第46話
ゆっくりと頭を上げながら、自分はどんな表情をしているのか不安になった。
けれど、王宮でのパーティーでありなおかつホール中央付近にいるから、迂闊な表情など浮かべることは出来ないのだ。その手の処世術は嫌という程教えこまれてきたヴィオラである。
即座に笑顔の仮面を貼り付けることなど簡単だ。そうして向き合ったとき、目の前のトーマスは満足そうな顔でヴィオラを見ていた。
それはヴィオラもおなじことで、それでなくてはとおもうのだ。
さて、次のパートナーはとおもう間もなく、腕と腰に手が回ってきた。
「少し休もうか、ヴィオラ」
「お義兄様」
保護者登場により、誰もヴィオラを誘うことができなくなった。ヴィオラの手を引きながら、アルベルトはトーマスに軽く牽制するような視線を送った。
「大丈夫です。お義兄様」
ヴィオラがそう小声で言うと、アルベルトは意外そうな顔をした。
「伯爵家のお嬢さんと結婚するから、私と恋愛ごっこをする暇はないそうですよ」
それを聞いて、アルベルトは考えるような顔をした。
そうしながらも、すれ違いざまに給仕からシャンパンを二つ受け取るとそのままテラスへと出ていく。ヴィオラも素直について行った。
「驚いたよ」
シャンパンを一口飲んで、アルベルトはいった。そうして言葉を繋げる。
「スタンリード伯爵家が養子をとったというのは聞いてはいたんだ。一人娘がお年頃だからね」
「そうなんですね」
「婿取りだと思っていたのに、まさかの養子だとはね」
「お嬢さんと結婚すると言ってましたけど?」
なのに入婿ではなく養子とは?
「君と同じだよ、ヴィオラ」
言われてようやく理解した。そうだった。あの件で大勢が被害にあったと言っていたでは無いか。トーマスも公爵家を排斥されたのだ。将来有望と自分で言ってしまえるほどの逸材だったのに。
「つまり婚姻はまだ先?」
「大きな声では言えないけれど、伯爵家としては将来有望な跡取りを据えられたから安泰ってことだね。ただ」
アルベルトはスっと背後に目線を向け、一呼吸置いてから再び口を開いた。
「ご令嬢は出されるだろうね」
「え?」
「スタンリード伯爵家は中央政治に強く関わっているいから、、隣国の宰相の血縁を使って両国に影響力のあるところを見せつけたいだろう。そのためになら、実の娘はコマとして使うだろうね」
「そ、う」
「それに…」
淡々と話されすぎてヴィオラがショックを受けているうちに、アルベルトはまた次のことを言ってきた。
「トーマス君の実家は王族に牽制したいんだろう」
「え?」
「トーマス君の実家ヴィクトリオ公爵領はこの国との国境とはほぼ反対に位置している。両国間は平和協定を結んでいるから友好国となっているけれど、政治的経済的に友好な約束を結んだわけじゃないからね」
そう言うアルベルトの顔は、悪役っぽい笑みを浮かべていた。
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