19 街のしがないハッカー、再び

 目が、覚めた。


「あれ。これ、どうなってるんだろう」


 たしか、コンビニでお酒とごはん買って。そう。耐えられなくて、お酒一缶呑んだら死んだんだっけか。


 死んだ。


 あれ。


 死んだら目覚めないだろう、普通。


「何で目覚めたんだ、僕。あれ、身体動かない」


「死後硬直だろうな」


「よかったよかった。大臣。蘇生完了です」


「あなたがたは?」


「殺し屋がふたりさ。お前にやってもらいたいことがある」


「あ、そっか」


 僕が一回死んだということは、官邸のガラス固化体兵器化に対する情報ハックが起動してるのか。


「官邸へのハッキングを解除しろ」


「わかりました。その前に。あの。身体が動かないんですけど」


「死後硬直だからな。しばらくは動かないだろう」


「じゃあ、ええと、そこらへんに、女性がいませんか。僕の恋人」


「いるな。いま、足と声を奪っている」


「足と声?」


「動けず、喋れない。解除するのは、お前がハッキングを解除してからだ」


「そうですか。ええと、その電話。大臣に繋がってるんですか?」


「ええ、まあ」


「代わってください」


 耳に、電話があてられる。


「どうも。街のしがないハッカーです」


『ちょっと。官邸へのハッキング。止めてちょうだい』


「止め方は簡単です。攻撃をやめればいい」


『は?』


「相手の攻撃を逆利用して探索範囲を広げるシステムなので、何もしなければ、なにもしません」


『そんなこと、できるわけないじゃないの』


「いやあ、そう言われても。僕いま身体動かなくて、何もできないんですよ」


『じゃあ、ひとつ、聞かせて』


「はい」


『なぜ、ガラス固化体を奪ったの?』


「危険だと、思ったからです。電磁障害EMPを起こせる弾頭なんか配備されたら、国家間のパワーバランスが大きく崩れる」


『その通り。でもね、違うのよ。わたしが殺し屋を雇ってガラス固化体を回収させたのは、兵器化以上の価値がそれにあるからなの』


「兵器化以上の価値?」


『あなたはもう、それを体験したはずよ』


 全身が、ざわついてくる。


 身体。冷や汗が出て、震えが。


「もしかして、このガラス固化体」


『ええ。電気を大量に流すと、人のニューロンに非常に近い電気信号を出すわ。それも、死後三時間ぐらい経った人間を簡単に蘇生させてしまう量のニューロンを』


「だめだ。こんなものが世に出回ったら」


『そう。兵器によるパワーバランス以上に、人間の倫理的なバランスが崩れる。なにせ、生き返れる魔法の物質だから。血で血を洗う争奪戦になるわ』


「なんとしても、それはくいとめなければならない。僕はなんてことを」


『いいのいいの。だからおねがい。ハッキングをやめて。一部だけでいいから』


「わかりました。恐怖で全身が動きました。すぐにハッキングを解除します」

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