第323話夢中でー♪頑張る君にー♪AVをー♪

「警察署には留置所があってな。まあ一晩泊ってけってやつだ。二十日間泊まる場合もある。だが所轄によってその留置所ってのがないところも普通にある。他にも留置所はあるが中はいっぱいで入れないって場合もある。そういう時に警察は管轄以外の警察と協力する。まあ事件をくれてやるみたいもんだ。警察ってのは基本、自分らの管轄では事件がないにこしたことがないとの考えだ。大きい事件は面倒だからな。逆に点数はほどほどにノルマがある。留置所がない警察暑の管轄は留置所に空きがある管轄の警察署に依頼をする。当然、手柄を全部渡すわけにはいかないから取り調べは留置所のない元々の管轄の刑事がわざわざその都度訪問してくるわけだ。確か新宿署の留置所は土地柄ヤクザや不良外国人が多い。留置所だけで二フロアあるな。他にも葛飾暑は東京拘置所と足立区が近いんで中国人が多いとかな。まあ、あっちの世界もいろいろあんだよ。…って寝てんのかよ」


 忍の寝息を確認する世良兄。よほどのプレッシャーと恐怖の疲れと睡眠薬という暗示ですぐに熟睡した忍を見て世良兄は口を閉じる。そして新しいタバコを咥える。『長い一日』はまだまだ続く。


 翌朝『タピオカ』に顔を出した山下と見張り役を交代した世良兄はスマホを鳴らす。


「ああ。角田さん。昨日は急に無理言って申し訳ない。今大丈夫ですか?」


「ええ。寝起きですが…。九時半ですね。大丈夫です」


「起こして申し訳ない」


「いえいえ」


「それで昨日はあの後動画の方は」


「はい。住友さんと一緒にあるものはすべて確認しましたね」


 スマホからライターの着火音が聞こえる。


「それで。角田さんから見てどう思いましたか?」


「うーん。どうですかね。まああれがビデ倫のモザイクチェックとかならもっと楽しめたんでしょうけど。素人もの、盗撮ものとしても粗悪な作品ばかりとしか言えませんね。顔が確認出来るとかのレベルではありません。まあ、知り合いだと言われたら確かに『言われてみたらそうかもしれない』って可能性は残りますが。あとは『声』です。『声』だけはクリアですね」


「やはり…『声』は全部クリアに入ってましたか」


「というのは冗談ですよ。安心してください。世良さん」


「冗談ですか?と言いますと?」


「私もあんまりああいった小道具には詳しくありませんが。動画は四種に分けられます。アングルはすべて一緒と思ってください。一つ目が『画質も悪く音声も拾えていないパターン』、二つ目が『画質は悪いが音はクリアなパターン』、三つ目が『画質はいいが音声が拾えていないパターン』、そして『両方クリアなパターン』です。画質が悪いというより髪の毛が青く映ってるとか酷いのが多かったですね」


 安物だと室外では綺麗に撮れるが室内で一気に画質が落ちる。そのパターンである。


「割合としてどうでしたか?」


「身バレしないを目的とするなら八割…、いや九割以上は『安全』レベルだと思いました。ただ一割に満たない『画質はいい悪い含め音声はクリアに拾っているパターン』ですね。『声』は聴けば『言われたら確実にそうだとバレる』ことを意味しますからね」


「そうですか。角田さんが言うんならそうなのでしょう。ありがとうございました。助かりました」


「いえいえ。それよりその後が大変でしたね。『肉球会』の組員の方が気を遣ってくれまして…。私も慣れてないもんですから逆に失礼のないようにと。寿命が縮む思いでしたねえ」


「次の広告の予算枠はいつもの倍付き合いますんで」


 角田の持ってくる求人誌は金をどぶに捨てるようなもんだ。


「あー、ありがとうございます!助かります」


「またお願いしますよ」


 そして電話を切ってからすぐに別の番号に電話する世良兄。住友の携帯である。その間にも頭の中にいろいろが駆け巡る。


(九割以上ってことは大半を抑えた。まだ自分の目で確認するまでは安心できないが角田が言うのだからそうなのだろう。あとは残りの一割近くと臆病な九割をどう説得するか。中山のスマホの音声データだけでは間宮はダメージも受けないだろう)


 じわじわとパズルのピースが形を作ろうとしていく。




「夢中でー♪頑張る君にー♪AVをー♪」


 一方、一人で編集作業をコツコツしていた田所は作業をしながら歌っていた。

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