第2話
チャイムがなり昼休みとなった。郁は独り弁当を取り出し食べ始める。
教室での郁は普段あまり自分からは人に絡まない。それは家庭環境と大人との絡みが多かった理由から、どこか同級生よりは大人びた思考をしてしまい、ぎこちなくなるからだ。
だからといって付き合いが悪いというわけでもなく、友人がいないわけでもないのでボッチというわけでもない。
大人との付き合いがあったぶん取り繕うのが長けてしまっており、人付き合いはこなせていた。時には同級生とバカなことをしたり、ふざけあったりもする。
しかしどこか違うと幼い頃から感じ、自分からは仲良くするということはなく、浅く広く付き合う程度しかなかった。
あとは食事は落ち着いて食べたいのもあり独りで食べるのが好きだった。
そんな郁の容姿はとびっきりのイケメンというわけでもない。どちらかというと可愛い部類の童顔だ。童顔のわりに大人びている性格が補正をかけているのか、同年代には年上の雰囲気を醸し出してるように取られ、童顔とのギャップでその印象を強く植え付ける。
そして何より人付き合いが上手い。大人に近い思考というのは顔色を
そうなると気配りができるわけで、話したりすると第一印象はほぼ優しいと思われることもあり、一定の女子には人気がある。
それは年上に憧れるこの年頃の男女では仕方ないことだろう。そんな郁は男女問わず一目置かれていた。
そういった童顔クール系で落ち着いていると思われているが、唯一年相応の満面の笑みをこぼし、少年らしい笑みを魅せる瞬間がある。
そう、それが食べている時である。女子に人気になった原因がこの昼食時にしていた顔が決め手である。この顔を見たクラスメイトの女子達から噂が広まり、その後の食堂で食べていたのを目撃され、噂が確信になり、ショタ好き、クール好きがこのギャップにやられた。とくにある少数にはかなりの支持がある。
そんな経緯から、まわりはその瞬間を見ようと少し離れて囲まれていたりする。
そんな事は何も知らない郁は、いつものごとく昼休みに一人教室で昼食をとり食べ終わろうとしてる頃、誰かが自分を探す声が聞こえてくる。
「なぁ郁、落合郁いる?」
「落合? あそこの窓際の一番後ろにいるぞ」
「サンキュ」
呼ぶ声が聞こえたので顔をあげそちらに向くと。「いたいた! 郁! ちょっと頼みがあるんだ」
「なんだよ、古賀か」
目があったと思ったら走って近づいてきて、開口一番の台詞。
それが頼みがあると尋ねられた郁は
訪ねてきたのは中高と同じで幼馴染とまでは言わないが、中学で同じクラスにもなったことがあるし何度も会話をしているし、料理を振る舞った事もある数少ない友人。浅く広く付き合ってる中でも唯一親しい友人。いわゆる腐れ縁。親しいと言っても何故かよく絡んでくるので自然と話す事が多くなった
「柔道やんない? 今お前部活やってないよな?」
「ああ、入ってないな。それでなんで柔道なんだ? 中学の頃は野球部だったろ。唐突に柔道やろうとか意味がわからん」
郁は古賀が野球をやっているイメージしかなく畑違いの、しかも時期違いの勧誘に驚いて、余計に訝しげに訪ねる。
すると少し顔を近づけ小声で古賀は話しをきりだす。
「いや、実は親父や兄貴もここの柔道部OBでな、俺も入ろうと思ってたんだが……、お前も知ってるだろ? あの事件。そのせいと勉強優先したこともあってさ。で、今あの事件のせいか男子部員いないんだわ。入るにあたり、フリーいないかと探してたらお前がいたなと思ってさ。な、やろうぜ!」
「へー。そうなんだ。ところであの事件てなんだ?」
「知らないのか? あれだよ、1つ上の先輩が俺らが入学したてのころ部活決めようかって時期に、部室でイジメと恐喝してた話。それが問題なって部活休止なっただろ、でそのまま2年は退部」
「あ~……あったなそんな事。バスケしか頭無かったから興味無かったわ。で、そんな事から新入部員の一年もいなくて廃部寸前で誰もいないから俺を誘ったと……」
