20 取引

「はい。解除しました。これで、とりあえずガラス固化体の部分だけはハッキングされません。これで本当にいいんですか?」


『いいのいいの。兵器化の部分はそのままハッキングして全世界に公表してちょうだい』


「この国、世界的にバッシング受けますけど」


『ガラス固化体を兵器化しようとする国は、バッシング受けるぐらいがちょうどいいわ。電磁障害とニューロン蘇生さえ隠せれば、わたしはそれでいい』


「大臣は、正義の味方なんですね」


『そうありたいと思ってるわ。それより。あなた、見処があるわね。こちら側に来ない?』


「こちら側?」


『正義の味方側よ』


「僕は、街を護るしがないハッカーですよ」


『それでいいわ。もし今回のような国家レベルの案件が来たときに、協力しましょう、という話よ』


「お断りしたら、消されますかね僕?」


『記憶を消されるわ。今回のニューロン蘇生のことも含めて』


「そうか。ニューロン蘇生で生き返った人間としては、このガラス固化体の処理は見届けたいなあ。わかりました。取引しましょう」


『取引?』


「僕と、僕の恋人の命を保障してください」


『ばかね。命なんて奪わないわよ。さっき蘇生させたばかりなのに』


 どうやら、信頼に足る人間らしい。


「わかりました。僕も、あやうく今回は全世界にガラス固化体のことを公表してしまうところでしたから。おたがいさまということで」


『よし。いいわね。じゃあ、あなたの記憶は奪わないわ』


 電話を、渡した。

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