第399話友達の友達はみんな友達。

 『模索模索』幹部の福岡軍紀事務所兼溜まり場にて。


「かなりの所帯になってんだなあ」


 別室に集まった間宮、軍紀、慈道の三人。


「そうだな。中山、比留間、鹿島んとこの兵隊で使えそうなのを俺の下に入れたからなあ」


「今田ってのは」


「ああ。しの、中山んところのナンバーツーだったか。所詮は中山の下だ。兵隊どまりってとこかな」


「ふーん」


 興味なさそうに間宮が言う。


「それで間宮さん。今日集まったのは」


「ああ。それな。状況の確認と今後の話な。まずは伊勢さんが『身二舞鵜須組』のかしらになるって」


「間宮よお。俺ぁヤーさんのことはよく分かんねえんだわ」


 軍紀の言葉に慈道が反応する。


「おい。古参の幹部か知らねえが俺らの頭だろ。なに呼び捨てしてんだよ。俺みたいに『さん付け』しろや」


「あ?なんだてめえ。新入りのルーキーがナマ言ってんじゃねえよ。泣かすぞ」


「やめろ」


 間宮の一声で納得はせずとも黙る軍紀と慈道。そして間宮が続ける。


「慈道。軍紀は俺とは長いんだよ。椅子取りゲームにもしっかりと結果を出してここに座ってんだ。軍紀もだぜ。慈道は俺とタイマン張って付き合いはみじけえけど俺が認めてここに座ってる。昔から言うだろ。『友達の友達はなんとやら』ってよお」


「ちっ。わあーったよ。でもいいか。慈道。おめえが根性あるのはよおーーーーく分かったからよお。俺ぁ、いろんなもんを選ばねえで間宮を選んでここにいんだよ。その意味を頭に叩き込んどけや」


「あんたはあの三原や江戸川、天草よりもつええのか」


「まーだ言ってんのか。お。だったら今ここで試してみるか。慈道さんよお」


「やめろつってんだろ。慈道。頭下げろ」


「すいません」


「これでいいか。軍紀」


「ちっ。ガキじゃねえんだよ。学級会じゃねえんだからよ」


 そう吐き捨て、軍紀がタバコを咥え火を点ける。


「じゃあ続けるよ。伊勢さんが『身二舞鵜須組』のかしらになるって。あれ。さっき言ったっけ」


「言ったよ」


「じゃあ軍紀が謝れよ。おめえが変なこと言うから同じこと二回言っちゃったじゃねえかよ」


「はいはい。すいまてーん」


「それで今までは伊勢さんと連携してやりたい放題やってきたわけだけど。それは『蜜気魔鵜組』の組長としての伊勢さんとってことだ。それが今度からは『身二舞鵜須組』の看板がこの街に入る」


「どういうこと?」


「『身二舞鵜須組』組長の関谷さんの直轄になるってことだ。関谷さんてのはあの小泉さんの上だ。専門用語でおやじ?であってる?」


「合ってますね」


「慈道は『身二舞鵜須組』のところで不良やってたから関谷さんのこともよく知ってんじゃねえの」


「そうですね。まああのとおりです。イケイケの武闘派ながら計算も出来る人です」


「つまりはこの街のヤクザ屋さんである『蜜気魔薄組』から始まってその上の『身二舞鵜須組』まで俺らも上ったわけだ。それでこれからの話。『身二舞鵜須組』の上。『土名琉度組』のシマにこれから入ろうと考えている」


「また同じことを繰り返せばいいのか?」


「そうなるかなあ。上にいけばその下には半グレや不良がいるだろ。それをまた潰していく。まあ『土名琉度組』の上はあの『血湯血湯会』だ」


「でもそう簡単な話ではありませんよ」


「なんだよ慈道。これから頑張っていこうねって時によお」


「その『土名琉度組』の下の半グレが問題です。『値弧値弧會』の存在です」


「『値弧値弧會』…。なんか聞いたことあんなぁ」


「軍紀。『値弧値弧會』は『血湯血湯会』同様全国に名を馳せる不良たちの集まりだよ」


「あー。あの『値弧値弧會』か。そりゃあちっとうるせえかもな」


「そう。あそこには不良外人も多い。ヤーさんよりもそっちを取り締まれよなって連中も多い。それらの勢力をきっちり抑えてるのが『値弧値弧會』。それにあそこには『藻府藻府』OBがいる」


「確か…、京山さんの上の上だっけ」


「そう。七代目『藻府藻府』。ったく。引退してまで不良すんなよなあ」


「京山さん?ですか」


「慈道は知らねえか。京山さんは俺や軍紀の先輩で今は『肉球会』所属だ」


「『肉球会』ってあの」


「『肉球会』は『肉球会』だろ。他にねえだろ」


「じゃあ次は遠征かよ」


「いや。その前に地盤固めだ」


「地盤固め?」


「ああ。こないだチラッと中山のツラを見かけた」


「え?そうなの。なんでその時しめちまわなかったんだよ」


「いろいろあってね。『たぴおか』って知ってるか?闇金屋さんの事務所だ」


「知らねえ。そこに中山がいんのかよ」


「どういう経緯かは分からねえけどそこにいたのは確かだよ」


「あいつ一人殺っちまうぐらいすぐだろ。慈道。いや慈道さん。頑張ってくれ」


「ご指名だ。慈道。やるか」


「はい。やらせてください」


「それよりよお。ここにいねえ奴はなにやってんだ」


「世良のことか」


「あいつ以外いねえだろ。それこそあいつにやらせればいいんじゃねえの」


「あいつは別格なんだよ」


「んだよそりゃあ」


「世良は一人で天草と三原をぶちのめしちまった。三原なんか舌切られてよお」


「なに?」


「あの天草と三原を…」


 間宮の言葉に驚く軍紀と慈道。


「そうだよ。あいつにかかりゃあ天草も三原も子供だ」


「世良ぁ…」


「世良…」


「あいつは今いろいろと忙しいんだよ。慈道。いいな」


「はい」


 ここで間宮がまだ知らなかったことがある。それは『ケンカで負けと引き分けのない男』が今の「たぴおか」にいることである。

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