第47話
ヴィオラがアルベルトに連れられてホールに戻ると、一段と煌びやかな集団が目に付いた。なにしろ、その人たちが輝いているのだからものすごい光景だ。
おそらく、彼女たちの頭に付けられた宝石やらなんやらの飾りが、不夜城の如く設置された灯りを反射しまくっているのだ。レフ板効果とかそういう知識は確かにあるけれど、頭のてっぺんから輝いているのだから、漫画で見るように『眩しいっ』と思わず言ってしまえるほどなのだろう。
気になるのは、その集団が誰を取り囲んでいるのかと言うことだ。
「第二王子殿下は婚約者がいないからね」
答えをサラッとアルベルトが口にした。
ハッキリ言えば、アルベルトはこの状況がありがたかった。第二王子殿下であるツェリオは、アルベルトと同志なのだから。一目惚れした直後に失恋した。しかもひっそりと。
王族の席に座っていたけれど、ホールで踊るヴィオラをしっかりと見ていたことだろう。けれど、今日がデビューのヴィオラに、いきなりダンスの申し込みは出来ない。そんなことをしてしまえば、ヴィオラがこの先社交界で令嬢方から爪弾きにされてしまうことだろう。
それに、ヴィオラを誘おうとフロアに降りれば、このように令嬢方から囲まれてしまうと言うものだ。
ホールに戻ってたヴィオラの姿は、おそらくツェリオには見えてはいないだろう。だが、有能な護衛が耳打ちはしたはずだ。だからといって、ツェリオは令嬢方を押しのけてヴィオラの所に来ることは出来ない。令嬢方はそれなりに身分ある家柄と繋がっているからだ。だからこそ、迂闊に手を取るなんて出来ないのだ。
それなのに、ツェリオは護衛を従え令嬢方の輪の中からゆっくりとでできて、ホールを歩き始めた。令嬢方だって分かっている。第二王子殿下であるツェリオの行く手を阻むことなんてできない。
ゆっくりと歩くツェリオの後ろを、令嬢方が目線だけで追う。下手を打てないから、牽制しあった結果なのだ。
そうして、ヴィオラはとてもよく出来た映画のワンシーンのような、完璧な合成のゲームのムービーのような、なんとも現実離れしたその光景を眺めていた。そう、自分がその中にこれから登場するなんて思いもしないままに。
「ようこそバルデラに」
ツェリオはそう言ってヴィオラに、右手を差し出してきた。
「…っ」
咄嗟に後ろに下がりそうになってしまったが、ヴィオラには王太子の婚約者として培ってきたものがある。直ぐに笑顔の仮面を貼り付け令嬢としての礼をした。そうしてツェリオの右手に自分の右手を差し出しすと、まっすぐにツェリオと視線を合わせた。
「一曲お願いできますか?」
「喜んで」
二人の挨拶に合わせて楽曲が変わった。既にホールにいた人々は、楽団の方に目線を向けたが、直ぐに広い空間が空いていることに気がついた。そうして、この楽曲がこの二人のために奏でられたことを理解した。
二人の邪魔にならないよう、他の人々は距離を取り続けるもしくはそれと分からないようにホールから壁際へと消えていった。
「素敵な曲ですわね」
「気に入って頂けたかな?」
「ステップが、少し難しいですわ」
ヴィオラは何気に明確な答えを避けた。知っている、この曲はアルフレッドの誕生会で、ツェリオと踊った曲だ。
しかし、ここにいるのはヴィオラ・セレネルである。この曲に思い出なんて持ち合わせてはいないのだ。
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