Case.42 落とされた場合
「おい待て‼︎」
「めっちゃ追いかけて来るんですけど⁉︎」
ナンパ男たちは他の目を気にすることなく、追いかけてくる。怖っ‼︎ めっちゃ怖っ‼︎
「いだ! すいません!」
後ろに夢中になり過ぎて、誰かとぶつかってしまった。とても柔らかい感触だったので俺に怪我はなく──
「って、火炎寺‼︎」
「後はアタシに任せな」
え、やだ……カッコいい……。
「って、暴力はダメだぞ! 一応ここは公共しせ──」
「「「す、すいませんでしたぁぁ‼︎」」」
「えぇぇぇぇ⁉︎」
どうやらナンパ男たちは以前、火炎寺にシメられたことがあるらしい。
公園でとある中学生たちを助けた時らしいが……あぁ、やっぱり女番長やってるんだなとは思った。
華麗なる土下座が注目を呼び、人目を浴びながらナンパ男たちはヘコヘコして帰って行った。
入れ替わりに、日向たちがやって来る。
「ゆとり! 大丈夫だった⁉︎」
金城が急ぎ、土神の元へと駆け寄って抱きついた。
「あ、あぁ……。大丈夫だ。心配かけたね」
「うん……よかったぁ……無事で。って、それ……」
「ん?」
金城が指摘したのは俺と繋がれた手。
「うがぁぁぁああ‼︎」
ですよねぇ⁉︎
ハンマー投げの如く投げられた俺が一番注目を浴びることになった。
「おーい、七海くんー。大丈夫〜?」
日向が心配──はしてないな。
「鼻の下伸ばしっぱなしだから、天罰が下ったんだよ」
「はぁ?」
日向は意味わかんないことを言った。まぁ、いつものことか。
差し出された日向の手を掴み、立ち上がる。
「じゃあ、そっちのデートはこれで終わりだよね!」
「あぁ、そうだな。これで終わりでいいだろう。今日は男に触れ過ぎて蕁麻疹が出てきた」
俺はアレルギーかなんかなの?
「明日はそちらの番だ。まぁ、精々頑張りたまえ」
「ふん!」
日向はそっぽを向いた。
なんか知らんが、こいつ不機嫌だな。
「──それと、七海周一。先はすまなかったな……あと、感謝する……」
「え、あぁ……」
貸していた上着を脱ぎ、そのまま突き出して渡される。これに対しての感謝も含まれてんのかな。
「ゆとり……?」
「し、士導さま……。すみません、遅くなりました……」
心木、それと氷水、初月が遅れてやって来る。
氷水は警備員を呼んできてくれたようだが、とうにトラブルは解決したので、謝罪を述べて帰ってもらった。
心木と初月が遅れたのは、単純に運動能力と体力の問題。
「ふむ、みんな揃ったようだね。それではさらばだ! 失恋更生委員会の諸君! 明日はぜひ楽しみに見させてもらうとしよう」
土神の号令で、PUREのみんなは去って行った。
なんか捨て台詞みたいだったな。
「七海、今日のデートはどうだったの? 感想聞かせてもらってもいいかしら」
こいつ、本当に審判として優秀で真面目だな。
「ああ、まぁ楽しかったよ。体のあちこちは痛いけど」
「ふーん、あっそう」
「……日向はなんで不機嫌なんだよ」
「別に不機嫌じゃないし! じゃあワタシも明日の準備があるからもう帰るね! バイバーイ!」
ほぼ投げやりな挨拶で帰った日向。
「きょ、今日一日ひなたちゃんちょっと体調よくなかったみたいで……! わたしたちも帰りましょう!」
初月がそうフォローを入れて、俺たちも帰ることにする。
結局、日向のあの態度がよく分からず、俺は氷水と目を合わせて首を傾げた。
明日のデートは大丈夫なのだろうか。
◇ ◇ ◇
「はぁ……自分が作った中で最高傑作だったのに……。ま、まぁ、精度は良かったことがわかったし、強度と防水の課題点も見つかったからラッキーラッキー……! はぁ……」
帰り道の電車内。心木は手のひらの上のバグチャーの残骸を見て、溜息をついた。
