第357話住友の外交

「それで住友さん。その半グレの間宮ってえのがウチの小泉を担いで俺を?」


「担ぐって言うよりも利用してですかね。間宮にしてみれば自分の言いなりになる人間を探していたのでしょう。いまどき月に三千万も積める半グレなんて聞いたことありませんが」


「そりゃそうだ。ウチが面倒見てるガキらでも二十や三十。〇の数が二つ違う。そもそもその間宮ってのはそんなに稼ぐんかい。オレオレやカジノでも手広くやっとるんかい」


「いえ。巧妙かつ悪魔的な方法です。表向きにやってる商売はぼったくりバーにキャバやガールズバー、それから会員制のデリヘル。もちろん所轄に届出をしてない違法デリです。他にもいろいろとやらせてるようですがオレオレもカジノもやってません。今の主流であるそれらをやらずに稼いでます。そのからくりが違法デリでの『逆盗撮』です」


「『逆盗撮』…?」


「はい。顧客の中で医者や大学教授、地元の議員など金を持っていて地位や名誉を気にされる方をターゲットにしてその行為を盗撮し、その動画をネタに強請るのが間宮の組織である『模索模索』の大きな資金源です」


「なるほどなあ…。先生方は変態が多いのをよお分かっとる。それに他人はどうでもいいが自分は死ぬほど可愛いと思っとる人種や。多少高額でもそれは払うやろ」


「おっしゃる通りです。それが世に出てしまえば一生消せません。デジタルタトゥーとして残ると考えれば怖くて要求に応じるでしょう。小泉さんの三千万にしてもそういう先生を十人集金で回れば払えるんでしょう」


「ボロイ商売やのう。今度ウチも考えるか」


「関谷」


 ここで黙って話を聞いていた近藤が釘を刺す。


「すいません。それで」


「シャブでのシノギに関しても小泉さんは嵌められたように見えますね」


 ここで事実とは異なることを住友が口にする。『身二舞鵜須組』がシャブをシノギにしているのは火を見るよりも明らか。ただそれを口にするとまとまる話もまとまらない。ここはグレーにとどめておく。


「嵌められた?それはどういうことや。そもそも上から『薬物はご法度』とつよう言われとりますよ。ウチもそれは徹底させてるんで」


 白々しく返事をする関谷。


「ラインってあるじゃないですか。どうやら小泉さんはそのご自身のラインを乗っ取られたようです」


「ラインを乗っ取られた?」


「はい。小泉さんの携帯からではなく外部の携帯で小泉さんのラインアカウントを操作できるそうです。少なくとも間宮はそういう類の技術を使ったのは明白です。そして間宮が考えたのは事実の捏造です。小泉さんの知らないところで小泉さんのラインアカウントから『シャブの売買の指示』が送られていたら。第三者がそれを見れば小泉さんが釈明のテーブルについたとして。まず黒と判断されると思います」


「それがホンマの話やったらそうなるわな。ちょっと機械に疎いんで想像出来んけどなあ。今の携帯はセキュリティも高いと聞いとるし、俺でさえもスマホを開くんにもいちいちパスワードやら指紋認証やら顔認証やらあるけどなあ。だいたい人の携帯を第三者が操作出来たらなんでもし放題やろ」


「今回の件はラインアプリ限定での話と聞いてます」


「聞いてます?『肉球会』さんにはそういうのに詳しい人間を抱えとるんかい」


「外部スタッフと言いますか。抱えているとはちょっと違いますが」


「まあええ。それで」


「間宮は階段を上っていると表現すれば早いでしょうか。最初に『蜜気魔薄組』さんの若林さんにとり入り。そして伊勢さんにとり入り。『蜜気魔薄組』さんと列を組んで次に『身二舞鵜須組』さんを小泉さんを利用して自分の支配下に入れる」


「ちょっと待て。ウチがたかが半グレごときに食われるちゅーんかい。住友さんよ」


「そうです。間宮にとって三千万を渡す相手は貴方でもよかった。機械に疎い人間を狙って的確に弱点を突いてくるのが間宮です。事実、ウチも強請られている先生方に接触してなんとかお話を聞いてもらっても誰一人としてお話に応じてもらえないのが現実です。組織の力をあげてお守りすることを約束すると言っても信じて貰えません。その間宮にウチの人間が一人アイスピックでメッタ刺しにされましたがそれでも奴をのうのうとのさばらせてるのが現実です。間宮は今ここで叩いておかないと。火種のうちなら消すことは簡単です。燃え盛る炎になったら消すことは容易ではありません。そういうことです」


「それで」


「まず混乱を避けるためにそちらの小泉さんの身の潔白を保証することが大きな目的でした。今日はそれをお伝えすることが出来たのでよかったです」


「その件に関しちゃあ礼を言うとく。ありがとよ。住友さん」


「いえ。こちらこそこんなものの話をしっかりと聞いていただき感謝してます。二つ目に間宮が抱えている爆弾です。先生方は堅気です。その件はウチの『外部スタッフ』が慎重に爆弾のコードですか。それを一本ずつ切断してます」


「つまりその件は荒立てるなと」


「はい。こちらで責任を持ってやりますので」


「それで間宮が三千万か。それを払えんようなったら」


「それは間宮と小泉さんとの話になります。その時はお任せします」


「三千万は魅力的やで」


「関谷」


「すいません。まあええ。住友さんの顔を立てましょ」


「ありがとうございます」


 話は詰めの段階へと進む。

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