コレって新ルート開けました?
第28話
カーテンを開けると、眼下に美しい街並みが広がっていた。そして、その先に見えるコバルトブルーの海。
まるで地中海のリゾート地にいる気分になる。
(前世じゃ考えられない高待遇だわ)
ヴィオラはとてつもない高揚感に満足した。
前世の記憶を取り戻したのが断罪中だったので、何たる不運と泣きそうななったけれど、なんだかんだと不安なままたどり着いてみれば、外国で令嬢としての第二の人生が待っていた。
しかも、好きにしていい。
自由恋愛が許されている。
王太子の婚約者として窮屈な生活、厳しい躾。全ての国民の手本となるような所作。
そんなことはもうしなくていいのだ。
お気楽に生きていけるなんて、なんて素晴らしい。
朝の爽やかな空気を胸いっぱいに吸い込んでいると、背後の扉が叩かれた。
「はい?」
返事をすると、メイドが二人入ってきた。
昨夜軽く挨拶をしたけれど、よく覚えていない。ここでのヴィオラ専属のメイドらしいことは分かっている。
「おはようございます、ヴィオラ様」
二人揃って見事なまでにシンクロした挨拶をされると、なんだか背中がムズムズする。
記憶にある限り、実家でも自分の専属メイドはいたが朝から二人揃ってなんてことは無かった。交代で一人づつだったはずだ。
「まずは着替えをしましょう」
言われて案内されたのは、続きにある衣装部屋だった。
「うそ」
中に入って何よりも驚いたのは、その衣装部屋に揃えられたドレスが、どれもこれも実家にあったドレスだったからだ。装飾品も全て揃っていた。
「朝ですからこちらの明るめのお色になさいますか?」
色ごとに分けられたドレスから、グリーン系のドレスの辺りから一着取り出された。
ミントグリーンにストライプが入っていて、たしかに爽やかだ。
(チョコミントアイス)
たぶん、着れば可愛らしいドレスなのだろう、だがしかし、前世の記憶が邪魔をして、ヴィオラにはどうしてもソレにしか見えなかった。本当に、見れば見るほどである。
「そう、ね。そうしましょうか」
選んでもらって断るのも宜しくない気がして、受け入れることにした。ここで断ったら性格悪いと思われそうだ。
ドレスに着替えると、次は化粧だ。
家族しか居ない前提だけれど、アルベルトは義理の兄ということになっている。血の繋がりがなければ結婚の対象にもなるということで……
異性の前に出るのだから、薄くても化粧をするのが礼儀となる。
「こ、これも?」
またもや驚かされたのは、鏡台に揃えられていたのがこれまた実家で使っていた化粧品だったということだ。
(私がのんびり移動している間に随分頑張ってくれたんだ)
馬車を使ってのゆっくりとした移動の理由がこーゆー事だったと知ると、改めて父親の執念を感じる。
なんの落ち度もない娘を傷物にされた怒りは、相当だったのだろう。そして、ヴィオラの全てをこちらに移動させなくてはならなかった気持ちは如何程なのか?
(既に嫁に出した感よねぇ)
前世のふわっとした記憶から、そんな気分になる。結婚式の前に、たくさんの自分の荷物をバンバン車に詰めて……
そんな記憶はいつのものなのだろう?さて、自分は前世でどのように死んだのやら?覚えているのはこのゲームをプレイしていたこと。多分死ぬ少し前まで。
(でも、実際は何歳でどうして死んだかわかんないや)
少なくとも、前世で嫁に行って幸せに暮らしてはいたはずで、だいぶ長生きはしたんじゃないだろうか?記憶にある限り、こんな素敵な景色のある海外に旅行した覚えはない。
(おばあちゃんになってからのゲームデビューとか?)
このゲームがスマホアプリだったのだから、家族にバレずにこっそり遊んでいた可能性もあるわけだ。
だとすると、スマホに慣れるためーとかそんなんで遊んでいた可能性もある。
「ありがとう」
どんなに考え事をしていても、優秀なメイドがテキパキと身支度を整えてくれる。黙って鏡を見ている風にしか見えなかったこらだろうか?髪の毛もいつの間にかに綺麗に整えられ、軽く編み込まれていた。
爽やかなミントグリーンのドレスに合うように、髪型も可愛らしくサイドを編み込みリゾート感を出していた。
「っかわいいわ」
自画自賛。
鏡に写る自分の姿のなんと可愛いことか!
悪役令嬢としてのスチル絵しか見たことがなかったのだが、初めてみた髪型。これはいわゆるイメチェンと言うやつか?
いやいや、冷静に考えればそうでは無い。
実際は毎日違う髪型をしていたのではないだろうか?ただゲーム内では統一された髪型とドレスでスチル絵が書かれていただけなのだろう。
要するに、使い回しだと思う。令嬢だけど悪役令嬢だし。脇役だし。
食堂に着くと、すでにアルベルトが座っていた。家長より遅くなってしまい恥ずかしい限りだ。
「遅くなりまして申し訳ございません。お義兄様」
「まってないよ、ヴィオラ」
爽やかな笑顔を向けられると、なんだか照れくさい。こんな笑顔をかつて婚約者だったアルフレッドにされた記憶なんてない。
「おはようございます」
座って朝の挨拶をすると、わやかに返してくれた。
これが父なら、実家にいた頃は頬にキスぐらしていたものだが、さすがに義理の兄にはダメだろう。
「あれ?それだけ?」
少し拗ねたような言い方をされれば、それが催促だと理解はできたが、椅子に座ったあとだ。わざわざ立ち上がってする必要があるとは思えない。
ヴィオラが困惑していると、随分と大きめな咳払いが聞こえた。
壁際に立つ執事からなのがわかると、アルベルトは姿勢を正して座り直した。
それが合図なのか、給仕たちが朝食を運び入れた。
朝食は大変素晴らしく、長らく宿屋で過ごしてきたヴィオラには、誰かと囲む久しぶりの朝食となった。
最後にゆっくりとお茶を飲み、食事の礼を言うと、ヴィオラはひとまず部屋に戻った。貴族の朝とはなんと優雅なものなのだろうか。朝は王様のように。という言葉を本気で実感するのであった。
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