レジェンド

美風慶伍@傭兵少女・旋風のルスト

第1話

 なんだ坊主、そんなところに突っ立って?

 こんな山奥の掘っ立て小屋に何の用だ?

 そうか、ボストンからわざわざな。ご苦労なことだ。

 俺みたいな爺さんがお前なんかにできることなんか無えぜ?

 悪いが麓の村の連中に頼まれて熊撃ちして来たばっかりでよ疲れてるんだ。

 待ちな。ロッキーの山影は日が沈むのが早ぇぇ。じきに夜になる。


 オーケィ、ジョニー、今夜は泊まってけ。山の夜道を行くのは自殺行為だからな。

 まずは飯でも食え。話はそれからだ。

 さぁ、入りな。


 §


 鹿肉は食ったことあるか?

 だよな。スーパーの冷蔵庫にゃ売ってねぇよな。

 ボストンみたいなデカい街じゃ高級食材扱いだが、ここいらじゃ銃の腕さえよければいくらでも食い放題だ。

 獲物を一発で仕留めるってのは、動く的を一撃で捕らえるって意味もあるが、実はもう一つあってな、獲物を無駄に苦しませずに速やかに殺してやるって意味もある。

 牛や豚の屠殺場でも死なせるのには頸動脈を一気にかっさばく。ハンティングでも急所を一撃して安楽に死なせる必要があるんだ。そうじゃないと獲物の体に〝死〟が残っちまって不味くなる。

 たとえどんな敵でも、殺す必要があるときは一撃で仕留めてやるのが礼儀ってもんなのさ。

 で、今をときめくヒーローのテンペストのJB様が俺に何のようだ?

 なに驚いてる?

 山奥に籠もってた髭爺ぃだから、知らないとでも思ってたか?

 これでも情報集めは身に染み付いてるからな、1000キロ先の事もだいたい分かるのさ。

 ジョニー・ブランドン、元はハーバードの大学生で原子物理学を専攻、同時にシューティングマッチ競技の学生チャンピオン。自分で作り上げたハイテク魔銃で魔の者『ミディエンズ』との戦いに身を投じる。そして、ともに戦う仲間と出会ってから戦闘ユニットのテンペストを組織して今に至る――、そんなところだろう?

 私服でも気配でそうじゃねえかと思ったんだ。バレバレだよ。

 お前さんとお仲間の事は聞いてる。ハイテクを駆使ししての戦闘、そして電脳を駆使したチームワーク、それに古のエクソシズムを取り入れた事で魔の者たちを圧倒しているそうじゃないか。

 俺みたいな老いぼれが出る幕はねえ。

 それに、もう体が言う事を聞かねぇ。

 もうやめたんだ。荒っぽい世界で生きるのはな――

 何の真似だ?

 カエルの真似なら外でやれ。ふんずけるぞ。


――ドカッ!――


 男が簡単に頭さげんじゃねぇよ。みっともねぇ。

 おいおい何を意固地になってんだ? そんなにまでプライド捨ててまで卑屈になる理由がどこにある?

 

――チャッ――


 38口径の鉛玉撃ち込まれてぇのか?

 ここいらだったら人間一人、埋めてもバレねえぜ? 


――カキッ――


 ふん――

 本気なんだな。そうとう追い詰められてるってところか。

 言っとくが俺がアドバイスできるのは20年も30年も前の話だ。そんなの聞いてどうする。

 わかったよ。

 顔をあげな、JB。酒でも飲みながら話聞いてやるよ。


 §


 それで、俺に聞きたい事ってのはなんだ?

 ん? 写真がどうした?

 こ、こいつは――

 馬鹿な! 13年前の最後の戦い! 奴らを壊滅させて世界の果ての向こうへ追いやったはずだ!

 アンチクロス――

 おい! JB! どう言うことだ! なんだってこんな写真があるんだ!

 血塗られた逆十字! 人類を根絶やす災厄!

 まさかお前、こいつらとやりあったのか!

 それで?

