第328話小売りします…、距離を…、『ペヤング』までの距離を…

「瀬和さん」


「ん?なんだ」


「指名ランキング上位の女の件なんですが」


「誰だ」


 世良兄はそれぞれの店の店長クラスとは直で話す。スマホから聞こえてくる声に耳を傾ける。


「マイです。管理はしっかりしていたつもりなんですが。出勤が最近極端に減りまして。とうとう店を辞めると言ってきました」


「そうか。別にランキング嬢が退店するのはよくある話だが。…引き抜きか?」


「いえ。それはありません。調べたら客でした」


「客か…。ちっ」


 風俗業界では店の人気嬢が客とデキてしまうこともたまにある。そうなると引退、結婚となるケースも多い。


「ほっとけ。どうせ旦那か。まあクソ客か。そいつにバレないよう業界に戻ってくるのが関の山だ。戻りやすい環境だけは作っておけ。連絡も無理に取ろうとするな」


「はい」



「慈道」


「はい」


「お前も商売で女扱ってたろ」


「そうですね」


「デリヘルとかやってた?」


「いえ。ガールズバーやそういう飲み屋のぼったくりが一番効率よかったですんで。そっち系ですね」


「それじゃあ今田からノウハウを聞いてくれ」


「はい」


「それから今田にもこっちから伝えとくがこれからはちょっとやり方を変えていくとな」


「分かりました」


「今までは『逆盗撮』、上客のカッコいい動画を撮ってそれを金にしてたがさらに効率よくやりたい」


「エグイですね」


「儲かんだよ。それより風俗嬢を店外に誘う野郎はごまんといる。それを利用したいと思っている」


「といいますと」


「まずは店の女、別にお水の女ならキャバ嬢でもいい。アフターでも店外でもいい。どんどん客と店を通さずに体の付き合いを持たせるよう動け」


「店を通さずにですか?それって客にとってはタダマンし放題の理想ですよね」


「ああ。それを利用する」


 お水の女を自分の女にする。イコール『タダマン』し放題を意味する。これがどれだけ『諸刃の剣』であるか分かっていない客が実に多い。間宮はそれを利用する錬金術を考えた。『タダマン』し放題のビッチだろうといずれ『飽きる』時が絶対に来る。そこで別れるのは結構な問題である。なにしろ女は甘い言葉に乗せられて店からの収入を捨てて、その男専用『便器』に就職するわけである。そこで『飽きたから』といって別れの言葉を持ち出すと女は急変する。愛憎不倫劇も子供番組に見えるほど女は鬼と化す。刃物を持ち出す。包丁を握る。そしてそれを『自分に』突き刺す。自らの腹を刺す女。手首を切るのはざらである。眠剤の大量服用。そんな鬼と化した女と無事別れるには『大金を積む』以外方法はない。そうなってからでは時すでに遅し。女は自宅の住所から連絡先、職場の住所、職場の電話番号とすべてゲットしている。職場に乗り込まれ、自分の名前を大声で叫ばれながら『私は〇〇におもちゃにされたんです!』と自分の腹を刺す。しかも刃先5ミリほど。それで充分出血もするし、救急車も出動する。腹を5ミリ刺せば腸が出る。そして運ばれた病院へ見舞いに行くとニコニコしながら言う。


「あれって嘘よねえ。別れるわけないよねえ。結婚してくれるって約束したわよねえ。奥さんと別れるって言ったわよねえ。全部録音してるから」


 こうなると男は五百万だろうと一千万だろうと喜んで積む。それで悪夢が終わるならと。


「メンヘラがいい。特にいい」


「はは。エグイですね」


「そうか?俺ならそんな女、顔面陥没させて終わりだけどね。お前もそうじゃねえの?」


「さすがに…ですね」


「へえ。慈道。お前ってフェミなんだ」


「なんですかそれ?」


「キチ〇イ」




「では他に企画のある人」


「はいなり」


「はい、たなりん君」


「『いりゅーじゃんのメルマガとワン特区のメルマガはどっちがなりふり構わずか検証してみた!』はどうでしょうなり?」


 あ、どっちも新作発売間近にはメルマガラッシュになるよねと思う飯塚。


「うーん。分かりにくいので却下です」


「はい!」


「はい、田所さん」


「『ペヤングまでの距離を買ってみた!』ってのはどうでしょう?」


「はい?」


「ほら、あるじゃないですか。『お売りします。距離を。セザンヌまでの距離を』。それのペヤング版っす」


「却下です」


「ちょ!待ってくださいよ!話だけでも聞いてくださいよ!」


「じゃあ説明だけでもどうぞ」


「いろんなところに『ペヤング』を置いてですね。その『ペヤング』までの『距離』を売るんです。『小売り』で。小銭で橋を作ってもセーフなんです!落ちなければ」


「却下です」


「ちょっとお!」


 そこから企画会議はさらに加速する。

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