「じゃあ、あたしたちはここで」
「気をつけて帰るんだぞ」
「は、はい。その士導様も体調にはお気をつけて」
「あぁ」
「おつかれさまです……」
最寄駅に着いた金城と土神は降り、そのまま乗っていく心木に金城は手を振った。
「じゃああたしたちも行こっか…………ゆとり?」
土神の顔は真っ赤であった。
「あはは、今日一日大変だったよね。トラブルに遭ったし、苦手な男と一緒にいてストレス溜まったでしょ。それに、イルカショーで水被ってたの見てたよ〜。しっかり今日は休まないと風邪引いちゃうね。家まで送るよ」
「す、すまないな……迷惑をかける」
「いいよいいよー。家隣なんだし」
……別に熱があるわけではないことは、金城には分かっていた。ただ、赤面した理由を別のせいだと捉えていてほしかった。
けれど、土神自身、とっくに気付いている。
──ボクが落とすどころか、落とされてどうする……。
◇ ◇ ◇
次の日。日曜日、いよいよ今日で決することになる。
どちらがより恋愛について詳しいのか。その馬鹿げた戦いが。
今日もまた朝早くから、日向から指定された場所と時間に来ていた。
あいつはまだいない。遅刻だ。
結構遠いから……てか、なんで現地集合なんだ。別にいいけど。
昨日、日向は不機嫌だったけど、今日は大丈夫だろうな。不安だ。
にしても、ここに来るのはいつぶりだ? 最後に来たのは……えぇっと……。
「待たせたね!」
「おせぇよ。二十分待ったぞ」
「もー! 女の子は準備が多いんだよ! 分かってないな〜!」
日向はTシャツにオーバーオールと、なんとも子供らしい格好であった。マ○オかよ。
いや、この場では相応しいのか。最近できたもんな。そのエリア。
ここは、ユニバーサルシネマジャパン。通称、UCJ。
俺たち関西人はユニバと呼んでいる。
映画をモチーフとしたテーマパークで、最近は節操なしにコラボ、ハロウィン、コラボと取り組んでいる。
まぁ、それが面白くて平日だろうと人が多い、大人気のスポットだ。
昔より値上がりしているし、年パスがない限りなかなか高校生では気軽に通えるような財力はないのだが、親に「日向とユニバに行く」ってだけ伝えたら、速攻お金を出してもらった。
すんごい親指立ててたが……まぁありがたく受け取っておく。
「じゃあ七海くん! 張り切ってデートしよー!」
あまりこういうテーマパークは初デートには向いてないとは聞くが……。
けれど、日向はうるさいし、待ち時間は退屈せずには済みそうだ。
「んで、お前今日は不機嫌じゃないよな?」
「ん? なんの話~?」
何で忘れてんだよ。寝たら忘れるのかよ。
「寝て起きたらワタシはもう昨日とは別人だからね! そ・れ・に! 今日のユニバ楽しみにしてたから、上機嫌だよ~」
本当に睡眠のお陰だったよ。偉大だな睡眠ってのは。
みんなもしっかり寝ような。
「はやくはやく!」
日向の方から俺の手を握り、入場ゲートへと歩いていく。
きっと、今日もどこかから見てるであろう氷水たちにアピールするつもりだ。
日向はこういう手繋ぎとか気にもしてないんだろうな。手汗がぐっしょりだし。
……いや、俺こう見えても乾燥肌だ。
「で、デート、た、楽しもうねぇ〜……!」
こいつ……もしかして緊張してる⁉︎
横顔で見る日向の頬は、チークを塗ったようにピンク色に染まっていた。いや、よく見たら化粧はしている。
日向も、化粧するし、手を繋いだら緊張するんだな……と思ったら俺も緊張してきた……。
俺たち二人は、さながら初々しいカップルとしてユニバの入場ゲートを潜っていった。
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