唯我独尊への嫌悪
生徒会室を出て、しばらく校内を観察している。すると、BCが言っていた通り、職員室には助けを求めてか、苦情を言うためかはわからないが生徒が殺到していた。
中に居た教師は困惑しながら生徒たちに対応しているが、その中から1人の男性教師が群れをすり抜けるように抜け出し、俺の元に歩いてきた。
「こんな時に校内を散歩するとは余裕だな、椿。まぁ、おまえはこんなことじゃ動じないか」
「岸野先生……」
担任は俺の目の前に立てば、彼の後ろにいる生徒の群れを見て、棒つきキャンディーを口に含みながら聞いてくる。
「あれを見て、おまえはどう思う?」
「正直言って、時間の無駄だと思いますよ。でも、何かにすがりたいとか、八つ当たりしたいっていう気持ちがわからないでもない。……それよりも、先生には重要なことがないですか?」
「……何の話だ?」
言葉で言うよりも、対面してもらった方が早いか。
ポケットからスマホを取り出せば、岸野先生に画面を見せる。すると、レスタが頬を膨らませてプンプンっと言いながら画面の端から出てきた。
レスタを見ると、岸野先生はサングラスの下の目が一瞬見開いた。そして、白衣の胸ポケットからスマホを取り出し、その画面を俺のスマホと交互に見る。
「レスタ、どうして椿のスマホに……」
「気づいてなかったんすか?」
「あ、ああ、妙にレスタが静かだなとは思っていたが……ここ2日間くらい、スマホを使ってなかったからな」
「レスタの気持ちも考えてあげてくださいよ。つか、仲直りした方が良いんじゃないですか?」
「生憎と、そう言う時間もない。レスタは、しばらくおまえが預かっててくれ」
「ま、まぁ、俺は別に良いんですけど……。レスタは、それでも良いのか?」
スマホの画面の中にいるレスタに聞けば、現在進行形で機嫌が悪そうな彼女はプイっと岸野先生から顔を背ける。
『私も椿さんと一緒が良いです!!お兄ちゃんよりも100倍優しいですから!!』
「そ、それはどうも……」
苦笑いしながら言うが、内心ではこの状況に感謝している。
レスタは電脳関係ではとても役に立ってくれているから、言葉では遠慮しつつも、手元に置いておきたいとは思っていた。
それにしても、外も校舎の中も騒がしく、耳を休めることもできない。
窓の外を見れば、生徒が門から出ようとしているのを眺める。
壁を登ろうにも、そうする前に警備員に止められている。
そんな光景を見て、岸野先生はストレスが溜まっているのか口の中でボリボリとアメを噛み砕き始めた。
「このゲーム、一体何時終わるんだろうなぁ」
「ゲームの期間は聞かされてないんですか?」
「今回に関しては謎が多すぎるし、教師の俺らにも詳細は知らされていない。桜田生徒会長を見る限りだと、彼女がこんなゲームを考えたとは思えない。本当にどうなってんだ。……って、おい、あれ……」
岸野先生が正門の前で異質を放っている円形の空洞を見ると、そこでドレッドヘアで
「近くで見てきましょうか?」
「頼めるか?」
「はい、行ってきます」
岸野先生に「よろー」と軽く手を振られて見送られながら正門の前に向かえば、廊下の曲がり角で急いでいたのもあり、不注意で誰かとぶつかってしまった。
あれ?何、このデジャビュ。
俺は踏ん張ったが、相手は後ろに倒れてしまっていた。
「あ、悪い!急いでいて前を見ていなかった」
「あー、大丈夫大丈夫、気にしないで。俺もスマホ見てたから前方不注意だったから。お互い様だよ」
ニコッと笑い、薄い黄緑色の髪で、前髪をコンコルドで挟んでいる色白の男は立ち上がって俺を見る。
「君は……噂の椿円華くんか。光栄だな、君と接点が持てるイベントに
「い、イベント……?」
「あー、いやいや、こっちの話。気にすんな。急いでるようだけど、行かなくても良いの?」
言われた思い出すと、「あっ、そうだった、悪い!」と言って、すぐにまた走る。
……そう言えば、名前聞いてなかったな。まぁ、もう関わることもないだろうから、別にいいか。
すぐに正門の前に着いて、人の群れの中に入れば、調度良いことに真央の後ろに出た。
少し、話を
「
「ふむ、しかし、私は嘘がつけない人間でね。高貴な私は、低俗な君たち庶民のように虚言を吐く必要はないからねぇ」
「それは、
「君では私には勝てないよ。低俗で無価値な諸君らと違い、私は選ばれし人間。傷1つ付けることはできないと保証しよう」
「絶対に
「では、ミスター石上、事実を述べているだけの私は罪なのだろうか?今、現実逃避のように低俗な庶民の諸君は学園に苦情を述べている。しかし、そんな行為は無駄。そう言っただけだと言うのに」
「言い方に問題があるでしょう。僕もあなたの意見には賛成ですが、人格的にあなたを許すわけにはいきません」
「ハハハッ、これは
ダメだ。完全に話が平行線だな。