 壊滅――、だろうな、核兵器撃ち込んだって死なない連中だ。

 アラスカ南部に人間の立ち入りが禁止されてるエリアがあるだろう? あれはアンチクロスの軍勢の拠点に米軍が核弾頭撃ち込んだ跡なんだ。無数の市民を犠牲にしてそれでも奴らは無傷だった。恐ろしくタチが悪い。

 奴らはただのミディエンズじゃねぇ。

 魔を志向する人間と、人間を渇望する魔の者が共に手を結び、人間世界を喰らい尽くすこと、ただそれだけを望んで増殖と飽食を繰り返す悪夢の存在だ。

 加えて奴らが悪質なのは、文明世界の科学技術やハイテクや近代兵器を取り込んでパワーアップさせて魔導科学と呼べる物を駆使するからにほかならない。一体一体の魔の者を屠っても、軍隊を凌駕する圧倒的なパワーで押し返される。3人4人、集まって武器並べてどうにかなる相手じゃない。

 なんてこった――


 あぁ、奴らは確かに壊滅できた。それは本当だ。

 アンチクロスが人間界で存在するにはあるアイテムが必要なんだ。


――魔遺物『見えざるサイレント逆十字アンチクロス』――


 極めて強力な魔力を秘めているが故に、神の摂理からもはみ出していて、物質世界で実像を結ぶことができない。それゆえに〝見えない〟と言われてたんだ。アンチクロスの魔界系統の連中は見えざる逆十字が無いと人間世界に存在できない。逆を言えば、逆十字を破壊できれば奴らとの戦いは勝てるんだ。

 だがそう安々とやらせてくれるわけじゃねえ。

 昔の仲間や、アンチクロスの存在を理解して協力してくれた軍人たち。そして、天界の軍勢――

 数多くの戦友たちが協力しあい、肩を並べてそれでやっと勝利できたんだ。数えきれない犠牲を出してな。

 なのに!

 どっかのバカが見えざる逆十字を再生しやがったんだ!

 糞っ!

 なに? 見えざる逆十字のありかがわかる? どこにある? いや誰が持っている?

 オメガロボティクス? 最近急成長しているロボット兵器企業だな。

 なるほど、そこがミディエンズに関連があると疑って探りを入れた。

 そして、アンチクロスに出会ったのか――

 よしてくれ。もう俺は引退したんだ。最後の戦いで体中にガタが来てる。それに仲間はもう居ねえ。もう、あの4人はどっかに行っちまった。

 俺とお前、二人じゃどうにもできねえよ。

 糞っ、最悪だ。

 俺の仲間か? そうだな、いい連中だったぜ。

 あぁ、いいぜ。


 一人目は〝ネメシス〟

 元はアンチクロスの科学者が造った人工知能だ。だが人間に興味を持ったあいつはアンチクロスの意図を越えて人間と接触する事を望んだ。

 自ら機械の肉体をでっち上げると、よりによって俺についてきやがった。面倒起こしながらもあいつなりに『人間は極めて興味深い調査対象だ』とか言い出しやがった。

 そして、やつはこう言ったのさ『私の調査対象を失うわけにはいかない』ってな。

 自分を改造して戦闘力を身につけると俺と一緒に戦い始めた。ご自慢のハイテクと、アンチクロス時代に身に着けた魔導科学を駆使してな。理屈っぽかったが背中を任せるには最高の仲間だった。

 だが所詮は機械。どんなに改造・強化しても限界は来る。最後の戦いでその〝限界〟を悟ると何も言わずに消えちまった。


 二人目は〝魔人キリカゼ〟

 300年以上生きている正真正銘のミディエンズだ。サムライブレードの達人の東洋人で、戦いと強さを求めるあまり自ら冥府魔道へと落ちたって馬鹿野郎さ。だがやつがミディエンズになったのは奥さんを魔の者に嬲り殺しにされたからだ。かたきを討つことを天魔に誓い、それ以来、世界を巡って戦い続けた。はじめは人間味のかけらも無かったが、隠した本性を知るに至って俺達は仲間になった。

