第345話あんた流行のBLってやつ?
グアチャーーーン!
強烈な間宮のかかと落としが世良兄の机の上のノートパソコンを派手にクラッシュさせる。
先代京山の教えの一つ。
『相手のホームグラウンドでケンカする時は相手の大事なものを狙え』
家に乱入されて高価そうなものを破壊されまくるとそれを守ろうとする。暴れまくるとそれにヒットする。ヒットしたら相手も顔に出す。そこを徹底的に狙う。間宮は世良兄を攻撃しながら避けられても何かしらを敢えてぶっ壊すように動く。当然、世良兄もそれにすぐ気付く。世良兄の意識は攻撃を避けながら攻撃を繰り出すことともう一つの考え、『監禁部屋に隠してあるスタンガンなどの拷問器具を上手く取り出すこと』を考える。オシャカになったノートパソコンを掴んで間宮へぶん投げる。避けるには右にかわすしかない。そこに蹴りを合わせる。先を読みながらの攻防。
「はっはあー!」
ぶん投げたノートバソコンを避けずに右掌を広げて払いのけながら間を詰めてくる間宮。空中二弾蹴り。初めて間宮の攻撃を体で受け止める世良兄。
(エンジニアっ…)
二発目を敢えて体を前にして間宮との間を詰める世良兄。エモノにだけ細心の注意を払いながら顎を狙った掌底を繰り出す世良兄。それも掌を広げパシーンとはたき落とす間宮。その童顔で可愛らしい外見からは想像出来ないパワーと素早さ。冷静でありキチガイ。相手を舐め切ってる普段は見せない相手を捉えて決してそらさない目力。こういう奴は本当に相手にしたくない。心からそう思う世良兄。人間は二種類いる。人を殺してテンパる人間と冷静でいられる人間。こいつは冷静どころか笑いながら死体をいじくるタイプの人間だ。そんなことを思いながら近くにあったクリスタルの灰皿を手にする世良兄。
「こんなケンカを大人になってまでするとはな。考えてもみなかった」
咥えタバコのまま世良兄が言う。
「その割には余裕だね。ただのアウトロー気取りの金持ちと思ってたけどちょっとはやるじゃん」
間宮の言葉の間に咥えていたタバコを吐き捨て、片手で新しいタバコを取り出し咥え、火を点ける。
「五年前か。六年前か。記憶ってのは曖昧なもんだな。ただ感覚は鮮明に覚えている。お前のケンカは京山に似てるな。あいつとやった時もこんな感じだった」
「あ?あんた京山さんとやったことあんの?」
「ああ。京山に聞いてみろ。『藻府藻府』時代にステゴロタイマン勝負で一番苦戦したのは誰でしたかってな」
「それがお前だってのか。悪い冗談だ。笑えねえよ」
そのまま世良兄との間を詰める間宮。世良兄が頭の中で次の手を予想する。チョーパンか。右拳か左拳か。足か。掴んでくるか。近距離での右手。この距離で拳はあり得ない。世良兄の頭が弾き出した考えで体が動く。反応ではない。動きである。自分のわき腹へと迫る間宮の右手の手首を左手に持ったクリスタルの灰皿ではたき落とす。
「つっ!」
そのまま重いクリスタルの灰皿を発泡スチロールを持っているかのような重さを感じさせない速さで間宮の顔面へと加速させる世良兄。間宮がスウェーしてそのまま後ろへ跳ぶ。間宮の右手にアイスピックが握られているのを確認する世良兄。そしてタバコの煙を吐きながら言う。
「お前がそういう奴だってのは知ってる。お前、本当に京山の後輩か?あいつは強かったぜ」
「よく喋るなあんた。俺にゃああんたから強さは感じねえ。ただの嘘つき野郎としか感じねえなあ。村人A」
そう言って間宮が右手に持ったアイスピックを正確に世良兄の顔面目掛けてぶん投げる。それを避けずにクリスタルの灰皿を動かし盾にする世良兄。その刹那。世良兄の視界、捉えていた間宮の姿とクリスタルの灰皿が重なる。それを期待していた間宮がもう一度俊敏な動きで世良兄との間を詰める。加速する反動を活かした左拳。それも冷静に左手に持ったクリスタルの灰皿で防御しようとする世良兄。勢いのついた左拳を寸でのところで拳を開いてパーにして掌底に切り替える間宮。それも想定済みと間宮の掌底にクリスタルの灰皿の側面を合わせる世良兄。同時に間宮が右手を動かす。体の前で手をクロスさせるように右手で間宮の右手首を掴む世良兄。そして目視。体の寸前で止めた間宮の右手には二本目のアイスピック。世良兄が間を置かずに左手に持ったクリスタルの灰皿で間宮の顔面を狙う。同時に間宮も世良兄の金的を右手首を掴まれた状態で上半身をスウェーしながらクリスタルの灰皿を見切りつつ膝で狙う。膝でそれを防御する世良兄。そして渾身の力で掴んだ右手首を横に振る。が、間宮の踏ん張る力が想像以上に強い。そしてすぐに右手首への負荷はかけたままで足払いを仕掛ける。体のバランスの応用。踏ん張る力が強いほど足技で簡単に態勢を崩せる。普通の人間なら簡単に転がせる。背負い投げを後ろに体重をかけて踏ん張っている相手に体を後ろにポンっと軽く押せば足を引っかけるだけで簡単に転ばせることが出来る。その応用である。足払いと同時に掴んだ右手首の力を抜いてやる。転ぶはずの間宮は転ばない。バランスも崩さない。次の一手。間宮が仕掛ける。世良兄の顔面目掛けて唾を吐きかける。世良の頭が弾き出す。避けるのは悪手。目を開けたまま間宮の唾を顔面で受け止める世良兄。当然、目にだけは入らないよう顔は多少動かす。唾が顔にかかるより間宮の誘導に乗る方が危険であると本能で理解している。
「あんた流行のBLってやつ?顔面シャワーは俺にゃあ無理だわ」
間宮の言葉の挑発。
「俺はそれを金に換えてんだわ。お前もウチの店で働くか。おしゃぶり上手じゃなけりゃあ売れっ子にはなれんがな」
そう言ってタバコの煙を間宮の顔面へ吐き出す世良兄。頭の中で次の行動を計算し弾き出しながらクールなキチガイと対等に渡り合う。
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