第379話めでたしめでたし
「おい小僧。ひとつええか」
「なんすか」
「おい!裁判長は俺だ!なにか言いたいことがある時ゃ俺を通せえ!」
テンションの上がった伊勢が関谷へ叫ぶ。構わず関谷が言う。
「ひとつだけどうしても解せねえことがあってな」
「関谷ぁ!俺の言うことが聞けねえのかあ!」
手にした拳銃を関谷へ突き付ける伊勢。
「伊勢さん。待ってください。関谷さん。なんすか」
「お前は半グレの頭やろ。伊勢と列組んでるのも分かる。それならなおさらや。薬のシノギにごじゃごじゃ言うたり、お前あれやろ。前に結構なブツをトイレに流したそうやな。お前、薬を目の敵にしてねえか」
地獄を見た間宮の言葉が詰まる。
「どうした。言えねえか。お前は薬物撲滅キャンペーン支持者か。ヤクザにもなれねえ半端もんが正義の味方気取りか」
ここで間宮が答える。
「ヤクザにもなれねえ半端もんが正義の味方気取り。あながち間違ってねえんじゃねえの。あんたぁ、言語化能力が高いかもね」
「ありがとよ。まあお前に褒めて貰っても一ミリもありがたくねえけどな」
「本物の極道はいいっすねえ。ここで死ぬって分かってても弱さを晒さねえ。さすがっすよ。関谷さん」
「じゃあ伊勢裁判長にも聞いとこうか」
「なんだあ?心してくっちゃべれよなあ。それがこの世での最後の言葉になるかもしれねえからなあ」
拳銃をちらつかせながら伊勢。
「先代の若林殺しはお前だろ」
「ああ?」
「お前んとこの先代の若林を殺したのはお前の絵だろ。お?伊勢裁判長さんよお」
「関谷ぁ」
伊勢が関谷の髪の毛を掴む。顔を思い切り近付ける。そして言う。
「状況でモノ言ってんじゃねえぞ。証拠はあんのか?あ?」
「証拠だあ?ち、くせえ息吐きつけんじゃねえよ。若林が死んで得するのはお前だろ。今一番いい思いをしてるのもお前だろ。だったらお前しかいねえだろ」
「せーきーやー。コナン君ばりの推理のつもりか?あれは『肉球会』の仕業なんだよお。あそこの神内にもその件で宣戦布告しとる。先代の敵討ちは今も現在進行中だぜえ」
「てめえの下手な絵なんぞ本家はとっくにお見通しじゃ。俺をここで殺してもてめえの寿命はそう長くねえ。近く釈明のテーブルにつくことになる」
「あああああああああ?そうかああああああ!だったら全部ひっくるめててめえがあの世に被っていけやあああああああ!」
キチガイ状態の伊勢がそのまま拳銃を構える。それを急いで慈道が止める。
「離せ!離さんかい!ボケがあ!」
「伊勢さん。落ち着きましょう」
「間宮ぁ!俺はお前の言葉で踊ってきたぜ!だがなあ!俺はお前の手下でもなんでもねえんだよ!命令すんじゃねええええ!」
「伊勢さん。俺が言ってんすよ」
間宮が伊勢を睨む。間宮のひと睨みで落ち着く伊勢。この場にいる人間が間宮と伊勢の上下関係を理解する。そして言う。
「若林さんを誰が殺ったとかそんなに大事っすか?」
「てめえら半グレにゃあ分からんだろうが極道の世界で親殺しはもっとも許されねえことなんだよ。なあ伊勢裁判長。ソロバンヤクザのてめえでもそれぐらい分かるよな」
「だからあれは俺じゃねえよ」
「てめえの手ぇ汚さずともってか。半グレの責任もてめえにあんだよ」
「被告の発言はそれだけか?」
「ちっ。勝手にしろ」
関谷が座っている椅子に背中を預けて反り返る。
「じゃあ伊勢さん。あとは俺が仕切りますよ。関谷の親分に小泉若頭。蜘蛛の糸は一本だ。その一本は垂れてます。どっちが上り切るか。それは俺にも分かりません。俺の占いはよく当たるって言われるんすけど今回ばっかりはちょっと見えないっすねえ。読み上げます。『身二舞鵜須組』若頭である小泉被告は面倒を見ている半グレを使い薬を商売としていた。その確たる証拠はすでにその業務を委託されていた組織の長である慈道より提出・確認済みである」
「慈道ぉ!間宮ぁ!ほざいてんじゃねえぞ!」
「被告。異議があるなら最後に聞く。最近急に羽振りがよくなったこともすべてな」
「あれはお前が積んだ金だろうがあ!」
「小泉被告。俺は薬物撲滅キャンペーン支持者っすよ」
「間宮ぁ!」
「叫んでも糸は上れねえっすよ。ああ。めんどくせ。出来レースっすよ。全部。関谷さん。わりいけどあんたに死んでもらうのが一番都合がいいんすよ。と、小泉さんの絵はそれぐらいパーフェクトでしてね。あんたが消えて小泉さんが全部引き継げばめでたしめでたしなんすよ」
「間宮ぁ!」
「なんすか。小泉さん。ここまで来たら腹ぁ括りましょうよ。あんたもてっぺん狙ってる極道でしょ。裁判長」
伊勢が狂気の笑みを浮かべながら拳銃を構え呟く。
「判決、死刑」
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