 最後の戦いで奥さんの敵は撃てたが、ヤツ自身も手酷い怪我を負った。右腕は切り落とされ、両目は潰された。ブレードを握れなくなってどっかに消えてったよ。


 三人目が〝大魔女ヴァレンティーナ〟

 1000年を生きた正真正銘の魔女だ。強力な魔導を操りつつも、人間社会の片隅で楽しく生きている。そんな優しい女だった。やっこさん俺に惚れたみたいでな、アンチクロスとの戦いに同行してやるとか言いながら、その実、俺と一緒に居たかっただけだった。だが魔法と魔導に手を出してはいたが邪悪じゃなかった。アンチクロスとの戦いであいつの魔法がたくさんの命を救ったのさ。

 だが最後の戦いでは魔力を使い果たしちまって〝老い〟を抑えきれなくなった。すっかり婆さんになった姿を見られたくないと泣きながらどっかに行っちまったよ。


 あと一人居たが……まぁいい。

 人間様に惚れて堕天して地上に落ちてきちまったバカな天使様のことはな。

 ましてやその女を守るために自分自ら武器をとって戦うってんだ。

 よっぽどの馬鹿だ。そうだろう?


 さて――

 まさか、コイツをまた使うことになるとはな。

 そうだ、これが俺の相棒『聖銃エクスカリバー』だ。見てくれは銀メッキの古臭いコルトリボルバーだが、天界の加護を受けてあらゆる魔を打ち倒すことを許された銃だ。

 JB、お前もガンスキルがメインだったな。

 戦況をイチから立て直す。そのためにはハイテク頼みのお前の戦い方じゃだめだ。

 魔を倒すには、それなりの戦い方ってやつがある。

 機械で上げ底するんじゃなく、お前自身が強くなるのさ。

 どうだ? 俺の弟子にならねえか? お前をイチから鍛え直す。このエクスカリバーを譲れるくらいにな。

 明日の朝、ここを旅立つぞ。

 世界を巡って戦いながら、お前の仲間も鍛え上げてアンチクロスと戦えるようにする。

 どうだ?

 そうか――、やるか――

 ならお前はたった今から俺の弟子だ。老いぼれの古のヒーロー『シルバーライダー』のな。


 §


 よく来てくれたな。〝オラエル〟

 天界の1000人長だったお前は天界に帰ったと思ってたんだが、まさか地上に居続けてたとはな。あの噂は本当だったんだな。

 人間の女に惚れたってのは。

 で、元気か? 奥さんは?

 死んだ?

 すまん。

 そうか、あとで花でも備えさせてくれ。

 あぁ。


 ヴァレンティーナもありがとうよ。

 弟子を育てながらの楽隠居だったのに荒っぽい世界に引き戻しちまった。

 そう言ってくれると嬉しいぜ。


 キリカゼ、お前こそ大丈夫なのか?

 左の片手で鍛え直したって聞いたときは驚いたが――

 っと! おい! あぶねえなオイ!

 ちっ、前より剣さばきすばやくなってやがる。

 逆境に追い込まれてのそこからの反撃、お前らしいぜ。


 それとネメシス、お前も来てくれたんだな。

 まさか機械のお前までが爺さんになっちまうとはな。

 いいか、覚えとけ。そう言うのアンティークって言うんだ。

 人も物も、老いて、古くなってからこそ価値が出ることもあるんだぜ。


 これで全員揃ったな。

 JBとそのお仲間のガキどもも、なんとか背中を預けられるようになった。もう大丈夫だろう。

 

 あぁ、分かってる。分かってるさ。


 ネメシス、お前もホントは限界なんだろう? 長年の改造の無理がたたって立っているのがやっとなはずだ。メンテも修理も手の施しようがなくなってる。それでもお前は人間を守るんだな。


 キリカゼ、お前、死ぬ気だな? どんなに技を磨いたって片腕じゃ出来る事には限度がある。やれるだけの事をやって死に花さかせるんだろう?


 オラエル、惚れた女が死んだ時に天界から帰還命令が出たって聞いたぜ? それを蹴ってまでここに来たんだってな。天使としてじゃなく〝人〟として死ぬんだろう?


 ヴァレンティーナ、今さら言うのは卑怯だが。これで最後だ。言わせてもらうぜ。


――愛してるぜ――


 ガキどものために未来を残そうぜ。

 さぁ、行こう。

 〝伝説〟を作るぜ。

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