「そゆこと。流石頭の回転早いな。てことで助けると思って……頼む!」
あまりにも必死にお願いする古賀に郁は戸惑いを見せてたが、とりあえず誘う理由を聞こうとした。
「先輩はいなくて気楽でいいかもだけれど指導無しの高2からとか……遅すぎないか?」
「いや、いないのは男子部員だけだ。女の先輩なら4人ほどいる。女子の指導だ! ハーレムだぞ!」
「アホか? それはハーレムとは言わない。それに俺はそこまで飢えてないよ」
さっきまで真剣な話をしていたが郁はあまりにもバカバカしい口説き文句に呆れ顔をする。
「飢えてないか。たしか彼女いたことあったよな。いたことあったらそうなるか。羨ましい……」
「今はいないよ。それとタラシみたいにいうな! それにお前だってモテる方だろ。古賀にだけは言われたくない」
再度馬鹿な事を言う。だいたいモテるやつに言われたくないとばかりに反論する。
古賀はそれなりの容姿をしており、運動神経もあった事からモテていた。だがどういうわけか彼女がいたことがなかった。郁は自分が彼女ができた事があるというのに不思議だなと、中学時代思ってたことがあった。当然、今もクラスの女子はちらちらとこちらを見ている。(これでなぜ出来ないのか……謎だな)と内心思いながら会話をしている郁もまた、見られているのは自分もセットとは思っておらず、クラスの女子はそんな珍しい組み合わせを眼福していたりするのだが、そんな女子は女子でも腐がつく集団ということ。顔を近づけて萌え苦しんでいたとう事実を二人が知らないのは幸せなのだろう……。
「そういえば別れたんだっけ? 何かやらかしてフラレたか?」
「この話はなかったこと「冗談! すまん! お願いします! 落合さん!」に」
そんなやり取りをしながら郁は考える。中学からバスケをやっており、そのまま高校からも入ったがある事をきっかけに退部していた。体を動かす事は好きだったので、退部してから最近体が鈍っているとも感じていた。それに父親に憧れてやりたいと思うのはとても理解できる。なので悩んでいた。
「な? 頼むよ」
「でもなぁ……」
あまりにも唐突な、突飛な頼みでなかなか答えをだせないでいた。それに柔道というのがやっている自分を想像出来ずにいたが、執拗に頼み続ける友人に断るに断れず、友人の中でも特に親交がある友人の頼みを無下にも出来ず、とりあえず見学ということで折り合いをつけた。
ここに郁のお人好しな性格が出てしまう。そんな性格だと知っていた古賀はある意味策士だろう。
「サンキュ。引き受けてくれると思ってたよ。俺一人ってのは流石にきつかったから助かる。とりあえず先輩たちに紹介するから今日放課後空けといてくれ。とゆーか空けろ」
「強引で調子いいやつだな。しかも早速かよ」
もう逃げられないと悟ったのか、ため息をつきながら言い、諦めた顔をしながら続きを促す。
「仕方ない。じゃ放課後にどこだ?」
「迎えに来るから教室で待っててくれ」
「わかった。じゃ放課後に」
よほど切羽詰まっていたのか、承諾すると笑顔で逃すまいと予定を埋めていく友人に、郁は苦笑いをしながら約束を取り交わし、降参と言わんばかりに肩をすくめていた。
一方そんな二人の会話を見ていたある一部の女子たちは……。
「みて、クール落合君に、さわやか古賀君。仲良いよねー」
「本当だ、久しぶりのツーショット! 何度見ても尊い」
「何を話してるんだろうね?」
「部活入らないかって聞こえた気がするけど。勧誘?」
「あ~肝心のところが聞こえない……」
「キャー! 顔近づいてる!」
「うわぁ! 尊い! イクトシ最高!」
「何言ってんの? キャラ的にトシイクでしょ!」
「いや、一見クールぽいけど童顔だし受けなのもあり……」
そんなやり取りをしている女子達により、二人がなにやら部活を始めるという噂がすぐにクラスに流れ、学校中広まるのに時間はかからなかった。
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