から、その後の言動を見ながら普段の古賀らしくない姿を見て、今日で何度めかわからない苦笑をうかべながら席を立つ。


「そんな慌てて来なくても逃げないよ」

「気が変わるかもしれないだろ」

「かもしれないな」

「よし! さぁ行こう。すぐ行こう!」

 何がなんでも逃がすかというように、古賀は郁の肩を組んで押して行く。


「やれやれ……俺が断ってたらどうしてたんだよ」

「そんなのは考えてないよ。何がなんでも入ってもらうつもりだったからな」

「確定かよ。昼にも言ったけどまずは見学だからな」

「わかってる。わかってる!」

「ほんとにわかってるか? 高校に入って大人しくなったと思って安堵してたのに……」

 と今日の一連の古賀の言動に戸惑いつつ、言わずにいられなかったのは仕方ないと言える。それほど入学してからの古賀の周りの認識にしては珍しいというか、キャラ崩壊してるような暑苦しいキャラに戻っていた。

「俺とお前の仲だろ」

「ただの腐れ縁だ」

「またまた。相変わらずの冷めた対応だなぁ。このクールショタめ」

「それをいうな! しかし今日は一段と暑苦しいな! 必死なのはわかった。逃げないからいい加減に肩を離せ! 暑苦しい!」

 昔から絡んでくるが今日は一段と絡んでくる古賀に郁は暴れる。


「逃げるなよ? 逃げても捕まえるからな」

 そう言って肩を離し古賀は話を続ける。

「そりゃ必死にもなるって。調べたら俺と同じくらい運動できそうで帰宅部のやつって、お前しかいなかったからな」

「しかし、なんで柔道なんだ? いくら親や兄がOBだと言ってもやらなくてもいいだろ。お前野球上手かっただろ。4番だったんだし」

 そう古賀は小学校から野球をやっていて野球一筋だ。4番でキャプテンでもあった。その認識が強かった郁は疑問を古賀に投げつけた。


「それはさ、中学や近くに柔道がなかったからだよ。親父は大学で柔道教えてるんだけどさ、俺ら兄弟はそれに小さい頃から憧れてたんだ。だから俺達兄弟は、野球は中学までと決めてたし、兄貴はその大学へ行くし、俺も行く予定だ。ちなみにたぶん弟もそうなる。そのためには柔道部へ今入らないとな。それに俺はもともとスポーツに関しては熱血派だぜ」

「へー、もう進路決めてるんだな。そういえばそうだったな。言われてみれば高校生になってからか……さわやかイケメンとか言われだしたの。なぜか俺に対しては熱苦しいままだが……」

 古賀の話を聞きながら中学時代を思い出していたが、それでも自分に対しては熱苦しいままだったなと思い少し睨む。


「いやぁ、俺をさわやかイケメンとかいうとさ、イメージ違うだろと自分でも思うけど、お前だって童顔クールとかクールショタとか言われだしてんじゃん。まぁお前はあってるかもだがな。けど運動してる時は違うからなんとも言えねーな!」

 そう言って盛大に古賀は笑い出す。


「なんだよその褒めてるようで褒めてない渾名は。創作すんなよ。童顔なのは認めるけど結構きにしてるんだぞ」

「創作なんてしてねーよ。事実だ。やっぱりコンプレックスは治ってないか。実際唯一の欠点が身長の低さだよな。もう165は届いたか?」

「ぐっ……ある……はず」

「てことはないな」

 そう言って盛大に古賀は笑う。


 ほかのやつから笑われたら腹立たしくなるが、古賀は昔からこうやって揶揄う時がある。それに悪意がないのも長年の付き合いでわかってたので、いつものように郁は受け流す。古賀も気にしているのはわかってるがいつものように揶揄うのをやめない。


「まぁいいじゃん、そのおかげで女子にクールショタとか言われて人気なんだから」

「だからなんだよ! その渾名!」

「本当に知らなかったのかよ。本当まじで人の関心薄いよな。てか褒め言葉だぞ? 結構女子の間じゃ話でてるの聞くし。童顔いいじゃないか。年上に可愛がられそうで、羨ましい」

「さわやかイケメンとか間違いなく褒め言葉でモテてるやつに言われてもちっとも嬉しくないよ。本当にモテてたらなんで今彼女いないのか理由を教えてくれ」

「ほんとになぁ。俺もイケメンとか言われてるらしいがなぜ告白されてないのやら……」

 そんないつもの馬鹿なやりとりをしながら柔道部へと足を運ぶ二人だった。


 二人が告白をされてない理由、古賀は社交性があり人気はあったが、この一年勉強を頑張っていたということもあり、学校内でしか交流しておらず誘いにはあまり参加していない。それに加え狙っている女子達のお互いの牽制により引っ張りあいの足踏みをしていたという事。


 一方で郁はというと、童顔クール系といわれ、可愛い見た目とは裏腹に大人びた雰囲気があるために、普段の距離を取る行動のせいで古賀とは違った意味で近寄りがたいと思われ、観賞用としての認識が強くなったためという、二人してモテてもおかしくない容姿なのに裏目に出るという悲しい事実があったりする。


 そんな馬鹿な話をしながら歩いてると、郁の思っていた方向と違っていた。

「どこ向かってるんだ? 部室棟はあっちだろ?」

「格技室だよ」

「え? 格技室?」

「あぁ。柔道部の部室は中に小部屋があってそこが部室なんだよ」


 そんな返答を聞いた郁はすぐに昼に話した事件の事を思い出し、なるべくしてなったのかと思った。

「なるほどねぇ。そりゃ他とは違って孤立してとなると離れ部屋みたいなもんだな。そりゃ頭の悪いのがいたら脅す場所とかにはなるか……」

「らしいな。兄貴から聞いた話だと問題起こした先輩もそう言ってたらしい。もう聞いた兄貴カンカンでさ、数日機嫌悪くて俺も弟も近寄れなかったわ」

「そりゃ大変だったな」

 話を聞いた郁は中学の時に会った古賀の兄を思い出し、確かに体がでかくなって威圧がすごかったなと身震いをしてしまった。


「本当に災難だったよ。柔道やるのに1年棒に降ったし。まぁおかげでお前とこうして同じ部活なのは嬉しいがな」

「いや、先ずは見学だって言っただろ。あとはぐらかしてたが本当の誘った理由は?」

 見学だと言っているの入部が決まったかのように言う古賀に呆れながら、教室ではふざけて本音を言ってないだろうと思い、今なら二人きりだし誘った理由をしっかり聞こうと古賀に問い質した。


「俺はお前と何かを一緒にしたかったんだ。けど中学じゃ野球とバスケで違ったし、同じクラスになったのも1度きりだ。違うってのも意見交換できて良かったが、やっぱり同じものをしたくてな。それに恩を返したくても出来ず、それを返そうと絡みに行ってるのに、このクールショタ様の素っ気なさときたら……」

「だからクールショタとかなんだよ。それに恩? 俺お前になんかしたか? 記憶に全くないぞ」

「お前はそういうやつだよな! だから絡むんだ!」

「はぁ?」

「いいからいいから! こっちの話! 早く行こうぜ! 先輩待ってるし」


 またはぐらかされて納得のいかない様子の郁だったが渋々後をついて行く。

 格技室の扉の前に来ると複数の女性の談笑が微かに耳に入る。

 古賀が扉を開けると楽しそうな笑い声が道場の方から響いていた。





プロローグ ~完~

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