第381話それな
「そうなりよ。どっかのなんちゃってオタクと違ってつねりんはよく分かってるなりねえ」
「でもあいつは…。兄貴を間宮にやられてから姿を見せてねえって聞いてるけど」
「つねりんの心を癒すだけの力が『ありすしDXバージョン』にはあるのが分からないなりか」
「いや…、まあ…。で、どうだった?あいつ」
「そうそれな。それな」
田所が最近覚えた「それな」を連発する。ちなみに「それってあなたの感想ですよね」にも感激し同じようによく使っている。
「まあいつものつねりんとは違ったなりね」
「だーかーらー。どう違うかを聞いてんだよー」
「それな」
「うーん…、なりねえ。やっぱり実のお兄さんを大事な友達にやられたことで混乱してるのはあるなりねえ」
「混乱かあ…」
「それな」
「たなりんはお兄さんがいないからつねりんの気持ちはやっぱり分からないなりからねえ」
「あ?たなりんの兄貴はいるだろうが。飯塚さんだよ」
「それな」
「あ…、なり」
「たなりんには飯塚さんという立派な長兄がいるだろうがあ。その飯塚さんも間宮に直接的ではないにしても今は病院の上だ。それをどう思う」
「それな」
「うう…、なり。飯塚さんは大事なり。でも…」
「あ?間宮も大事ってかあ?」
「それな」
「うう…、なり。間宮君も大事なり…。どっちかを選べと言われても困るなりよ…」
「あのなあー。たなりんは間宮の本性を知らねえだけ」
「それな」
「だいたい間宮も大事ってのが分かんねえよ。あんなキチガイのどこが大事なんだよ」
「それな」
「それは宮部っちと間宮君の関係の話なりよね。そもそも宮部っちはつねりんともそんなに仲良くしてないなりよ」
「あったり前だろ。あいつは間宮とつるんでんだよ。敵の味方を味方って言えるかよ」
「それな」
「だからそれは宮部っちの理屈なりよ。飯塚さんはつねりんに助けて貰ってるなりよ。それは冴羽君にエコ君もなりよ」
「う…。まあそれは確かだけどよお」
「それな」
「じゃあ宮部っちは『ありすしDXバージョン』と『れびーたん』のどちらか一つを選べと言われたら選べるなりか?」
「う…。そ、それは…」
「それな」
「いや、田所さん。そこは使い方間違ってますよ」
「それな」
「ほらなり。迷うなりよ。即答出来ないなりよね。じゃあ『れびーたん』と『あるらきゅうへいあおい』と『みるくてー』のどれかを選べと言われたらどうなり」
「うう…」
「それな」
「いや、田所さん。俺は『うう…』しか言ってないすよ。それなの使い方間違ってますよ」
「それな」
「そんなに迷って即答出来ないなり癖に『ありすしDXバージョン』の発売日を忘れてる時点でそれは罪なりよ。説得力ゼロなりね」
「だーかーらー。それは悪かったって」
「それな」
「つねりんも迷ってるなりよ。そしてどれか一つを選ぶことが出来ないでいるなり。お兄さんのことも間宮君のこともなり。だから同じぐらい大事な飯塚さんが今回こうなったことにも傷付いてるなり」
「どういう意味?」
「それな」
「選べないってことは迷っても決められないってことなり。その時点でつねりんは『友達』に一番とか二番をつけない奴なり。この人とこの人だったらこっちの人が大事、じゃあこっちの人とこの人ならこっちなりって決められる人は逆に冷たいなりよ」
「ま、まあ。たなりんの言うことも分かる」
「それな」
「つねりんは言ってたなりよ。宮部っちも根はいい奴なりって」
「あ?」
「それな」
「いやいや。田所さん。ちゃんと話聞いてます?」
「草」
「いやいや。それも違ってますから」
「ぴえん」
「それは…合ってるか」
「ほお…。ウチの看板より『肉球会』の看板の方がつええと」
「看板じゃねえよ。おめえらヤクザはすぐに看板でケンカしたがるみたいだけどね。言葉通りだ。『血湯血湯会』より『肉球会』の方がつええと俺は思ってる。その考え方は今も変わらねえ」
「そういうことだ。その『血湯血湯会』の枝のお前ら二人なんざあ眼中にねえってことだ」
伊勢が再び拳銃を構える。
「まあ伊勢さん。もう少し待ってよ。蜘蛛の糸だよ。蜘蛛の糸。俺さあ。昔『ロシアン缶コーヒールーレット』ってくだらねえことをよくやらされてたのよ。用意された缶コーヒーの一つにだけ痰が入ってるってのを。かーっぺってやつ。あの痰だ。黒いコーヒーなら缶じゃなくてプラスチックのやつでも中身が見えねえのよ。な、くだらねえだろ。伊勢さん。拳銃貸してもらえる?」
「あ?」
そして手に持った拳銃を間宮に渡す伊勢。そしてそれを受け取った間宮がリボルバーから弾をすべて掌に落とし、一発だけ込める。そして言う。
「本物のロシアンルーレットといこうか」
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