第339話世良義正が生きてきた世界の現実(リアル)

「他にはなんだ。『ぼったくり』系に『詐欺』系。いろいろやってんだろ」


 タバコを咥えたままノートパソコンを叩く世良兄が言う。


「いろいろありましたが上納って概念で一番手っ取り早く稼げる『逆盗撮』になっちゃいますかねえ」


「そんなに稼いでんならラブホごと買えばよかったのにな。その方が盗撮し放題だろう」


「え?ラブホごと買うんですか?」


「ああ。今はラブホも既得権か。まあ作るより買った方が早いし安い。ぼろいラブホなんかいくらでも売りに出てるだろう。それを買って改装すんだよ。マジックミラーってあるだろ」


「それってまさか…」


「昔な。ラブホでふざけて灰皿かなあ。灰皿を投げて部屋のガラスを割っちまったカップルがいたのな。そしたら割れたガラスの向こうに空間があってな。まあ人が三、四人はゆうに入れる空間だ。そのカップルがフロントに電話して事情を説明したら一時間後にはカップルの前で責任者が土下座しながら一千万の札束だ」


「それって…、鏡の向こう側で…」


「ああ。週末の夜にでも『お楽しみ会』を開いてたんだろ」


「怖いっすねえ…。でもそこまでの考えはなかったですね」


「『詐欺』系にも『ぼったくり』以外にもいろいろある。まあ『ぼったくり』の線引きは難しいが。『パチンコ・競馬』の必勝法商材の類、『在宅ビジネス』の類。『出会い系の商材』なんかもそうか」


「いろいろあるんですね。でもそれって儲かるんですか?」


「儲かる。確実にな」


「そうなんですか。詳しいっすね。実際にやってたみたいっすね」


 世良が煙を吐き出しながら再度、忍の方へ視線を移す。


「ああ。全部やってた」


 パチンコや競馬の必勝法の商材詐欺は古くから存在する。専門誌に高い広告を打つだけで客は掴まる。もともと常勝は不可能であるギャンブル。ギャンブルにはすべて『控除率』という言葉が存在する。スロットなどでは設定で機械割りが決まっている。設定1で大体96パーセント前後。設定4から機械割りが100パーセントを超える台が多い。機械割りが控除率と同じ意味を示す。一日に十万円突っ込んだ台が機械割りが96パーセントの設定1なら九万六千円が戻ってくる計算になる。それだけを聞くと『え?安くねえ。もっと負けるだろ』と感じる。実際にはスロットは一ゲームにコイン三枚、一枚二十円で六十円を使う。そして一日に回せる回転数は9000ゲームを超えるほどである。60×9000で五十四万。五十四万の96%は五十一万八千四百円である。その差二万千六百円。それもメーカー公表の数字でそれである。子役取りこぼしをすればするほど機械割りは下がる。現実のホールではオール設定1(ベタピン)に数台設定4を混ぜるのが基本である。設定4でも設定6の挙動をすることもあるし設定1の台でもサンプルが少なければ設定6の挙動を見せる。一日のサンプルで設定を見抜くのは不可能に近い。パチンコは釘という『設定が目に見える』概念がある。それでも素人や常連レベルでは釘読みなどしない。データを見る。パチンコで過去のデータを見ても一ミリも意味はない。確率が決まっているパチンコ台は爆連した直後だろうと大ハマりをしている台だろうと確率は変わらない。ただ人間の心理がそれを大きく変えてしまう。パチプロやスロプロが存在するのは一日単位で勝利を求めないからだ。彼らはサンプルを積み重ねる。319分の1で大当たりするミドルスペックの台もサンプルが十万回転ほど集まれば確率は収束する。一か月ではそんなサンプルは集められない。体感機(固まっている大当たり乱数の周期を体に伝える機械)は今の時代通用しない。対策がされている。それでもそういう商材が売れるのは人間心理を巧みに突くからである。公営ギャンブルはもっとエグイ。胴元である国が20%以上を獲り、残りを勝ったもので分け合う。競馬や競艇で食っているプロは存在しない。ただ単年単位で年間収支が黒字になることはある。その事実が人間心理を巧妙に突く。時間のある主婦などが狙われるのが『在宅ワーク詐欺』である。そういうターゲットとなる人間は「パートなどで時間が拘束されるのは嫌。楽に家で空いてる時間にやれる仕事はないか?」と探してその餌食となる。主に通販のホームページを作ってやることから始まる。その為、最初に二百万円ほど初期費用を請求する。楽に稼ぎたい主婦は旦那に黙って消費者金融からその金を借りる。その手ほどきもすべて詐欺会社の人間がしてやる。



「田所さん!ダメですよ!たなりんに蹴られますよ!」


 抱き枕に抱き着こうとしていた田所に気付き、宮部が急いでそれを止める。

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