第304話Payエニシング
「…とまあ今日は散々でしたよ」
「でも『すかいりぶ』は貸してもらったんでしょ?」
「ええ。まあ。たなりんも今日は昨日の今日ってこともありまして。帰って寝た方がいいと病院の後に家まで送って帰しましたが」
「へえー。宮部っちも早く帰りたいのに偉いねえ。『すかいりぶ』プレイしたいでしょ」
「まあ。でもコード買わないとですし。あれってメールで来ますから購入して二十四時間以内でしたっけかな」
今日は三人で企画会議の『組チューバー』。昨夜の『田島公園での死闘』動画もあり。ああでもない、こうでもないと会議が続く。そしてついつい話が横道に逸れる。
「あ、そうだ。宮部っち。たなりんはあれから間宮にラインしたの?」
「いえ。聞いたらまだみたいでした。まあ自分からもやめとけとは言ってますが」
「だよなあ。間宮の小僧にはうちの連中も手こずってるとこありますし。危険ちゃあ危険っすねえ」
「あと、これは別件なんですが。新しい動画の企画案なんですが」
「お、宮部っち。いいねいいね。ファボだよ。いいねだよ」
最近覚えたSNSの言葉を乱用する田所。そして「田所のあんさんのこういう軽いノリって嫌いじゃあないんだよなあ」と思う飯塚。
「それって『組チューバー』用?それとも『族チューバー』用?」
「まあ、どっちでもいいと思います。社会の悪を成敗するシリーズです」
「お!社会の悪を成敗シリーズ!?いいね!ファボファボ!草で大草原で草」
「田所のあんさん。それは使い方間違ってますよ」
「え?そうなの?飯塚ちゃん」
「草は笑いを意味してます。で、宮部っちの企画を聞きましょう」
「いや…、実は…」
そしてたなりんが学校でいじめられてるであろうこと、そのいじめっ子を宮部一人でぼっこぼこにしちゃおうと考えていること、そしていじめっ子どもをたなりんの舎弟にしてしまおうかと考えていることを打ち明ける宮部。
「それはちょっと考えものですなあ。飯塚ちゃんはどうっすか?」
「うーん、田所のあんさんと同じく。ちょっとデリケートすぎると思いますね」
「ダメっすか?」
「うん。頭ごなしにダメとは言わないけど。それって『たなりんの許可』は取ったの?」
「いえ、たなりんは口が裂けても自分らに言いませんので。言えないんだと思います」
「そうかな。だってお守り代わりに『藻府藻府』の特攻服姿の宮部っちとのツーショット画像撮ったんでしょ」
「あ、はい…」
「たなりんが宮部っちの力を借りようと思ったらすでにその画像を使ってると思うよ」
「はあ…」
「でもそれを使わないのはたなりんなりの意地とプライドじゃないかなあ」
「意地とプライドですか…?」
「うん。やっぱり僕や宮部っちとは対等でいたい、いつまでも対等な付き合いがしたいから敢えて頼らない選択をしてるように思うかな。たなりんも『僕のバックはすごいんだぞー』、いや、『すごいなりよー』って言うのがダサいことだって分かってるんじゃあないかな」
「確かに。自分が考えてたことは余計なことかもしれません。でも現実として『ガキの世界』って想像以上に残酷なのも事実ですよ」
「うーん。確かに。いじめから逃げることはカッコ悪くない。むしろ逃げろって風潮もありますからねえ」
「動画で撮る撮らないは別としてその案件はちょっと急ぎで対応しよう」
「じゃあそれ自分に任せてもらっていいっすか」
「それはいいけど…」
「大丈夫っす。『藻府藻府』も使いませんし自分一人で動きます。たなりんの顔もきっちり立てますんで」
「まあそこまで言うなら宮部っちに任すよ」
「あ!じゃあ私の企画案をいいですか!?」
え?田所のあんさんの企画?と思う飯塚。
「はいな。田所のあんさん。どうぞ」
「チャゲアスさんがコンビニに行きました。店員さんにお会計時、『お支払いは現金ですか?』と聞かれスマホを取り出しました。店員さんは『あ、PayPayですか?』と聞きました。さて、チャゲアスさんは何と答えたでしょう?」
いや…、企画なのそれ?と思う飯塚。クイズでしょ?とも思う飯塚。と、同時に、え?なんだろ?とも思う飯塚。
「宮部っち分かる?」
「さ、さあ…」
「ちっちっちっちっちっちっち、ブブ―。タイムアップです。正解は『Payイエス』です」
腰が抜けそうになる飯塚。ポカーンとする宮部。そして調子に乗る田所。
「これがですね。エックスのとしさんなら『Payエニシング』ですよ。ぺーい、えにてぃんぐ♪ぺーい、えにてぃんぐ♪」
殺意を覚える飯塚。あ、田所さんって意外と声高いなあーと思う宮部。
「ダメです。却下です。ユーチューバーは甘くありません。てか舐めすぎです。それは企画というより『なぞなぞ』です」
「えええ…。飯塚ちゃん厳しい…。それじゃあ『セザンヌまでの距離を買ってみた!』って企画もありまして…」
「田所のあんさん。万札を千円札に両替するのは禁止ですよ」
「えええ!何故それを!?」
いやいや、もう田所さんの考えはある程度分かってきましたよと思う飯塚。ひと時の平和な時間であった。
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