話を一部聞く限り、幸崎といういかにもナルシストっぽい奴がいきすぎた言動をしてしまい、それを真央が
真央が口にする言葉が固すぎるのもあるが、幸崎って男の方も全く話を聞こうとしていない。
周りも2人を見て重い空気が流れているのを察しているが、幸崎に対する怒りが
俺は面倒事には巻き込まれないようにその場を去ろうとした。
しかし、突然後ろから誰かに背中を押され、「おわっと!?」と声を出しながら真央の横に立ってしまった。
すると、全員の視線が俺に集中する。
「椿さん?」
「あ、あはは、悪い。場違いだった。でも、真央、もうちょっと肩の力を抜いた方が良くないか?こういう
「しかし、この人の言動は見過ごせません!!周りの人を無価値な庶民と言ったり、無能と言ったり……」
「ハハハッ、無能な者に無能と言って何が悪いのかね?現に、無能が故に今の状況から逃げようとしている。立ち向かおうとしない。そう、ここにいる者は全員、取るにたらないクズなのだよ」
あぁ、そう言う系の人ね。ある意味で生き方が
「はぁ……えーっと、幸崎だっけ?おまえもさぁ、少しは言い方を考えた方が良いぜ?考え方は途中まで合ってるんだ。けど、残念なことに不快感しか与えてないし、おまえの言わんとしてることが伝わっていないだろ」
「ふむ、君はミスター石上とは違って少しは話がわかるようだね、ミスター椿。しかし、周りがどう思おうと私には無関係なのだよ。庶民の気持ちなど、選ばれし者には考える余地はないからねぇ」
何だろう、真央がイライラしている理由がわかってきた。
面と向かって幸崎と話すと、ストレスと疲れが増して仕方がない。
さぁって、どうするかな。
「あーっと、最初に言っておくけど、俺はおまえらの討論にもなってない話し合いに参加する気は毛頭ないからな?あくまで、公平な立場でおまえらの話を整理させてもらう」
「僕はそれで構いません」
「ふむ、私は別に君の存在は必要ないのだが、ミスター石上がそれで良いと言うのであれば異論はないよ」
俺の出した答えは、絶対中立でどちらにも
とりあえず、妥協点を見つけないことには平行線のまま話は終わらない。
「ミスター椿、そう言えば私と君は初対面だ。私だけ君のことをしり、君が私のことを知らないのはフェアではない。自己紹介させてもらおう、光栄に思うが良い!私の名は幸崎う―――」
「いや、興味ないんで別に良いです。これ以降にあんたと関わる気は一切ないんで」
俺が半目で言った瞬間、あんなにうるさかった周囲が一瞬、静かになった。
・・・あれ?何だろう。俺、もしかして、
真央は俺に顔を
「あははははっ!!今だかつて、この幸崎ウィルヘルムに名乗らせなかった者は君で初めてだよ、ミスター椿。うむ、実に面白い」
おい、今地味に名乗ったじゃん。
俺が興味なくても、勝手に名乗ったじゃん。
心の中のツッコミは伝わらず、幸崎は笑いながら俺たちから離れていく。
「こんなに笑ったのは久しぶりだ。椿円華、その名前を覚えておこう。光栄に思うがいい!!」
「いや、そんなのは良いからさっさと行くなら行ってくれ。あと……俺からいう言葉をセリフとして、幸崎ウィルヘルム本人ではなく、ある物語の主人公のように復唱しろ。まぁ、選ばれた貴族様であらせられるあんたなら、完璧な演技ができるだろうなぁ」
「セリフ……?ふむ、どんな演技でもしてみせようではないか!!」
「『みなさん、どうもすいませんでした』って、言ってみ?」
「みなさん!どうも!すいませんでした!!……それで、どうして私はこんな演技をしなければならないのだ?」
幸崎の問いは軽く無視し、真央を見て肩に軽く手をポンっと置く。
「まぁ、真央もさ。こうやって、幸崎なりのスタイルで謝ってるんだ。今回は大目に見てやれよ。つか、俺が個人的にもうここに居たくない。整理役するのも面倒になった」
「そ、そうですね。……はぁ、僕も疲れてきましたから、もう終わりましょうか。……ほら、皆さんももう、自分の寮に戻ってください、いくら壁を叩いた所で、学園の外には出られません。生徒会でこのゲームを止める方法は模索しています。ですので、皆さんは我々を信じて見守るようにお願います」
真央が言えば、渋々群れは引いていき、門の前には俺と彼だけになる。
「ありがとうございました、椿さん。あなたが居てくれなければ、この場は収まらなかったですよ」
「買い被りすぎだ。俺はあの疲れるナルシストを追い払っただけだからな」
「それが大きいんですけどね。しかし、よく幸崎さんは椿さんの言うことを聞きましたね?」
「ナルシは持ち上げてから頼めば、
「そ、そうなんですか。勉強になりますよ」
何でかはわからないが、真央に苦笑いされてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます